第6話 2014年5月12日 山梨県武田富士吉田市大富町 飯富洋装 仕立て

 飯富村の顔役にして棘人の飯富保憲の店舗、英国風の社交場そのまま雰囲気の飯富洋装にどうしても緊張が走る。それもその筈、隣接した専用駐車場には前面に武田菱が施された黒の本田伝説第七世代と警備車2台も立ち止まれば察する以外無く。

 そして、飯富洋装の店入口には、町の客分でやや見知ったる賀茂春逗と土方按児の堅強な女子二人の門番で身動き一つもせぬままに、さぞやの雰囲気を醸し出す。


 店内の接遇員の飯富保憲のほぼ内縁の修繕由美子が慇懃にも深い礼をしては談話場より下がり、暫しの歓談へと。

 英国風19世紀風の椅子4脚に居住まい正しく座るは、皇位継承3位大洲賀実果に、皇位継承4位大洲賀純白の未だ若き双子姉弟。そして武田家筋は役職定着の女子の武田地領御館武田眉に、壮年の武田家筆頭政務板垣目安が、祝着至極そのままに談義がただ深く進む。


 眉、嬉々も

「やはり、躑躅ノ森記念館の躑躅外覧会ともなると、張り切らないといけないですからね。飯富洋装にどうしても通わないといけないですね」

 実果、然もありなんに

「御館様もこれは弱気な、武田甲府市の発展あれど、大富町にはるばるとは。抜本的な改革なら、どれ、どこから発布しますか、存分に手伝いましょう」

 純白、然もうんざりに

「姉上も、文献研究として京都より出て来てるのに、ここで武田地領の監修に一文でも名が入ったら、帝国議会より不始末と枢密院が突き上げくらいますよ。万民はより安寧に、ただそれも、華族の結束があればこその政務にあります。密な武田家への極度の肩入れは無きは強く言っておきますよ」

 実果、ただ馬耳東風に

「そんなの知らぬ、たかが皇位継承権3位と4位に、愚と申すはとても臣下とは言えぬ。まあ良い、そんな輩は、何処かでまとめて領地替えの指示書を送り処断を図ろう」

 板垣、ただ陽和に

「恐れながら、実果親王様に純白親王様、戦陣では強者の並びがあります。涼やかなる副将が二つ仲良く御並びともなると、一騎当千の兵団を抱えた大将がとてもお飾りに見えるというものです。且つ姉弟は若くとても仲が良く抜群の連携を誇っております。京都外縁筋が目の障りとで御二方を閑職に追い止むのは妥当な筋でございます。ここを今一度慮り、適度な政務の推し量りと言上仕ります」

 実果、くすりと

「御館様の家臣は、実に実直で良い。私達は政務を悉く取り上げられて、臣下はどこへの状況であろうから、板垣を取り急ぎ借りれぬものであろうか。難しいのであればちょろい御三家には良くも言い聞かせてみせよう」

 眉、思い倦ねては

「板垣筆頭政務、いえ板垣のおじ様は、父が長きに内閣に呼ばれては、私達のなんて事は無いも事実上の養父ですよ。ここで引き抜かれようものなら、弟典厩がてんてこ舞いです。良いのですか実果親王様、それを行うと武田地領には入れませんよ」

 実果、神妙にも

「やれ懲罰とは。確かに君は御館様だよ、職務にあまりにも真面目だと、女性としての細やかさを蔑ろになるね。そう、これでは諏訪総地領の諏訪宗主の様になっては、非常に由々しき事態だ、いやここは生涯やもか、やれだよ、全く」

 眉、宙を仰ぎながら

「ああ、そこですか。私もそうなる運命ですかね。いざ気付いたら、お嫁の行き所がなくなりますね」

 実果、淡々と

「御館様は入り婿に決まってるだろう。嫁いでは非常に困るものだ。良いかね典厩の概ねの思案は落とし所が見事すぎる、この先武田地領が典厩に双肩に掛かるのは、姉としてどうかね。察しが良すぎると、必ずや先に出ようとする輩が出る。上杉地領との一方的な和睦は日の本が必ずや激震するぞ」

