第2話 2014年4月4日 山梨県武田富士吉田市大富町 桃富雑貨店 角茶房 密談義
大富町の片田舎のやっと繁華街の並びに三つの軒を持つ桃富雑貨店、経理事務所・実演店舗・角茶房で大富町の物流を一手に担う程の経営手腕さ
棘人経営であるも、棘人と任人を分け隔てなく対応する為、賑わいは今日も
矯正眼鏡を掛けた高坂七瀬、いつも通り平日の早朝から昼までの農作物の加工を一手に行う丸富加工場の中央作業所の仕事を終え、表情も厳しく先の棘人婦女子の拐かし諸事情を鑑みる
「そう、上杉口の収束はこんな感じかしら、改めて北条口を聞きたいわ、絵梨花、」
原絵梨花、ただ溜息しかなく
「まあよね、北条口は高い土塁に囲まれるも、飯富町にやや近いから、捜索範囲が広くて、当然と言うべきか、棘人の富家と棘人寄りの県家が出て来ちゃって、連携無視で闇夜に一斉捜索の有様よ、もう少し仲良く出来ないものかしら、」
「やや、難有りは、御館様に注進すべきね、」
「それはどうかしらね、今現在、躑躅ヶ崎私苑は一向に会議に招集する様子は無いでしょう、地領内で誘拐騒動があったのに、司法に委ねる意向なのかしら、」
七瀬、視線をきりと
「そこは御館様と典厩様の心根を察するに誘拐された女子の先々を思えばこそでしょうね、二人に身体的裂傷は一切無し、ただ巷で囁かれる異人の遺伝子検体目的で表沙汰にすれば、大富町が揺れまくるわよ、絵梨花、話を続けて、」
「そうね、北条口は大探索に至るも、棘人側が熱り立っては、折角の足跡が踏みつぶされちゃって、八方塞がりの中、地道に巡回よ、そこで里恩さんの部外の推定犯人二人組の詮議の場に合流するのだけど、ああ何か痛々しいな、七瀬聞くわよね、」ただ恐る恐ると
「勿論、里恩さんの事だから、自白する迄指一本ずつ刀で切り落としたのかしら、」
絵梨花、笑みも引き攣りながら
「ああ、そっちに行っちゃう、でも、そこはやんわりとね、何せ町民一同が集まりだしたからね、里恩さんも手荒い事は出来ないでしょう、指を鈍い音鳴らせながら8本までぽきり折ったところで漸くかな「好い加減吐かないと、この賛逸が打ち切れて脳幹に棘さすぞ」ですもの、何かな、折角締め上げてるのに止め刺されてもね、まあここは諦めて、それでも地道に一実の抜群の嗅覚で探そうかでこの隙に巡回しようかと思ったら、推定誘拐犯吐いちゃったもの、棘人の事前情報はレクチャーされている様ね、確かに言ったわね、拐かした女子は麻酔薬打って仮死状態で東の畑に埋めたってね、東の何処かは本当に何処か過ぎて、桜並木のある通り沿いとしか部外者は分からないものね、大富町はこれって言う名所が無いから止む得ないかな、」
「絵梨花、それでも見つけたんでしょう、」
「そこはね、私達お抱え衆では無いわ、里恩さんに忽ち捕まっては豊田軽車両鋭剣に放り込まれて駆け付けたのに、既に麦畑のど真ん中深く掘られては出し抜かれたわ、一実曰く確かに棘人がほぼ務める繊維工場群の香りがするとの事だから、棘人の方で当たりをつけては保護した様ね、」
「お抱え衆の私達出し抜くなんて、棘人の若手は相当なものね、」
「七瀬は何を今更、いざの弱気は止めてよね、それはそうでしょう、棘人は戦場ともなれば鬼神の働き、こちらも再認識しないとね、」
「棘人側を牽制出来ると思うの、こちらは手助けにとても数えられない県家を抜いたら、里恩さんを入れて五人よ、」
「県家は武田家出仕も便宜上今更よ、五人で上出来よ、里恩さんで一騎当千、その気になれば大富町を一蹴出来るわ、」
「里恩さんよね、流石は御館様の人事ね、剣聖塚原家も招集して正解なのかしらね、」
絵梨花、くすりと
「七瀬の都度のおおらかさは好きよ、ただね、その里恩さんも、倉富名画座に居候したままで情が湧かなきゃ良いけど、まあ賛逸さんかなり窺う程に一線超えてないのが、何か男性として何かなって、里恩さんべっぴんさんだし歌が上手いのにね、惚れない要素が分からないわ、」
