349 人質(1)


 2週間後、船が戻ってきたようだ。

 なんでも魔族大陸と思われる陸地を発見したらしい。


 威力偵察を試みるも魔物は人族大陸よりも強く、あまり広くは調べられなかったらしい。


 だけど大陸を発見しただけでも立派な功績だ。まあ勇者が最初から大陸の場所を言っててくれれば必要なかった調査なんだけど。

 だけどまあ魔族大陸の魔物が人族大陸の魔物よりも強いという情報は重要だ。


 勇者には騎士団の一部を戦力としてつける予定だそうだが、その人数も増える事になるだろう。


 俺?俺はこの教会の聖遺物の護衛だよ?魔王討伐なんて関係ないからね。

 それに魔族が勇者のことをどれだけ知ってるのかは分からないけど、勇者のいない間に魔族に攻められたらたまったもんじゃない。


 なんせ敵は魔王一人じゃないんだ。四天王もいやにその部下もいる。当然魔物もいるだろうし、勇者が向かったからってその背後が安全な訳では無いのだ。



 そしてその知らせが届いた数日後、また魔族が攻めてきた。今度は人質を用意して。


 俺は教会の上の方から見てただけだが、あれはリリアだ。間違いない。


「勇者よ!冒険者ジンよ!ここにお前らの大切な女を連れてきた。殺されたくなければ降伏しろ!」


 しまったな。まさか魔族に俺の家族の事まで調べられてるとは思わなかった。というか魔族って今まで直接的な攻撃しかしてこなかったから完全に予想外だ。



 あ、勇者が城壁に登った。


「好きにしろ!お前はここで倒す!」


 え?まじで?俺の嫁さんだよ?!


 勇者は城壁を降りて魔族に向かって走り出す。途中の魔物を蹴散らかしながら。


 俺は慌てて風魔法で体を浮かせて城壁まで移動する。魔族がリリアに危害を加える前になんとかしなければ。


「勇者よ!すぐに降伏しろ!この女を殺すぞ!」


「そんな女は知らん!魔族のお前を殺せれば十分だ!」


「な!貴様それでも勇者か!罪もない女子供を人質に取られても意に返さないとか!人でなし!」


 魔族に勇者のあり方を説かれてるよ。


 俺は急いで勇者の後を追いながら魔族の動きを確認する。


 一応ナイフをリリアの首に当ててはいるが、すぐに殺す様子はない。これは勇者に気を引いてもらって奇襲するのが最前か?

 問題は周囲に魔物が溢れてる事だな。後ろに廻ろうにも魔物が邪魔で仕方がない。後ろに転移しようにもすぐ周りを魔物が囲っているので近くには転移できない。さすがに自分たちが転移の手段を持っているだけあってちゃんと対策している。


 その間にも勇者は魔物を切り倒しながら魔族に向かう。


 俺は速度を重視して勇者の通った道を追うが、魔物を倒しながら進む勇者の方が早い。


 仕方ない、ちょっと危険だけど、リリアに当てているナイフを持った腕だけを狙うか?でも間に勇者がいるから狙いがつけづらいんだよな。なんでまっすぐに魔族に進むんだよ。射線が取れないじゃないか。

 いや、真っ直ぐ進むのが一番早く接敵できるのはわかるんだよ?でも俺の都合もあるんだ。勇者邪魔だな。一緒に切り刻むか?


 俺がリリア救出のために考えを巡らせていると勇者は結構魔族の近くまで行ったようだ。魔族の周りはそれなりに強い魔物に囲まれているようで流石の勇者も時間がかかっている。


 今のうちに追いついて勇者を止めるか魔族をなんとかしないと。


「ジンとやら!聞いているか!勇者を止めよ!さもなくばお前の大切な女の命はないと思え!」


 いやでも俺が勇者を止めてもリリアって多分殺されるよね?いや、リリアを人質として俺をいいように使う可能性もあるか。


 いろんな可能性が俺の中を駆け巡るが、一番優先されるのはリリアの安全だ。たとえ降伏してでもリリアは守る。


 だけどまあ、それは最終手段だ。俺が使ったとバレないような角度で魔族を魔法で攻撃してみる。リリアに当たってもなんとかなる足元だ。


 ダメか。周りを囲ってる魔物が思ったより硬い。気配を消しての魔法では貫通できない。だからと言って強力なのを放ったら、俺がジンだとバレるだけでなく、リリアの足まで切り裂いてしまうかもしれない。まあその場合はつなげるが。



 でも待てよ。あれだけ勇者に接近されてもリリアを殺さずに俺に対処しろと言ってるという事は、殺す気がないんじゃないか?そんな危険な賭けに出る気はないけど、そう考えると魔族が必死に俺に対応させようとしているのも分からなくもない。


 誘拐犯との交渉の鉄則はなんだっけ?決して引かない事?いやそれは誘拐じゃなくてテロだったはずだ。




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ちょっとした気まぐれ更新です





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