 純白、果たしてうんざりに

「御館様、姉上のそれは程々に聞いておきましょう。姉上は苦いお話が好きで、それを好みの味付けにしようかが目に余ります。何分にも」

 眉、まじまじと

「生涯。武田家ですか。それはそれで心の置き所が定まって安らかでは有りましょうけど。誰か勇気を持ってお婿に来て貰えますかね」

 実果、身を軽く乗り出しては

「そうだな、織田家が何かと婚姻には積極的の様だが、あそこは子だくさんの家系で幾度の血縁を経ても、禁忌に触れぬのが、まあ妥当なのか。とは言え、いざ織田家の総会に招かれようものなら、武田家の御君の存在でも、やや軽く埋もれてしまうから、何としても付け文の一文でも挟ませて貰おうか。いや何と無く進んでるのが、あれかな、今現在織田家の婿候補は17名として、やはりあいつになるかな、二手主家筋の織田二棟、まあやり手の織田小牧市長が抜かれても層は厚いから、いや良いな、並ぶと実に絵になる、御館様のお色直しは7回が妥当かな」

 眉、困惑しながらも

「ああ織田二棟市長、あいつですか、うつけ者そのままの評判。織田家は用済みでしょうけど、武田家では何か角が立ちそうな話題ですね。さて、」

 板垣、ぴしゃりと

「御館様、さてで拭おうとは、照れにしても早過ぎます。織田二棟の織田小牧市長、お飾りにしても名跡があるのならば実務経験有りで武田家評定衆の即戦力にございます。武田家の工房地拡充の着手にしては祝着至極かと存じます」

 実果、然もありなんと

「そうであろう、それでは粉雪が舞う前に、花嫁行列の手筈と行こうか。いや、そんな簡単にはもあろうが、織田二棟は私と手を切れぬ事柄が1、2、3、まあ細かく上げれば夜会迄深くお話が雪崩れ込むであろうし、やれ織田家も嫌とは言えぬだろう。織田二棟の性格は込み入ってるが、美丈夫には違いない。それでも御館様が嫌いなら、進物攻勢に出させて見せようぞ」

 純白、呆れ顔も

「姉上も、御館様を迷わせるもの如何ですよ。ただ御館様、どうしても急ぎたいのは、御三家が動いているからです。武田地領の集積回路鉱山をどうにかまとめて天領にしたい、御三家の女子はああ見えて手強いですよ、火種が燃えるのを敢えて待っている。そのどうしてもが、棘人を有するここ大富町、遺伝子産業は次世代の混沌を招く。生まれついての闘神は万の強者をも押し黙らせる、棘人は儀式有ってこそ緩和するが、それは完璧では無く連綿と遺伝子は引き継がれて行く。大富町で慎ましく生きる事、これは日々下宿する程に、切なさが募って行く。この大富町での先細りのままの生き方が本当に正しいか、答えはいつも棘人皆の笑みで図らずも癒される。いやさて、ここは私達以上に御館様が深くお考えでしょうから、迷わせるのは行けませんね。言える事は、御三家の麗しの見た目で深く受け止めぬ事です。参内とは言え彼奴等は仕掛ける、決して隙を与えては行けませんよ。もっとも、御三家が用意している二つの婿候補が一々癪に触る。ああ、ここでは名前は言えないが、素養が滲み出るのが男子でもこう歯がゆい」

 実果、退屈そうに

「まあ、顔と夜伽になるが、どちらも御館様ではどうあっても共感出来まい。婦女子ならば健やかな身体の相性を促すが、私としては共に慎ましく生きて行く男子、織田二棟に万が一の御縁がなくても、どうであっても見届けたいものだ」

 純白、くすりと

「御館様、ここは姉上の宥めに入ってるので、七分程の添えでよろしいでしょう」

 眉、ピンと背筋を伸ばしては

「はい、直々の勅命、躑躅ノ森地領会館に戻りましたら詮議に入らせて貰います。そこは半々でしょうけどね」

 板垣、慄然と

「いいえ、ここは受領せざる得ないでしょう。御館様は一目惚れと言うものをまだ知らぬのですから」

 眉、口を益々尖らして

「板垣筆頭政務、それを言うでは無い。おぼこ扱いでは、皆が顔を下にして口元を隠すでは無いか」


 談笑が一通り過ぎて、店主の細身タイの長身屈強男性飯富保憲が歩み寄る

「御歓談何よりにございます。3着の納品は躑躅ノ森御屋敷にお届けさせて貰います。後の御入用はございますか。装飾物の一切はこちらで作らせて、いつもの様にその時お気に入りが宜しいかと思います」

 実果、凛と

「主人、粉雪になる前に、婚儀の公務服を姉弟分用意して貰いたい。時期的には今作っておいた方が季節も巡ろうであろう」

 眉、軽く眩暈しては

「もう、どうしても嫁に行かせたいのですか。ですが、いいえ、準備だけはしておきましょう。もうやけっぱちです、主人、婚礼服一式の準備お願いします、勿論とびっきりのお願いします、お相手は私に合わせれば良いだけです、おお、そこにやっと気付きました。でも、ああ、」

