322 ヤパンニ王国の行末
「それでセルジュ様、人族大陸の現状ですが、魔族のこと以外に何か変化はありましたか?」
港のある南に向かっている馬車の中だ。
「そうですね、ヤパンニ王国が正式に解体されました。
調べれば調べるほと国としての体を生してない事がわかりまして。これはこのまま国として残しても正常な運営は出来ないと判断してそうです。領地は最初はザパンニ王国が一国で管理するという方向で話が進んでいたのですが、獣人大陸への窓口として大陸の東海岸が重要になりました。
ザパンニ王国もベスク王国も東海岸には港を持っていませんでしたので、この際だからとヤパンニ王国の領地を南北に分割し、それぞれが管理する形を取るそうです」
そうか、ようやくあの国がなくなったか。重畳重畳。
「ですが、問題もあります」
「問題?帝国などが何か言いましたか?」
「いいえ、逆です。旧ヤパンニ領の立て直しに非常にお金がかかるそうです。住人にも賄賂や密告が当たり前、法律はお金で無視できるという風潮が根付いておりまして。
従わせるためにもある程度の兵力を残しておかないといけませんし。
それに仮にも一国相当の領地です。文官だけでも大量に必要になります。元の官僚は役に立ちませんので。
そう言った背景があり、ザパンニ王国もベスク王国もあの領地を手放したく思っているようです。獣人大陸の件がありますので、完全に手放す事はないと思いますが、港以外を放置してもおかしくありません」
「そんなに酷かったんですか?確かに貴族は酷かったですが、官僚や住民まで?」
「はい。町ではスリや強盗はやられた方が悪い。役人は賄賂次第でどっちへも転ぶ。とにかく法を守るという意識自体が低いのです」
そこまで酷かったのか。一般民衆くらいはまともであって欲しかったが。
「教国や帝国は何も言ってないのですか?」
「はい。もともとヤパンニと帝国には大して繋がりはありませんでしたし、教国はヤパンニにある教会を異端認定しましたから。どうも国王の依頼で信託を得たとか嘘を言っていたらしくて。教会は解体して新たに神官を派遣するそうです」
「腐敗はどこも一緒か。能力がないよりたちが悪いな。
それでは船はロアナではなく他の場所に着くんですか?」
「いえ、この大陸との行き来を考えるとロアナが最適なのは間違い無いので、しばらくは維持するそうです。別途港町を作るとなったらとてつもない予算が必要になりますから」
「そうですか。なら港からザパンニ王国の首都まで一月ほど。イングリッド教国まで一月半くらいですか」
「その位ですね。ただ旧ヤパンニ領では盗賊が大量発生しているそうですので、もう少し時間を見ておいた方がいいと思います」
「冒険者は雇えるのですか?」
「はい。国が最初に行ったのが冒険者ギルドの再建でしたので。すでに人員も大幅に交代していると思います。
冒険者自体も獣人大陸のことなどがあり、それなりに集まっているそうです」
そうか。
獣人大陸に冒険者がいくほど旨味があるかと言われると疑問が多いが、新天地となると期待も大きいのだろう。探索者協会と揉めないと良いんだけどね。
その時、後ろから馬が走って来た。そして馬車を抜く際に大声で話しかけて来た。
「待たれよ!ジンの乗っている馬車と見た!ジンに用がある!止まられよ!」
ああ、この感じ。多分探索者協会だな。スタンピードの時も似たような声かけだった。
御者はそれを聞いて馬車を止めてしまった。
まあ御者としては普通なんだけど、今回に限っては知らぬ存ぜぬで無視して欲しかった。探索者協会の用事なんてロクなものじゃないだろう。特に今の時期だと尚更だ。
馬車が止まると、向こうも馬から降りて来た。
「ジンはいるか?!」
はいはい、今行きますよ。
「俺ですが?」
「お前への召喚状だ!受け取れ!」
召喚状?なんだそれ。
手紙を渡してくるので広げてみると、思った通り探索者協会からだった。
=Eランク探索者ジン=
上記の者に至急、探索者協会王都本部に出頭する事を命ず。
はい?
召喚状って本当に呼ぶだけの手紙か。それに『命ず』ねえ。何の権利があって協会は俺に命令をしてるんだろう?
スタンピードの時にもそうだったけど、協会って恩恵がない割には偉そうだよな。いや、俺も最初はあの街の受付個人の問題だと思ってたんだよ。だけど、事あるごとに失望させてくれるから、これはもう協会全体の事だと思っていいと感じていた。
そして今日のこの召喚状だ。
決めた。協会の会員資格は放棄しよう。
国もなんかまとまってないし、国王が変わった位でまた来たら違う出会いもあるかもしれない。
うん、そうしよう。せっかくこれからこの大陸から帰るんだ。もう来なくったって良いよね?
「内容はわかったと戻って伝えてください」
「うむ」
内容は理解しました。行きませんが。。。
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