1st.-The Meaning of Goodbye-
第1話 2014年4月3日 山梨県武田富士吉田市大富町 上杉口 前夜
夕闇から一転、薄暗い街頭照明の中、腰には帯刀ベルトに刀を左手で添える女子一人が、北方角の大富町の北口の上杉口目指して疾駆するも、不意に丘陵の上空より、しなる影が女子に寄り添うかと
ポニーテールの高坂七瀬、疾駆しながらも溜息混じりに
「眞幌、猪だと思って真っ二つにするところだったわよ、」
同じく帯刀の後ろ髪を束ねた女子甘利眞幌、悪びれる素振りも無く
「まあまあ七瀬、遠くの作業場だし、一旦家に佩刀を取りに行くにしても、自転車で帯刀は厳禁でしょう、獣道上がるしかないわよね、」
「追加情報は有るの、」
「無いわよ、大富町役場通知の帯刀許可と探索対象者の棘人女子二人の身上書だけ、逆に丸富さんの本作業所なら含みは有るんでしょう、」
「対象の邑富沙友理と井富小百合は飯富私立資料館図書分室で既に顔見知りでしょう、何れも富の名を継ぐ棘人筋、察するにあの立派な檜作りの飯富資料館で無防備な所を何らかの処置をされ拐かされたのが、一休社長の見立て、棘人も油断するものね、」
「やれね、悪事に慣れた連中か、それで北条口と上杉口を固めろなんて、定石過ぎないかな、」
「大富町からの道なき山越えは、如何なる猛者であろうと一切不可能、この時期でも大熊の餌になるわよ、こういうのは事前情報有りきの拐かしでしょう、」
「ここよね、御館様の宥和策、武田甲府市から始まり武田地領隈無く目を光らせているから、内密地に進む程安泰でしょうの寛容さ、この大富町迄長期休みのやや行楽地は如何なものと、ご報告はしているものを、一体どこで止まるのかな、」
「御館様、うら若き武田家の総地領でも、諌言は御手打ちものよ、私達を察しては上告止めでしょう、それ以前に私達の素性は一切控える事が密議、眞幌、職務漫然は武士の作法を逸します、」
「七瀬も、分かってるわよ、身内でも武田家のお話は控えてるわよ、ただ、北条口に集結しすぎよ、ここぞの塚原さん迄行かれたらしんどいわね、」
「普段通り里恩さんで呼びなさい、賛逸さんは察しが良いわよ、ここでまた両陣営の布陣が一つでも変わったら、一からやり直しよ、」
「まあね、これ以上の派遣は武家の嗣子も底を付いた様だから、他家を頼るとなると、得宗家の厳粛さも如何だし、生半なものよね、」
「分かれば結構よ、」
不意の金属音が連続しては山間に響き、出音に振り向きざる得なく
七瀬疾駆のまま、身じろぎもせず斜面を下り沢へと
「行くわよ、まさかの用水路なんて、」
眞幌、付かず離れずのまま
「棘人、ここまで察しが良いものかしら、」
続く爆発音が劈き、すっかり日の落ちた沢に火柱が直上に上がる
その燃え上がる不審車両の火影に揺れる一団が輪郭のままに、一際長身の女子の左肩にぐったりした女子を抱えながら、七瀬眞幌の出現に火影の一団緊迫するも、無言の一団内に促されては長身の女子が一瞥の限り
間も無く、火影の一団が乗り込んだ中型車豊田七接遇がテールランプを点けたままにしれっと用水路脇停車場の坂道を上がって行く
眞幌うんざり顔のままに、燃え上がる拐かし犯の無数の穴だらけの黒の軽自動車日産行軍に身じろぎもせず
「やれやれ、お互い暗いままに顔が見えないなんて、せめて一声掛けても良くないかな、」
七瀬、ぽつりと
「そう、資料の通り棘人の女子赤色活動服、七分袖スパッツスタイルの見立て通り、拐かされたらしき女子を担いだ長身の女子、ロングヘアに凄い鼻が高かったわ、微かに口元が笑っていた様な、」