 保憲、ただ深くお辞儀し

「御館様、おめでとうございます。御母堂様と二代に渡って携われるのは、武田家家臣のただ誉れにございます。どうか末長くお幸せであらせられます様に」

 眉、ただ目を覆い

「はあ、いや、言ってしまいました。でも、取り消しも出来ますよね」

 板垣、実果、純白共に

「いいえ、如何なる選定も御公務にございます。言える事はただ一つ、実に往生際が悪い。今となってはもう無理でしょうな」

 ただ不思議な沈黙が短かく続くも、飯富洋装の入り口の呼び鈴がコロンとなると、制服の給仕の女性が岡持ちを持って現れる。一見美女も各所が実に引き締まった、桃富雑貨店に下宿中の剣聖上泉染冬、然もうんざりに

「大変お待たせしました。御歓談の頃合い逸しまたでしょうか、珈琲は温め直さないと行けませね。本当、表でがんと立っている公儀見廻組のあいつ土方按児どうにかなりませんかね。知らぬ女性は通せぬの一点張りですよ。賀茂春逗さんは、ほら上泉のうら若き剣聖ですよと口添えして貰っても、剣聖ならば帯刀疎かにせずだと、士道とは思えぬですって。同じ女性の剣豪ならば、私を知らぬ筈も無いのに、本当固いですよね公儀見廻組。純銀認識票見ては齧って、一つの失礼も無く通って良しですって、自ら言うのも何ですけど、剣聖って何でしょうね」

 板垣、淡々と

「上泉様。それは、先日の庚号誘拐案件があってから、公儀四天王頭が公儀見廻組を見せしめとばかりに送り付けてますから、御館様が散々やんわりと諭してもこの有様ですよ。真っ向対立しようものなら、不届きと全330名送りつけては武田地領を雁字搦めにするでしょう。段階的接収、それは避けたき事案ですので、どうかここは武田家評定衆に免じて平に願います」

 実果、かなりうんざりに

「公儀見廻組には、本当うんざりもする。公儀の名を借りてると言うのに、信条が天子様こそはだ。そもそも募集要項が今も昔も大雑把過ぎる。京都集約時代の御所固めを未だに遵守する。先の大戦を経ての治安改正御誓文の領主統治の大原則にあると言うのに、越権行為がただ甚だしい。いつか解体せよと言い使わしてやる」

 純白、続いてうんざりに

「姉上、それがもし漏れ聞こえようなら、士道不作法で公儀見廻組が残らず切腹で応じますよ。そんな人数受け入れる寺院があるとお思いですか、一からの寺院を建立しては、大洲賀実果の逆鱗に触れて由縁の名跡が後世に伝わってしまいます。それは決して行けませんよね」

 保憲、慇懃にも

「恐れながら、不作法の剣豪の始末ならば、御下命にならずとも富家筋で押し黙らせましょう」

 眉、はきと

「保憲、それは決してなりません。棘人は戦場での武功あればこその今日迄の誉です。これは先日の庚号誘拐案件と合わせて諭しておきましょう。ここは汲んで貰えますね」

 保憲、ただ膝を崩すままに床に伏す

「御館様、誠に申し訳ございません、任人の監察方を蔑ろにしての不調方の一切。棘人の若い衆がつい意気がってしまった次第は申し開きは出来ません、ここはどうか私一人の御沙汰を存分に願います」

 眉、尚も

「保憲、何を全部背負います。武田地領は全てがお仲間です。事案の早期解決はお見事ですが、もっと棘人と任人は共に手を取って融和すべきかと、歴史を多く踏まえた祭礼を加味して諭しておきましょう。今年の棘刀式も必ずや成功させましょう」

 保憲、立ち上がってはただ目深に

「御下命通り、棘刀式は恙無く遂行致します、より、より薫陶のままに華やかに仕上げてみせます」

 実果、重い口を漸く開き

「さて、奈々未にもこの父君のありのまま姿を見せたい位だ。主人、奈々未は腕っ節と反して確かに脆い。嗜めていてばかりでは、どうしても私は至らぬが募ると言うもの。慈愛もまた家族の生業と思うが、まあそこが通じぬが、未だ若さと言うものか。とは言え私も下宿の身である以上家族には違いない、ここは深く肝に命じておこう」

 保憲、号泣のままにまたも膝が崩れ堕ちては床を二度三度と拳を強く擦り上げる。


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