323 イカ
船は快適だった。
なんと言っても船員が全員人族だ。
獣人大陸では当然周りは全員獣人。別に獣人を差別する気はないが、ずっと落ち着かなかった。ほっとした今だから気付く事だね。
さて、快適だったと過去形で言っているが、今は甲板の日陰でうずくまっている。
暑い。
日はかんかん照りで、気温は上がり、湿度は高く、とても部屋に入れたものじゃない。もちろん甲板だって暑いんだけど、風があるだけましだ。
部屋は空気が淀んだような空気で耐えれなかった。
「ジン様、氷の追加をお願いしてもよろしいでしょうか?」
メアリー、堪え性がないね。さっき追加したばっかりでしょうが。って、もう溶けてる。
横をみると、クレアとマリアも溶けた氷をただ眺めてぼーっとしている。
仕方ない。
「風よ吹け、水よ現れよ、火よその力を持ち水を冷やせ、土よ我らの天を支えよ。いざ!」
いや、別に精霊魔法が使えるようになったとかじゃないよ?
もう暑すぎて頭が茹だってるんだ。厨二病が発症してもおかしくないよね?
「ジンさまー、何もおきませんよー」
マリア、分かってるから言わなくてよろしい。かっこよく決めたつもりが、魔力が十分に練れてなかった。集中力が切れてるな。魔法って失敗すると暴走するのかな?
「あー、、、冷たくなーれ」
まあ発言はなんでも構わない。というか別になくても良い。ちょっとイメージを固める役に立つだけだ。
周囲の気温が数度下がった。風も涼しく、太陽の光も心持ち和らいだような気がする。
良い魔法だ。
だけど、魔力を食いまくるな。俺の魔力でも1時間持たないぞ?
「1時間だけのボーナスステージだ。今のうちに睡眠をとっておくように」
暑いと寝れないんだよね。日本の夏なんて目じゃないよ?湿度があって暑いと、もうサウナだ。サウナで寝ちゃったら脱水症状で死ぬよ?
さて、なぜこんな環境になっているかというと、航路を南にとったからだ。
この時期の海流は人族大陸から獣人大陸に向かっているらしく、逆行するのは現状では難しい。なので南の海流に乗って移動するわけだ。
で、その結果としてこの暑さがある。
南回りをするという事は暑い場所を通るという意味もあるが、遠回りするという意味でもある。つまりこの暑いのはまだ続くという事だ。
「あー、精霊魔法とか使えたら氷の精霊とか呼んで涼しくしてもらえるんだろうなー」
愚痴くらい言わせてほしい。
今、現在進行形で俺の魔力がガンガン減ってるのだ。こんな状態で魔物でも襲って来たら対処できないよ。
ザパーンッ!
あー、出てくるのね。あれだ、イカの大きいやつ。なんていうのかしれないけど、クラーケン?テンタクル?見ようによってはクラゲのようにも見える。
俺はすぐに冷気の魔法を中断し、戦闘に備える。
結構魔力を消耗しているが、涼しい場所にいたおかげで集中力は戻っている。
イカの触手が船に叩きつけられる、、、前に風の刃で切り飛ばす。海の中から出てくるからタイミングが難しいが、船の前方は視界に入っているのでなんとかなる。
後ろからきたら、、、まあ、船の耐久力に期待しよう。イカの本体は前にいるから大丈夫だろう。
さて、イカってどうやって倒すんだ?触手全部切っても死なないだろうし。頭?的な場所でも切り飛ばせば良いのか?それとも他に急所でもあるのか?
「船長、あれの倒し方はわかりますか?」
甲板の中央で船員に指示を出している船長に聞いてみる。海のことは海の男に聞くべきだろう。
「知らん。あんなのと出会って生きて帰れるわけがないだろう。あれと出会って生き延びた奴がいたら噂になってるはずだ。
そうでないという事は、誰も会った事がないか、あった者が全員死んでるかだ。
どちらにせよ倒し方なんか分かるわけがない」
ごもっともで。
どうするかな。触手も2本切り飛ばしたら攻撃して来なくなったし。お見合いしててもしょうがないんだよね。
海上に出てるのは上の部分だけ。イカの内臓はどこにあるんだっけか。タコと同じように本体の中全体に満遍なくあるのかね。
上だけ切り飛ばしてもなんか生きてそうだしな。
出来れば真ん中をバシュッと切り分けたいところだが。海中なんだよな。
風の刃でも強引にやれば真ん中にまで届くかもしれないけど、多分倒すまでにはいたらないだろうし、水中なら水系の魔法か?飲料水出すくらいしか使った覚えがないけど。
ああ、光系があるじゃないか。こんなに太陽が照ってるのに思いつかないとは俺も焼きが回ったもんだ。
「レーーザーービーームッ!!!」
まだテンションが残っていたようだ。恥ずかしい。
だけど、それだけの結果は残した。さっきの精霊魔法もどきじゃなくて今回のはちゃんと仕事をしている。
極太の光の束がイカに向かって迸り、海水を蒸発させながら突き進み、穴を開けた。
水の屈折のせいか、ちょっと上の方に当たったようだが、それでも上で出てる部分に当てるよりはましだろう。
「やったかっ?!」
ついフラグを立てる俺。ダメだな。また暑くなって来た。
イカは少し沈んだかと思うと、触手を引き戻し、伸ばすと同時に急激に移動した。離れる形で。ついでに周りの海が黒くなったのはイカ墨だろうか。
俺は食べたことがないが、イカ墨は本当に墨の味らしい。グルメによると甘いとかいう表現もあるらしいが、墨汁を食べてるような気分になるらしい。墨汁飲んだことあるのかと聞きたい。
「魔物が逃げていったぞ!」
船長が叫ぶと、船員たちが歓声をあげる。
「今のうちに北に航路をとれ!少しでも離れるぞ!」
船員たちは迅速に動き、航路を北に寄せる。
「ジン、助かった。礼をいう。
この航路はもう使えんな。あんな魔物が出るなんてわかってたら俺もこの航路は使わなかったのに」
そうだな。俺がいたからなんとかなったけど、普通なら沈められてるしな。
まあ、あんな大きな魔物がそんなにいるとは思えないし、大丈夫だろう。フラグじゃないよ?
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