「さて、七瀬は夜目が効いての、上杉口か、と言うか、」無様に転がるカジュアルジャケットの男二人を指差しては「これ無惨過ぎないかしら、拐かし犯のひょろながとでぶっちょ、絶賛失神中、ジャケットに切り裂いた箇所は見えないものの、この腕足の垂れ具合から、上手に完全に腱貫かれるわね、どういう対峙か、七瀬起こそうよ、」
「眞幌、止めましょう、この引き攣り具合起こしてもまたも失神するわよ、それより、この燃え盛る極細の穴だらけの車両は勿論、まだ陸にある見る程に穴だらけのカヌーゴムボートの検分よ、このカヌーゴムボートを使って拐かした女子を用水路に流して、河口湖上で拾うつもりだったのね、そうね、本命はこちらの上杉口で、北条口は撹乱の様ね、まずいわね、きっと北条口の女子は何処かに押し込まれたままよ、」
「そこは大丈夫かな、ほら大食漢の一実がいるから、かなり鼻が利くわよ、きっとこの大富町の何れに埋められても探せる筈よ、」
「見立てはそうなるわね、流石は典厩様の采配ね、」溜息のままに「さて、この軽車両の板金さえも貫くなんて、ここまで強烈な棘なんて、棘を柔らかくする躑躅薬味を御館様から拝領し飲んでいてはこの所行は出来ない筈、ここは御館様に早く注進すべきね、」
「それもどうかな、棘人側は棘刀式は毎年恙無くでしらばっくれるわよ、」
「なればこその大事よ、未成人に戦闘を委ねるのはどうかしてるわ、」
「七瀬待ちなさい、武田家が加判でもある飯富家に沙汰をしようものなら、武田一門が割れるでしょう、寛容な典厩様を巻き込むのは、らしく無いわよ、ねえ七瀬、」
「典厩様が美丈夫で理知的だからと言って、この状況は見過ごせないわ、この拐かしは巷で聞かれる異人の遺伝子採集の検体採集よ、その背後にいるのは躍進の中華帝国そのもの、異人の存在は控えるものの日本国を上げて緊急声明を出すべきなのよ、」ただうんざり顔のままに、ひょろながの懐から長財布を抜き出し免許証をまじまじと「この甲種運転免許証の12桁の番号の内容から察するに偽造では無いわ、相当な手練を雇っても、この有様でしょう、棘人、恐るべしなのよ、」
眞幌、堪らずふとっちょの懐のホルダーから南部拳銃を抜くも
「そうね、拳銃はセーフティのまま、それ以前にホルダーから取り出せないなんて、棘人はどうしても身体能力が良いのね、それが、何で誘拐されるかしら、すっごい不思議、」
「棘人側は抜かったなんて決して御館様に言わないでしょうけど、そこは飯富私立資料館よ、展示装飾は企画展以外にお客さんが滅多に行かないでしょう、それを対策しては私設図書分室も始めて貸本補助を行って漸くの休業営業からの脱出、まあお客さんも流れ始めたら、対象の二人もね、つい笑顔で対応も進み話も弾むわね、」
「ちょっと気が変わったわ、そこは、如何なる手を打っても飯富私立資料館の一次閉館にするしか無いわね、御館様にやんわり報告なら何ら沙汰無しでしょうけど、これ程の騒動に発展したなら、敢えて火の元への示しは必要よ、」
「眞幌、それは駄目よ、私達在住の任人は羽振りが良く無いが定説だから、貸本補助が無くなったら、ただ遊興に困るわよ、」
「それは、参ったな、七瀬は特に読書家だしね、確かにそこはね、行く所無くて桃富雑貨店の角茶房に毎日溜まっていたら、そうでなくても棘人が寄り付かなくなるわ、」
距離を窺った燃え盛る黒の軽自動車日産行軍がこことぞ燃え上がり、ガソリンタンクに引火しては轟音大炎上、七瀬眞幌証拠を失っては失意も程々に
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