350 人質(2)


 勇者が止まらないとわかると、魔族はリリアの首をザクッと刺した。切り飛ばされてたら俺でも治せないが、刺されただけならまだ助けれる!


 俺はダメージを受けるのを覚悟で魔族の横に転移する。


 周りを守っている魔物と被った左足が吹き飛んだがそれはいい。覚悟の上だ。そして勢いのままリリアを魔族から引き離す。


 魔族はナイフで刺したらもう用済みとばかりに力を入れてなかったので引き寄せるのは簡単だった。


 俺は急いで周囲の魔物を吹き飛ばし、結界を張る。魔族に直接攻撃されたら耐えれるかは分からないが、魔物だったら耐えれるだろう。

 魔族自体は勇者に相手してもらおう。早くしないとリリアが出血死してしまう。


 どうやらリリアは頸動脈を切られているようで、激しく血が吹き出していた。俺はそこに手を当てて回復魔法を使う。

 これで血は止まるはず、、、?なんで回復魔法が効かないんだ?!


 まさかあのナイフ、呪いのナイフかなんかか?だとするとまずは呪いを解かないと。


 とにかく時間との勝負だ。


 まずはリリアの体全体を魔力で覆って毒や呪いなどの状態を確認する。


 チッ、ご丁寧に毒も呪いも両方ついてやがる。


 まずは毒だ。全身に広がったらさすがに治療は無理だ。だけどそれも呪いが邪魔をする。


 なら呪いから解く!


 魔力の大半を使って神聖魔法の魔力を注ぎ込む。これで解除されなければ俺には解除できない。

 徐々に俺の魔力が傷口に染み込んでいき、呪いが弱まっていく。よし!よし!そのまま解呪されるんだ!


 俺は永遠とも感じられる時間を感じながら呪いが薄まっていくのを確認する。


 よし!呪いが消えた!まずは血を止めてないと。


 残り少ない魔力で頸動脈を修復する。まあ回復魔法なんだけど。


 よし、血は止まった。次は毒だ。急がないと全身に回ってしまう。

 心臓の上に手を置いて血管に沿うのをイメージしながら解毒の魔法を全身にかける。

 よし、毒は解毒できたはず。後は魔族から引き離して教会で養生していれば回復するはず。


 クラッ


 あ、やべ。俺も左足が吹き飛んでたんだった。

 でもまずはリリアを抱えて城壁に転移する。兵士たちは魔物と戦っていてこっちを気にしてる暇はないようだが、幸い衛生兵が近くにいた。


 呪いや毒や傷は治療済みであることを伝えて引き渡す。


 そして安心したのがいけなかったのか、俺の意識が途絶えた。












 目が覚めるとベッドの上だった。


 左足はなくなっているので血止めだけされたのだろう。片足を失っても生きて入れるだけマシだな。


 隣のベッドにはリリアが寝かされているようだ。見たところ血色は良いようで生きているようだ。


 ほっとした俺は体を起こして体をずらし、右足だけで隣のベッドに移動する。


 頬を触ると暖かい。良かった。間に合ったんだな。


 首を切り落とされてたら俺にもどうしようもなかったが、魔族はナイフを刺すだけで放置した。呪いや毒に自信があったのか、勇者が近かったので余裕がなかったのか。なんにせよ助かった。なんなら勇者に礼を言っても良い。



 俺がリリアの頬や髪を撫でていると、メイドさんが入ってきた。


「あ、起きられたんですね。聖女様とお医者様をお呼びしますね」


 そう言って出て行った。


 教会の中も特に戦時下という感じもしないので倒れてから結構経ってるのだろう。それに教会が無事だという事は、勇者は魔族を無事倒したんだろう。


 今回は俺は何も出来なかったな。リリアを危険にあわせてしまった。それも危うく死ぬほどの危険に。


 2度と無いように心に刻みながら医者とセルジュ様が来るのを待つ。


 とりあえず二人とも生きてる。それで良いじゃ無いか。




「ジン様、起きられたと聞きましたが」


 セルジュ様と初老の男性が入ってきた。医者だろう。


「ええ、左足は無いですが、それ以外は問題ありません」


「ふぅ、良かったです。大量の血を流しながら倒れたと聞いて慌てて治療したのですが、間に合って良かったです」


「すいません、ご心配をおかけしました。

 それでリリアは魔法で眠らせてるんでしょうか?」


「それですが、、、あの後、一度も目を覚まされていません。毎日回復魔法をかけてなんとか生きている状態です。このままですと食事も取れないので衰弱していくばかりです」


「え?原因はわかってるんですか?」


「大量出血による機能障害だと考えています。まれに奇跡的に命が助かったけれども体はなんとも無いのに目覚めない人がいると聞きます。その類では無いかと思っています」


 脳梗塞?酸素欠乏症?植物人間?

 なんにせよ、この世界には食道に無理やり栄養価の高いものを流し込むような技術なんかない。なので回復魔法である程度生命力を補填してもそれほど長くはもたない。


 くそっ、せっかく助けれたと思ったのに!


「ジン様、ジン様の足の部位欠損ですが私には直せませんので、申し訳ありませんがご自身でお願いします」


 ああ、そっちは問題ない。魔力は回復してるようだし、落ち着いたらしっかり治そう。




 、、、リリア、、、



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