第17話 2015年1月3日 長野県諏訪大社諏訪市 諏訪大社 諏訪宗主

 大富町に派遣されている武田家監察班は、大富町大改組が転籍順調で、村民1万5千人から現在6000人へと一気に進む。要因として、やはり転籍多しでは生業が立たなくなり、どうしても転籍の選択。それは止む無き事。

 当然武田家監察班の仕事も激減し、正月は仲良く、そして三ヶ日最終日は、甘利眞幌を大富町詰めさせて、高坂七瀬・原絵梨花・内藤一実、そして諏訪大社にゆかりある本庄玲香が、湖面電車に揺られ、晴れやかな長野県諏訪大社諏訪市の諏訪大社に初詣へと。ただ、その参拝者の多さに面を食らう。玲香の晴れ着は来ない方が良いの助言は、ただ想像以上だった。


 諏訪大社からの混雑の道筋が、どうしても、さあと開いて行く中で、その中心には諏訪充子宗主が、丁寧に労いの声を掛けて行く。そして知己の玲香と視線が合うと一礼。中々の強面を仲間をするのは上首尾から始まり、さてとで、高坂七瀬が諏訪宗主にむんずと腕を引かれ、諏訪大社大社務所内の、謁見室に放り込まれる。それは何故か。


 地領を統治する諏訪充子宗主、外套を脱ぎ簡易祭礼服を脱ぎ揃え、自ら紅茶を注ぎ、七瀬に丁重に差し出す。


 充子、腕組みを解き。

「日々、玲香の奮戦聞いています。それも高坂七瀬が献身的であるからと聞き及びます。私からもお礼を言わせて下さい。高坂七瀬、大義に尽きます。まあ、お固い事は無しに、忌憚なく寛ぎましょうか」

 七瀬、不思議と物怖じせず。

「ああ、はい。ありがとうございます。ああでも、どれからお話しましょうか。上杉家との馴れ初めでしょうか」

 充子、神妙に。

「心情よろしい。上杉家次男上杉和輝。内政下手で外交一辺倒。性格温厚にして、正直、浮いた話はよく聞くわ。でも、七瀬の運命的な縁談で全てがロハよね。今更許せない、きゃあ、もあるでしょうけど。何んなら、私が成り行き次第では乗り込みに行くから心配しないで。そうなると最後は、かなりのダンディの上杉家当主上杉寛鉄の心情次第だけど。そこに七瀬が、やはり嫌ですと、直談判すると、そうだなで、寛鉄が配慮してくれるでしょう。はい」

 七瀬、益々目を見開き。

「ちょっと待って下さい。それって、上杉家御当主罷りならんでしたら、和輝さんどうなるのですか。えへ、で終わる問題じゃないでしょう。怖いですよ」

 充子、したり顔で。

「それは、当然蟄居だろうけど、四度目は無いわね。上杉和輝、上杉家継手、追放じゃ無いの、友梨奈もいるから何ら問題無いけど。まあ追放も、帝都行くと、名家だけで管理職に収まるから、別に心配しなくて良いわよ。いや、待ちなさい、そう言う会社員の妻も悪く無いわね。ああ、支えて尽くして、何か糟糠の妻っぽいわ。七瀬、上杉家で気疲れするなら、和輝にしでかして上杉家出なさい、と諭しておくわよ。それ位、今の七瀬には、かなりぞっこんらしいわよ」

 七瀬、打ち震えながら。

「いや、何かが違って、そう、無理ですよ。あの関東管領の上杉家を追放って、冷静に誰も雇わないですよ。いやそもそも、私がどんな局面で夫婦って、この打ち止め感、私、そんな男運まるで無いですか」

 充子、何度も頷き。

「あら御理解の早い事。七瀬、そのままよ、まるで無いわね。七瀬のこの先々、あなたに踏み込んでも、堅い性分のままでしょうね。七瀬の男性につれないは性分として。巡り会えた、甲斐甲斐しい和輝は妥当じゃないかしら。それとも初恋とかしてみたいかしら。二十歳周辺で失敗したら、人生拗らせるわよ、きっとね。あらね。何か私、和輝の方に加担してるけど、一目置かれる高坂七瀬にも、愛情注ぎたいものよね。益々お近づきになりましょう」

 七瀬、眦を上げ。

「それは、私を家格相応にする為に、諏訪大社に養子に入れって事ですか」

 充子、苦笑しながらも。

「いきなり固いわね。それは、二十世紀迄のままあったお話でしょう。そもそも私は、まだ独身よ、養子縁組は無理として、さて、ここ踏み込んで欲しいわね」

 七瀬、くすりと。

「諏訪宗主、お相手はいらっしゃるのですか」

 充子、首を重く振り。

「昔に腐れ縁をって、ものかしらね。そいつは、武田家の倉富賛逸。高坂七瀬さん、あいつが何処に行ったか分からないの。玲香に聞いても、守秘義務だからと、教えてくれないわ」

