第13話:ヘリポートでの激闘
俺と芽依ちゃんがヘリポートに降り立つと、そこには屈強な男たちが待ち構えていた。ここで乱痴気騒ぎに興じている金持ちのボディガードだろうか?
「誰だてめえは?」
どすの利いた声で誰何する。俺はローター音に負けないよう大声で告げる。
俺は手帖を提示する。
「マトリです。今、下で魔向法違反の家宅捜索中だ。誰も退出を認められてはいない。ヘリのエンジンを停止してください。」
「断る。」
「俺はご覧のとおり天使憑きです。術者もこちらには多い。あきらめてエンジンを止めてください。」
ヘリポートににいかにもチャラそうな男たちが4人到着する。おそらく、プールサイドではなく、ホテルの部屋にいたのだろう。
「おい、さっさとヘリをだしてくれよ。」
俺を刑事と認識してはいるものの、我関せずだ。
「現在捜査中です。帰宅は認められません。」
俺の呼びかけにも蛙の面になんとやらだ。
「誰だよお前?八丈島の交番に飛ばすぞ、こら!」
八丈島か、俺がローティーン時代を過ごした硫黄島よりずいぶんと東京に近いや。とりあえず写真は撮っておく。
男たちがヘリに乗りこむと代わりにボディガードが降りてくる。アフリカ系移民だろう。漆黒ともいうべき肌に黒のスーツに黒いサングラス。しかも二人だ。日本人のボディガードが勝ち誇ったように言う。
「術者がお前たちの側だけにいると思うなよ。」
まるで、時代劇の悪役が、雇った用心棒に先生、お願いします、ってな感じだ。
ヘリは2機。おそらく、先にあの男たちを先に脱出させるつもりか。俺の後ろで芽衣ちゃんが6課に報告する。
チャラ男たちが乗ったヘリが1機が飛び立つ。俺たちも追跡のために浮上しようとするが、日本人のボディガードたちが
「ここはお互いに力づくかよ。公務執行妨害だな。」
アフリカ系移民のボディガードが上着を脱ぎ捨てた。鍛え上げられた肉体。逆三角形の逞しい肉体が変化を始める。ゴリラのような強靭な上半身とライオンのように柔軟な下半身。
「契約主はグラン・ブワか?」
呪術系の術者とはBCS戦役で何度も戦った。森の精とよばれるグラン・ブワ。正契約者はカリブ海に浮かぶ島国、ハイチにいるが、妖精憑きがどれだけいるかは知られていない。たいていは術者が自ら思い描いた動物のような姿になる魔法だ。「カンロ」の魔法陣の基礎はこの魔法だったはずだ。
「わたしが行きます。」
芽衣ちゃんが前に出る。
「
芽衣ちゃんがジャンプする。
「
芽衣ちゃんの手が青く光り、グローブに五本の爪が現れる。
芽衣ちゃんの術式は「四神」というもので、魔力を込めた霊石を媒介に移動、攻撃、防御、武器の4つにそれぞれの四神を割り振ってていくものだ。どこに何を割り振るかで戦闘スタイルが変わっていく。
まるでネコ科の動物の戦いのようだ。パワーの差があるため、芽衣ちゃんは
「お前が
もう一人の男が俺に尋ねる。
「かつてはな。もう軍籍は退いた。今はただの一般市民、でもないか。マトリだよ、非正規だがな。」
ただ、俺のコールネームは勲功によって永久欠番になっている。そういう意味では今でも俺は「
「俺の兄はお前に殺された。俺はお前を許さない。そして、バロン・サムディもまた、お前を許さない。」
バロン・サムディ、その名が出た。
「それはつまりバロン・サムディは日本にいる、ということか?契約者は誰だ?」
俺は確認する。しかし、男はその問いには答えなかった。
「これから復讐を執行する。我が名はマックス・ベルフォール。
ベルフォールは拳を振るう。
「
「
俺は人差し指と中指を交差させると発動する九条流のバリアで受ける。受けた左手が跳ね上げられる。
