348 魔族討伐


 魔族が攻めてきた。今回は最初にきた魔族のようで雷の魔法をいきなり使ってきたようだ。


 俺は勇者の戦いを確認するために教会の窓から覗いていた。高い場所なので戦場がよく見える。


 勇者は口だけでなくちゃんと強さも併せ持っていたようだ。


 魔族は最初にこちらの兵士を痺れさせたが、それ以降は勇者の相手で手一杯だ。魔物も大勢引き連れてきているようだが、城壁があるこちらの方が有利。


 勇者と魔族の戦いは互角のようで、お互い引かずにガチで剣を合わせている。勇者は魔法を使ってないが、身体強化系なのか?


 城壁での戦いがだんだんと激しくなって行くと、俺にも待機の指示がきた。魔族が倒せても魔物に城壁を越えられたら意味がないからね。


 待機所からは魔力感知だけで行方を窺っていたが、どうやら勇者が魔族を倒したようだ。そのまま魔物に魔法でも放ってくれれば篭城戦も楽になるんだけど、勇者が魔法を使う雰囲気はない。本気で放出系の魔法が使えないのか、魔族との戦いで魔力を消耗したのか。


 とにかく勇者は城壁に戻ってきてしまって、そのまま部屋に戻ったらしい。未だに魔物が押し寄せているというのに。


 俺は勇者が見てないのをいい事に城壁に登って風の刃で魔物を切り裂いて行く。結構魔物の死体が転がってるので一掃しようにも死体が邪魔して十分な威力が出ない。

 なので死体のない後ろの方を中心に魔物の数を減らしたんだけど、兵士たちも頑張ってくれて魔物の撃退に成功した。


 前回よりもはるかに魔物が多かったのでこちらにも被害が出たようだ。針を飛ばしてくる魔物や、口から火を吐く魔物など、遠距離攻撃のできる魔物が混ざっていたらしい。他にも壁を登ってくるクモ型の魔物とか。

 巨体で城門を壊そうとぶつかってくる奴なんかは、皮も頑丈で矢では歯が立たず、魔法でなんとっか討伐したらしい。俺は勇者とかち合わないように城門からは離れた場所にいたので気づかなかった。



 ふう、とにかく今回の襲撃は防げたな。

 幹部らしき魔族も倒したようだし、まあまあの戦果ではないだろうか。兵士の士気も高いようだし次も頑張ってくれるだろう。






「勇者殿、魔族を倒していただきありがとうございます」


「うん、気にするな。それが俺の仕事だ」


「はい。それでですが、その後魔物を放置された件についてお聞きしたいのですが?」


「うん?魔物は俺の仕事の範囲外だ。俺の仕事は魔族と魔王のみ。それ以外の魔物は知らん」


 俺は勇者に魔物を放置した理由を問い詰めるというので隣の部屋で盗み聞きをしていた。


「ですが、勇者様にはまだ余裕があったように見えましたが」


「当たり前だ。魔王を倒そうというのに部下と苦戦するようでは戦えないだろう」


「いえ、余力があったのなら魔物討伐にも力をお貸しいただければと思った次第でございます」


 勇者の機嫌を伺いながら魔物相手の戦いにも参加してもらうように誘導するのも大変だね。


「さっきも言ったが俺の相手は魔族と魔王のみ。魔物は知らん。お前たちでなんとかしろ」


「あの、それは女神様との契約でしょうか?」


「そう言ってもいい。女神が俺に依頼したのは魔族と魔王だけだからな。魔物に関しては一言も言わなかった。つまり俺の仕事じゃない」


「あの、女神様とはどういうお約束なんでしょうか?」


「魔族と魔王を倒したら元の世界で地位と名誉と金をもらえる事になっている。魔王を倒したら元の世界に戻してくれるらしいからな。

 ああ、そうだ、今度魔族の大陸に向かうから船を用意しておけ。魔族の大陸は南西の方向に約一月だ」


「魔族の大陸の場所をご存知だったのですか?!」


「うん?言ってなかったか?まあ今言ったから問題ないだろう。とにかく船を用意しておけ。いつまでもこんな世界で戦いに明け暮れていたら俺の薔薇色の未来が遅くなってしまう。とっとと終わらせて元の世界で充実した人生をおくるんだ。

 お前たちも早く魔王を倒した方がいいだろう?」


「ええ、もちろんそうですが。。。船は現在魔族大陸の調査に出ていますので戻ってくるのは半月後の予定です。それから再度準備必要ですので、出発は一月後になるかと」


「チッ、そんなにかかるのか。分かった。その間の無聊を慰める女と酒を用意しておけ。俺は魔族の大陸に行く前に英気を養う必要がある」


 うーん、言ってる内容は間違いないんだけど、そうか、女神様とは地位と名誉と金で契約したのか。

 らしいと言えばらしいんだけど、勇者を選ぶときは人格も考慮してくれないませんかね。


 俺ってもしかして船で勇者が出発するまでの一つ、部屋から出ずに隠れてないといけないのかな?本を持ってきてもらうつもりだけど、一月は長いよ?



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