第10話 2014年6月10日 山梨県武田富士吉田市大富町 臨時大富町役場 新参者

 不運に纏わられた大富町大改組に付き、転籍多しの大富町役場の受付けを、大富町記念公民館を臨時大富町役場へと新装する。それに伴い人員は、武田上杉両家の鎹継役として本庄家が選任される。

 臨時大富町役場は大富町大火の失意から、転籍希望斡旋に追われるも、要である複写機は危険信号を表示し。今日午後の部はお開きになる。


 若き大富町役場職員本庄玲香、苛立ちを隠せずに。

「困りますよ。最新鋭の舞鶴複写機製の複写機ではないのですか、明日の転籍希望斡旋迄には、きちんと修理終わりますよね」

 代理店叶富事務計器に緊急招集された整備員高坂七瀬、表示装置の階層掘り下げながら。

「最新鋭が最高とは限らないと、お父さんから説明はあった筈ですけど。なんと言うべきか。文書管理保存に最高画質で送り込み過ぎて、記憶装置の処理解放が追いついて無いですよ。原稿は確かに文書だけど、そう言う事って、どうしてもの使い方の想定の範囲超えてしまうのですかね」

 玲香、手元の書類をポンと叩いては。

「そう機密文書、これでいつもなのよ。家系図。ああ、近くに寄らないで、最高守秘義務だから、絶対見せられないの」

 七瀬、眼鏡を外しては凝らし。

「ああ、そう言う事ですね。梵字の認識文字化は、それは処理が追いつきませんよ。これは、認識文字化ではなく、画像認識化のまま取り込めば、危険信号は出ないと思いますよ」

 玲香、ただ怯み。

「うっつ、高坂七瀬、咄嗟でも見えるの、さすが一心制動の女子。まさかこの距離で小さな梵字が見えるなんて。いや意味は分からなければ、大丈夫よね、ふう危ない危ない」

 七瀬、ただ手を止め。

「いやですよ。私は、梵字は読めませんよ。でも、流石は本庄玲香さん。本庄家の家格推し量るべしですね。学がある方は、尊敬しちゃいますよ」

 玲香、くしゃりと髪をほぐし。

「そうじゃなくて、いや、そうなんだけど。上杉家中は仏教系講座必須だから、どうしてもよね。とは言え、大富町も、大火の三次報告書迄は読んだけど、ここ迄危機感が煽られるなんて。武田総地領の抜群のご威光でも、離散して行くなんてね」

 七瀬、神妙に。

「大富町は、棘人と任人の住み分けは出来ています。極端に歩み寄らない事から、実は平和そのものです。人の生業とは、平和の境地辿り着いてこそが、更なる遥かなる地と見つけようと言えるのでは無いのですか。大きな不安に取り込まれて、大富町を勝手に振り分けしないで下さい」

 玲香、まじまじと。

「報告書の真意は、それは当事者が書いたものでは無いから、3分で留めているわ。七瀬の見識。この遥かなる地、大富町にいると、そうでしょうね。そもそもで言うと、激戦両家かしら。武田家と上杉家の軋轢は、そうになるでしょうとも。両家の家訓は、武田家は住み分け、上杉家は親和。上杉寛鉄関東管領は事あるごとに諭すわ、その手は携えるものだろうと。そこに安易に恩義とかを求めるのではなくて。そう、ここ。変え引きとして誤解されてしまうのだけど。別に大らかに生きて行くなら、誰彼のお世話になって当たり前なのよ。そして言わないと。武田家はもっと、外向きに歩み寄っていいのよ。それでも、未だ遅きに逸してるが、ただもどかしいわ」

 七瀬、眼鏡に触れては。

「転籍の何れも。上杉家の押し付けは、良く無いと思います。それは関東管領は恩義に厚いでしょうけど、それが末端に行く程、生きて行く上での、押しなべての生業はになります。そうですよ。案に、上杉ならではの教科で以って、人間を縛り付けて良いとは、私は思えません」

 玲香、大きな溜め息を付きながら。

「転籍への不安。それはそうなのよね。まあ、上杉家中でも、何でもの同志感、私でも。ちょっと距離が近いながあるもの。でもね、ここはちゃんと聞いて。高坂七瀬さん。今回の転籍希望斡旋の伝手には、どうしてもの上杉家の口利きの方が多くあるのよ。そして引っ越しも、上杉家の運輸が赤字でもここぞと乗り出してくれたわ。私が何かと希望者に、有力転籍地の案内書見せるから、あなたは上杉筋だからにもなったけど、最後は納得してくれたわ。いいかしら。人里離れ過ぎた土着の地もおいそれと売買に乗らないから、転籍するなら、免責も無く条件の整った転籍地を飲まざるは得ないでしょう。ねえ、大火後の、現在の困難を超えて行くには、今こそ、武田家と上杉家が結束すべきなのよ。高坂七瀬さんも要領は良い筈でしょう」

 七瀬、見据えては。

「それは口実と言うものです。御館様の承認があれど、上杉家の内政干渉も程々にすべきですよ。私達両家は未だ休戦状態です。融和は適時に検証すべきです」

 玲香、透かさず。

「高坂七瀬、一心制動使い。さて、話せる筈なのに、平行線ね」

 七瀬、尚も。

「それでも、玲香さんとは仲良しになれると思います。これは私の勘ですけどね」

 玲香、笑みを零しながら。

「それ分かるわ。私も是非お友達になりたいけど、何せね。ここ迄大富町が大事だったら、それは今も派遣先の諏訪宗主直々に、お行きなさい、尽くしなさい、運命の方々が待っています、ですもの。そして、いざの進捗、諏訪大社にいつ帰れるものかな」

 七瀬、くすりと。

「諏訪大社、湖面電車で4時間揺れてですか。まあ帝都より遠いといえば遠く。ああでも諏訪大社。いつか案内して貰って、良いお店教えて下さいよ」

 玲香、くすりと。

「良いわよ。諏訪カレー巡りはきっとね」

 二人互いに歩み寄っては、がっちり握手をする。


 背後より拍手を送る、整備員高坂隆也。

「いや、いいね。いいと思うよ、見目麗しい仲良しの限り。それより、七瀬、代替えの複写機持ってきたけど、搬入手伝ってくれよ」

 七瀬、ハッとしては。

「あっつ、そこ、お父さん、危険信号の原因分かったのよ。梵字の認識文字化が追いつかないみたいだから、画像認識化の設定に変えれば直ると思うわ」

 玲香、ただ懇願しては。

「ごめんなさい、梵字は、このままでどうにかです。そこの画像認識化再設定に関しては無しでお願いします。私とお母さんの事務作業では、梵字の認識文字化してくれないと、分析化が追いつかないから、どうかこのままで、どうか。はい、」

 高坂隆也、ただ頷き。

「玲香さん。そう言う事でしたら、二台体制にしましょう。ああ、でもそれでも、危なっかしいな。そうだ、七瀬を常駐させますね。七瀬、これも公務の一環だ、この先も玲香さんと是非仲良くしなさい」

 玲香、瞬時に。

「是非、喜んで、よろしいですよね、高坂七瀬さん、七瀬、」

 七瀬、口も半開きに。

「あちゃあ、常駐、でも公務なら成る程にします。あと、ここで七瀬か。でも早い判断。どしても私達って文武両道の輩なのかな、何かおかしい」

 七瀬と玲香、顔を見合わせては、ただ微笑みに包まれる。

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