第3話 火種

「これがねー......例えば..........

っていう効果もあるんだけどー.................」


ナオミの声が沙奈の耳をすり抜けていた。目が泳ぎ、麻薬に関する様々な知識が脳裏で錯綜する。足がすくんで動けない。

花音を横目で見やると少なからず動揺した様子だった。


「ナオミさん!あのっ...............」


沙奈がやっとの思いで声を張り上げる。


「?

サナちゃんだっけ?どしたのかな?」


「これは..........犯罪です.................」


『犯罪』、自らの口で改めて声に出すと冷や汗がますます噴き出した。

「沙奈、やっぱり今日は帰...」


「あぁ〜。やっぱり疑っちゃうよね?分かるよ。その気持ち」

花音が口を開きかけたところで、ナオミが遮った。道案内をした時と同じ柔和な口調だった。そのまま饒舌に語り始める。


「でもね、こういうお薬って案外怖くないんだよ!

そりゃあやばい人たちが売ってることも多いから学校ではああ言うんだけどね。

君たちのお父さん、タバコ吸うかな?サナちゃんとカノンちゃんはこれを危ない薬だと思ってるみたいだけど、

そういうのとタバコの違いってなんだろ?結局タバコだって広い目で言えば麻薬なんだよ!そいやって言い出してたらキリがないじゃない?それにこの錠剤はタバコなんかよりよっぽど健康的!勉強したい時に少し摂れば頭も冴えるし、集中力も上がっちゃうよ!」


「いや....でも...」

ナオミは若いが、バイヤーとしての経験は豊富だ。

馬鹿な女子中学生を引っ掛けるなど本当に容易いことだった。


「大丈夫大丈夫!海外じゃ君たちぐらいの子もみんなやってるよ!遅れてるのなんて日本ぐらいのもんだよ!」

「ちょっと冒険してさ、他のクラスのみんなと差をつけちゃおうよ!」

「あっ連絡先交換しよっか!今回はタダであげるからさ、もし何かあったらいつでも連絡しておいでよ!」









時刻は夕飯時を過ぎて午後9時。沙奈は、気がついたら自室のベッドで横になっていた。

どうやって帰ったかは覚えていない。しかし、右手にはナオミに言葉巧みに押し付けられた錠剤の小袋が確かに握られていた。


ブーッという携帯の通知にはっと我に帰り、ホーム画面を開く。ラインの未読メッセージが数件届いていた。


「...花音からだ」




*kanon*:使った?



*kanon*:ナオミさんからもらった薬



さなさな:まさか!絶対危ない薬じゃん....



*kanon*:だよね...警察に届けた方がいいのかな?



さなさな:私たちが捕まっちゃうよ...



さなさな:多分



*kanon*:今は隠しといて



*kanon*:どっか捨てる場所ちゃんと考えた方がいいかな?



さなさな:そうだね....



さなさな:それが1番だと思う




差し込むブルーライトで目が痛くなってきたところで沙奈は携帯の画面を閉じ、眠りについた。

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