第4話 お誘い
翌日。
キーンコーン.....
と、放課後のチャイムが鳴り、指揮を取っていた内海拓哉が基礎合奏の終わりを告げた。
「じゃあ各パート片付けが終わり次第今日は解散!みんなお疲れ!!」
たちまち音楽室の空気はほぐれて愚痴や笑い声、椅子を教室隅へ引きずる雑音で飽和し始める。美しい音色だけが存在するが張り詰めた空気の基礎合奏中とは対照的な風景だ。
「ふぅーっ!しんどかったぁー!」
スネアを抱えて額に汗を光らせる花音。
スネアのスナッピーを切るとパンッと小さく小気味よい音が鳴り、それきり中心の黒ずんだスネアヘッドは周りの雑音で揺れるのをやめた。
(沙奈もうクラリネットの部屋に戻ったかな...)
あたりをきょろきょろと見回すと拓海の姿が目に入り、ついついそちらばかり見てしまう。
しかし彼は同級生の女子、トロンボーンのパートリーダーと楽しげに話しており、野暮ったい言い方をするのなら“イイカンジ”であった。
わざとらしく頬を膨れさせてそっぽ向き、何か他のことを考えようとする。
「あっ!沙奈に連絡してあとで合流しなきゃ...」
そう言って花音が携帯を取ると、メールが1通届いていることに気づく。
なんとはなしに開いてみると、
「げ....」
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差出人:naomisahara@mail.com
宛先:canooon@mail.com
件名:やっほー( ^◯^)/
本文:花音ちゃんお疲れ様〜!
昨日あげたお薬、もう使ってみた?
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確かに昨日半ば強引に交換させられた、ナオミのメールアドレスだった。
(...無視!無視!それよりさっさと沙奈にラインしなきゃ!)
少し時間が進み、またいつもの帰り道。
「ねえねえ沙奈、メール、届いてた?」
ナオミのメールのことがまだ胸中に引っかかっていた花音は沙奈に問いただす。
「メール...?」
「ナオミさんからだよナオミさん!『薬使ってみた〜?』って!」
「あっ届いてた!届いてたし......」
「し?」
「えっと、その.....」
「その?」
言葉に詰まる沙奈に雲行きの怪しさを感じ取る。
「えぇ〜〜っ!!??」
夕暮れ時の住宅街のさなかに花音の驚嘆の声が響き渡った。近所迷惑もいいところだが無理もなかった。
「返信しちゃったの!?その後のやりとりも全部!?」
「ごめん.....やっぱり私押しに弱くて......」
「もぉー....沙奈中一の時だってキモめんどくさい男子にしつこく迫られてちょっと折れかけてたじゃん.....ちょっと見せて、まだ断れるかも.....」
「ごめん、本当にごめん........」
「大丈夫、任せて」
沙奈の意志が弱いのは前から知っていたし、甘すぎるところが彼女の長所であり短所である所も花音はよく理解していた。頼もしげに沙奈の携帯を借りると、一連のメールのやり取りを確かめる。
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差出人:naomisahara@mail.com
宛先:sanasana@mail.com
件名:やっほー( ^◯^)/
本文:沙奈ちゃんお疲れ様〜!
昨日あげたお薬、もう使ってみた?
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花音に送られたものと全く同じメール。知りたいのはその先だとばかりに花音はさらに辿っていった。
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差出人:sanasana@mail.com
宛先:naomisahara@mail.com
Re:件名なし
まだです
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差出人:naomisahara@mail.com
宛先:sanasana@mail.com
Re:件名なし
あぁーやっぱり警戒しちゃうよね。しょーがないや!
そうかと思って緊張をほぐすための提案があるんだけどね、私とお客さんとか友達で集まって今日パーティーを開くの。
どうだろう?興味ない?
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差出人:sanasana@Mail.com
宛先:naomisahara@mail.com
Re:件名なし
具体的にどんな人が集まるんですか?
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差出人:naomisahara@mail.com
宛先:sanasana@mail.com
Re:件名なし
あ、コワイお兄さん来るんじゃとか思ってる??笑笑
大丈夫!女の子ばっかりだから何にも怖くないよー^_^
君たちと同じぐらいの子もたっくさんいるからなんなら仲良くなれちゃうよ!
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差出人:sanasana@Mail.com
宛先:naomisahara@mail.com
Re:件名なし
えっとじゃあ...ちょっとだけ。笑
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差出人:naomisahara@mail.com
宛先:sanasana@mail.com
Re:件名なし
ほんと!?ありがとー!花音ちゃんと2人分で名前予約しとくね!うんうん!ちょっとだけでも全然大丈夫だよ!
むしろ来なかった時だとちょっぴりキャンセル料かかっちゃうから.....ちょっと顔出すだけでもいいから、ね?
下のリンクの場所でやるんだけど18時からオープンするから!何か聞かれても私の紹介って言えばすぐ入れてくれるからね〜!
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...最後のメールの文末にはクラブか何かの建物のリンクが貼られていた。
「ごめん...花音まで巻き込んじゃって.......」
花音は携帯を持っていない方の手で拳を握って震えていた。
自分が巻き添えを食らったことなんてどうでもいいが、断ることが苦手そうな沙奈につけ込んでこんな怪しいところに誘うやり口が許せなかった。同時に、自分がホイホイとナオミについて行ったばかりにこんなことになったと責任も感じていた。
「分かったよ、沙奈!ついてってあげる!そいでこの胡散臭いパーティーがボロ出したらそれネタに警察にでもどこでも駆け込んでやるんだから!」
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