七瀬、対面から密着する様に
「ええ、そういう仲じゃないの、ここは偽り無しよ、」
絵梨花、七瀬のおでこを優しく押しながら
「無い無い、まさかでしょう、仲なんて、あの対人距離と、如何にもの目合ひしてますの雰囲気感じ無いでしょう、」
「まあ、まあよね、賛逸さんは素直だし、里恩さんに早いうち手下にされちゃて、絶対的な線引き有りきでは、そう言う事になるかな、」
ぱさ、暖簾をくぐっては、初老に入った桃富寿亥が一際声を張る
「ねえねえ、ちょっとね、あなた達ね、お天道様出てる内から目合ひなんて、男子が聞いたら、何だこいつ等でしょう、そういう噂は嫌でしょう、ねえ武田筋さん、」
七瀬、ただきょとんと
「あの、寿亥さん、何時頃から聞いてます、」
「それは一通り全部よ、良い、お昼も一段落して暇に決まってるでしょう、店舗は染冬さん一人で私は悠々自適そのもの、そうでしょう、普段通り、角茶房でご自由に盛り上がってるなら、つい聞いちゃうものよ、」
絵梨花、口に人差し指当てては
「寿亥さん、呉々も飯富筋には内緒ですからね、」
「絵梨花さんね、あと七瀬さんもね、内緒も何も、後釜で武田家臣姓の若き精鋭が来たら大富町皆察するでしょう、逆に誰も来ない方が薄気味悪いものよ、ちょっと言い過ぎ、まあ良いわ、もっともよ、あれこれ私が口を滑らしては御館様を蔑ろにしたら、桃富雑貨店への商いが成り立たなくなるわよ、ここね、本当に辺境の大人の世界の付き合いはかなり厳密なものよ、」厳かに息を整えては「そうここね、ちょっと言わないと行けないわね、今日日の棘人の出過ぎた行いなんだけど、然るべき仕置は適度にしておきなさい、毎年盛大な棘刀式至る迄が疑心暗鬼でぎすぎすしたら、その都度の内祝いでお金が出て行かないでしょう、それはね、桃富雑貨店どころか町内の全商いの営業妨害よ、」
七瀬、まじまじと
「ええと、寿亥さん、まさかそこなんですか、」
絵梨花、思い描きながらも
「まあですよね、棘刀式の式典は確かに凄い装飾に凄い生地だし、棘刀式終った後に使用後の生地がまた振る舞われたら、そうだな、どんなドレスにしようかな、」
「七瀬さんも絵梨花さんもね、そう言う事、女子ならおしゃれは好きでしょう、見立てかつかつでお洒落な諏訪大社市にも満足に行けない今のご身分なら、察して余り有るわよね、飯富家のご機嫌損ねてしぶちんにされたら、皆本当に大迷惑でしょう、良い、深く察しなさいよ、」深い溜め息のまま「それとね、もう任人の青暖簾はお時間が近いわよ、棘人の赤暖簾に掛け替えるから、店舗でお土産包んで各自の家で満喫しなさいよ、もう頃合いで結構でしょう、さあ、」
七瀬、真摯に
「そこの暖簾出しも、本当厳格なんですね、私達は良いお付き合い出来ないものですか、」
「七瀬が語りたいのも分かるけど、そこは悪いけど無いわね、大富町のそのものは武田義家公の謀反謀議を受けて、飯富家の詰め腹からの、歴代御館様からやや恩情を受けての地領拝領よ、決して良い歴史じゃないでしょう、まあそれだけじゃないけど、根深い所迄の一切の和解は無いわね、」
絵梨花、はきと
「寿亥さん、そこですが、抜本的な和解は、武田家家臣の中でも、飯富家は断とつの上納ですよ、お互いに幾らでも歩み寄れますよね、」
寿亥、律しては
「絵梨花もね、最前提がいつの間に無いわね、大富町は御館様の日常の手助け人配置有りきでも、大凡が棘人なのよ、自らの棘を見ては鬼神と律せざる得なく、任人をどうしても傷つけ無い様に抑えるのに必死なのよ、安易に宥和してそんな緊張した生活が送れると思えないでしょう、この対人距離で常に察しなさい、」
絵梨花、尚も
「寿亥さん、その為の棘刀式で有り、妙薬躑躅薬味ですよね、棘は和らぐのですよね、」
「躑躅薬味はそうよ、それでもでしょう、武田の赤備えは子孫に至る迄最強なのよ、棘無しでも身体能力は飛び抜け過ぎてるわ、ここで語り足りない程の悪童目撃談で喋り倒したいけど、爆笑で終らせるのが厄介過ぎるわ、まあよね、ここも察しなさい、」