 七瀬、悩ましげに。

「そこは、そもそも。いいえ、武田家精鋭倉富賛逸。先の年号の成和最後の第二次の善光寺要塞の乱で、上杉勢を獅子奮迅で押し戻した尖兵。その脅威から、実質武田家と上杉家は長い休戦に入ってます。ここ内容が詳らかになってませんけど、そんなに激戦だったのでしょうか」

 充子、顎を引き。

「御三家の鉄則から、私闘厳禁は守られるも。境界線問題は、国家教導軍事維持を推し量る為に容認。ただその乱で、倉富賛逸は53人死傷させた事から行き過ぎになるわね。やっと時代を跨いで、家族の映画館を継いだものの、何かと好奇の対象にはなるわね。そう言う、何でも背負うところが、女子としてついね」

 七瀬、吐息交じりに。

「いざ、その人数ですか、倉富賛逸さん。母知世に弓道も教わっていたから、お見受けはしましたけど、どえらい的矢下手でしたよ。母曰く、感覚をまとい過ぎているから、弓矢が明後日の方に行くらしいです。とは言え、棘人の性質に、太刀も扱える事から無双ですよね。段位は無いものの、剣豪が側にいるとは、実力は相違ないのですよね。危なっかしいですよね。いや、これは悩ましいかな、」

 充子、前のめりに

「最後のそれ、察しなくも、自然と耳に入って来るわよ。賛逸に懸想する、飯富家の奈々未。危なっかしいわね」

 七瀬、淡々と。

「私は未練とはを語りませんけど。棘人に関わらず、武田家家系図庁の資料から、条例の四親等に血縁も居ない様ですし、結婚は許諾されます。ですので、一回り強の倉富賛逸と飯富奈々未の純愛は許されるべきですよ」

 充子、意気揚々と。

「それが、武田家監察班としての見立てかしら。案外屁理屈を積むのね」

 七瀬、はきと。

「飯富奈々未の健気さには、こういう、私が直接言うのも何ですが、諏訪宗主が入る余地は無いと思います」

 充子、くすりと。

「賛逸が、とことん間抜けでも、私の事をすっかり忘れているとでも。大人として情を交わすと、その場にいるだけでも、良縁は戻るものよ」

 七瀬、頭をもたげながら。

「うわ、そう言う面あるのかな、賛逸さん、うーん。いつか出会ったら聞いてみます」

 充子、視線そのままに。

「ふふ、七瀬もウブよね。さて、やっと拾った声では、賛逸は帝都に転籍したとは聞いてるけど、まあ、いずれね、引っ捕まえてみせるわ。そして兇状持ちの飯富奈々未を、例え好敵手としても、何としても弾きたいわ。七瀬、お分かりなさい。棘人の性質としても、判別もつかず自警団で吊るし上げては、その挙句に仮にも剣豪村上義量相手に挑む不始末。その手に持て余した結果、七瀬に一切を背負わせて、評価を落として未来を遮る。無邪気は罪よ。不幸を招いてしまう性分とはどうしてもあるものよ」

 七瀬、顎を下げ凛と。

「くれぐれも申し上げます。大富町方面武田家監察班の御役目は、棘人の抑制。それは何人もです。飯富家次代主人飯富奈々未が兇状持ちなら、支え、総じて、武田家の武運を上げるのみ。その行く末、私高坂七瀬が後見になりましょう」

 充子、繁々と。

「飯富家次代主人飯富奈々未に関わった皆が、死傷何れもなる前に、私諏訪宗主は、武田家に御家沙汰次第を、祭礼助言出来る権利は有ります。大富町次代主人を生かす為に、武田家は子飼いの西野七瀬を失っては、純粋に嬉しく無いでしょうし。眉御館様の輿入れで、武田上杉両家は盤石かだったけど、婚礼行進のあれでもほつれが見えたでしょう。ここで高坂七瀬も輿入れとなると、やっとの補強度。退くか、贖うか、その繰り返し。もうそんな歴史、こんなの止めようと、頃合いではないかしら」

 七瀬、くしゃりと。

「ああ、何か、西洋映画「マイ・フェア・レディ」ですか。上杉でそこ迄、私が面白おかしく奮闘するなんて、何かが最悪です」

 充子、慇懃に礼を施し。

「改めて、上杉の姫様。この先の御武運を、この諏訪宗主、全身全霊で、輿入れの日迄お祈り差し上げます」

 七瀬、ああ、と虚脱しながら膝から崩れ落ちる。

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