しかしすかさず敵の脇腹に魔弾をゼロ距離で叩き込む。体の表面を硬化しているようで通常弾ではあまり効かないか。
俺が離れようとすると、ベルフォールはすぐに距離を詰める。空中では最強を誇る天使の眷属は地上に降りれば大して役にはたたないのである。
「
ベルフォールの拳がインパクトの瞬間に爆風を起こす。ブードゥーで火と鉄の精霊であるオグンならではの技だ。俺はエンガチョで防ぐも弾き飛ばされる。一瞬だが距離はできた。
俺は魔砲をはなつ。
「
間を詰めて来たベルフォールは一瞬煙幕に包まれ俺を見失う。隙をついて俺は翼を広げて空へと舞い上がる。下から上昇するベルフォールを撃つふりをして牽制してから俺はヘリを撃ち抜く。大きな音をあげながらテールローター部が破壊される。
「
炎をあげる鉄球が打ちこまれる。それをよける。なるほど、飛び道具もお持ちですか。ただ、空戦における天使の能力を侮ってもらっては困る。俺は一回転すると高度を速度に替えてベルフォールに向かって急降下する。いわゆる
「
九条流重力強化拳である。ちなみに九条の爺様の技には全部ダサい名前がつけてある。最近思うには、きっと強い技を覚えても、なるべく使わないようにかっこ悪い名前にしてたんじゃないか、そう思うようになった。
自慢の鉄拳をはじかれてベルフォールは驚いた顔をする。しかし、すれ違ったら再び宙返りして反転し、速度を高度に替えて上昇する。これが「シャンデル」だ。俺はベルフォールの背中を捉えると後ろから魔弾でさらに追い打ちをかける。そう、ドッグファイトで言う後ろを取ったのだ。
「
俺から強大な魔力が漏れる。俺のフィニッシュブローの起動だ。まあベルフォールからすればロックオンされたということだ。
ベルフォールは速度をあげ、急速離脱し、東京方面へと飛び去って行った。まあ俺に空戦に持ち込まれた時点で結果は見えていたのだが。俺は芽衣ちゃんに加勢すべくヘリポートに戻ると、数的不利を理解したもう一人の妖精憑きも離脱した。
「くそ、化け物め!」
罵りながらも日本人ボディガードが投降する。とりあえず課長に応援を要請、とりあえず二人いるボディガードに手錠をかけ、
「これでいっちょあがり、ってとこだな。」
ほっと一息ついた。……それがただの油断だった。手錠をかけ、転がしておれは拳銃があったのだ。しまった、ボディチェックを忘れていた。その銃口が芽衣ちゃんを捉える。
「芽衣!」
俺が芽衣ちゃんを突き飛ばした瞬間、俺は脇腹に衝撃と熱さと激痛を感じた。拳銃の弾はエネルギーを小さな点で標的にたたきつける。弾の口径程度の穴が開くわけじゃない。俺の脇腹から血が噴き出した。
「エノさん!」
俺は倒れながら魔弾【火炎弾】を撃つ。男の手にある拳銃がはじけ飛ぶ。おそらく一緒に指も何本か吹き飛んだと思うが、あとで回復至法でも受けるがいいさ。
「エノさん!」
芽衣ちゃんはパニックに陥っている。俺のそばに来て応急手当て用の回復至法陣を取り出そうとするが手がおぼつかない。体も震えている。
「落ち……着け。即死はしない。慌てずに、訓練通りだ。いつものクールな芽衣ちゃんならできる。一回、大きく息を吸え。」
俺は芽衣ちゃんの手を少しぎゅっと握ってやる。しまった。自分の血がついてた。
「はい……。」
芽衣ちゃんは深呼吸すると、ぎこちない手つきで至法を起動させた。急激に和らぐ痛み。
「芽衣……。
戦闘で魔法力をかなり消費したせいか一気に気が遠くなる。
「今、応援が来ました。大丈夫です。」
「そうか。」
俺はそのまま気を失ってしまった。
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