七瀬、凛と
「どうしても押し切るのですね、」
「良い武田筋なら、感情抜きに現実を見なさい、棘人に受け継がれた血は、幾度の交配しようも、どうしても棘を始めとして顕著に出るの、安易に棘刀式を済し崩しの暦だけにしようものなら、鬼神のままに荒くれ者になるわよね、そう、厳格な棘刀式を成し遂げる事、ここに至って棘人である事をしっかり自覚しこの大富町で安寧に生きて行く事、はっきり言うわ、一切譲れないわね、」
七瀬、一切臆せず
「それは棘人の本心と受け取って良いのですか、聞いていて切な過ぎます、」不意に涙が一筋
絵梨花、透かさずハンカチを差し出し
「七瀬、寿亥さんに気を使わせないで、」
寿亥、尚も
「その涙は好意として確と貰いましょう、でもね、良いも何も、古代から棘人を巡る処遇は何も変わっていないわ、それ故に武田家はお目付役を配置するのでしょう、ここがさてもよね、いくら隠しても、あなた達の潜在能力を察する棘人は漏れ無くいるって事、ここきつく言うわね、安易に事を大きくしない事が、この先の平穏でもあるのでしょう、棘人を察し過ぎて御館様のご注進に主観を合わせるのは良く無いわね、口を酸っぱくして言うけど、最優先して取り締まるべきは任人の粗忽な連中って事よ、私にはどう考えても、この一件で済む訳無いと思ってるの、この大富町で唯一の雑貨店に流れて来る、怪しい部外者はそれとなく増えてるもの、探索も佳境に入ったって事よ、」
絵梨花、まなじりを上げるも
「また拐かしですか、それなら、いいえ、無駄に大富町を警戒させては行けませんね、」
「今はそういう事よね、遺伝子情報分析の為の検体確保なら、この大富町を壊滅に追い込んで、謀略前提に片っ端から保護した方が手っ取り早いわね、某大国が絡むなら、どうしても荒れるわね、」
七瀬、不意も
「どうしよう、巡視戦術戦車入れましょうか、一気に不審車両どかんどかん行きましょうよ、それ、ああ、でも証拠が消し飛んじゃうかな、」
絵梨花、首を横にただ振るも
「七瀬はね、その発想は一切無し、それよりどうかしら、河口湖有るから、何処かの特殊部隊相当が水路から入って来るかも、」
「ああそれね、それは無いわね、ご存知の通り、役場のお決まりで外来種から保護の為に河口湖は一切遊泳遊覧禁止してるでしょう、それも実際の所は河口湖下半は適度に近接機雷を置いているから、通っただけでそれはもう水柱相当高く上がるもの、」
七瀬と絵梨花、共に後ずさりしながらも
「何よそれ、その反応はちょっとよ、河口湖周辺町にあって、大富町に漁業組合が無いの不思議だと思わないのかしらね、まあ誰も疑問に思わない位幅広くお造りは用意してるから、そういう時代になったものなのね、」
七瀬、たじたじも
「うう何て事、あのカヌーゴムボートが押し出されたら、あわや爆死だったなんて、」
絵梨花、嬉々と
「はいそれ、家は今日お造りにします、」
「毎度ありがとうね、染冬さんが仕込んでたから、直接言ってくれたら業務冷蔵庫から出してくれるわよ、」
七瀬、首を傾げながらも
「良いのかな、剣聖上泉家がすっかり料理人なんて、」
絵梨花、淡々と
「染冬さんのそこは、何か別命あっての事だから、何処かで聞きたいわよね、」
寿亥、歯がゆくも
「ああもう七瀬さんも絵梨花さんも、染冬さんのそれも営業妨害よ、そういう解説も一切無しよ、良い、染冬さんをただの美人お店番にしたら、皆不思議がって性がないわよ、そう言う事、もう帰りなさい、赤暖簾のお時間よ、さあさあ、店舗に回って頂戴、後生よ、」宙でただ二人の肩を叩く素振りのままに詰め寄っては、角茶房から隣りの店舗を促す
大富町唯一の繁華街は、そろそろ赤暖簾の時間を察してる任人達が買い物を終え帰宅の途に着く頃合いのままに
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