321 魔族の特徴?


「という事で人族大陸に戻ります」


「待たれよ、巫子殿。いきなり『という事で』と言われても状況が分からん。分かるように説明してほしい。

 今は魔族が現れ、魔物が活発化しておる。巫子殿には是非とも国の守護として働いてもらいたいのだ」


 それって断ったよね?

 公務員はお断りだ。


「人族大陸でも魔族が確認されました。俺はその対策のために人族大陸に戻ります」


「なるほど。あちらにも現れているのか。ならばこれは世界的な動きと見るべきじゃな。

 巫子殿にはこれを読んでもらいたい」


 そう言って古い文献を渡して来た。


「これは先祖がこの地に来た際に持って来た、我が国で一番古い資料になる。

 魔王との戦いに関してや魔族の特徴に関して書かれておる。

 この資料のこの部分を見てほしい」


 示された場所を読むと、魔族に関する推測が書かれていた。


 それによると、魔族は魔王のもとで団結しているが、あくまで魔王に従っているだけで、横の繋がりは薄い。そしてどの魔族でも魔物を操れるわけではなく、個体ごとに得意不得意がある事。魔族の寿命は長い。

 などの事が書かれていた。


 中には魔族を捕まえて人体実験したとかいう記述もあったが、毒や薬に強く、拷問に耐える胆力も相当らしい。


 どの資料もあくまで推測だという但し書きが書かれていたので、ちゃんとした研究によるものではないようだが。だが、これはこれで貴重な意見だ。断定するには信頼性に欠けるが、当時考えられていたのだから、それなりに根拠があったはずだ。資料には結果だけが書かれていたので自分で根拠の信頼性を図る事は出来ないが、頭の片隅にはおいておこう。


「貴重な資料ですね。

 これからの魔族対策に役に立ちそうです」


「うむ、それで、この情報の対価として頼みたい事がある」


 え、ただじゃないの?


「王都の南にある城壁に大穴が見つかってな。修理したのは良いが、強化魔法を付与できる者がおらんでな。いや、正確にはできるものはいるが、とてつもない時間がかかる。

 巫子殿の魔力なら早く対処できるのではと思ったわけじゃ」


 そういう事か。獣人は魔法が得意じゃないからね。魔力量がどのくらいあるのかは知らないけど、きっとそれほど広い範囲に付与できる人がいないんだろう。


「分かりました。大きさはどの位ですか?」


「うむ、横10メートル、高さ1メートルと報告を受けておる。

 スラムの長屋があった場所でな。その裏に穴が開けられておった。どうやらスラムの人間が城の内外の行き来に使っておったようじゃ」


 横10メートルってよく城壁が壊れなかったな。自重で壊れそうだけど。


「引き受けてもらえて助かる。これから魔物が襲ってくる可能性が高いのに城壁に穴が空いてるのではやってられんからの」


「では今からやらせて頂きます」


「うん?明日でも良いのじゃぞ?」


「いえ、明日には人族大陸に向けて出発しますので」


「それほど急いでいるのか?」


「ええ、魔族の事は置いておいても、この大陸はこれから発情期に入るでしょう?俺がこの国にいると何かと制限されます。なので発情期に入る前に国を出たいのです」


「なるほど。

 巫子殿は特に対象になりやすいのだったな。去年は大変だったとか。

 分かった。これから壁に案内させよう。頼んだぞ」


「はい」




 日が暮れる間にやってしまおうという事で、城壁に案内されたが、高さ1メートルは報告通りだが、横幅が違った。

 スラムの長屋に沿って穴が開けられたのは間違いないようだが、それが二つあった。現場では当たり前の事のようだったが、あの王様は知らなかったらしい。いや、知ってて隠した?それもないか。隠す意味がないしな。

 となると、王様、情報の鮮度が悪いですね。足元の城壁に関する情報くらい正確に把握しましょうよ。


 まあ良い。穴は塞がれているから、俺は強化魔法をかけるだけだ。


 城壁に手を触れて魔力を広げていく。

 すでに強化魔法のかかっている部分は抵抗があるので、そこは範囲から外す。境目が弱くなるがまあ大丈夫だろう。そこまで保証できない。


 魔力が染み渡っところで強化の魔法を使う。

 普通の魔法だと一気に魔力を放出するのだが、それだとすぐに拡散してしまう。なのでじっくりと染み渡らせる。城壁自体が魔力を帯びるようになり、数十年は持つだろう。

 それ以降はどうするって?知らんよ。俺のできる強化魔法の付与はこれだけだ。永続的な強化が欲しいならやり方を教えてくれ。





「とう事でこの国で手に入る魔族に関する情報は以上です」


 セルジュ様に国王が見せてくれた資料の情報を説明する。


「そうですか。教国でも昔の資料を探しているようですので、戻った頃には何か分かっているかもしれません。今の話は各国に通達しておきましょう」


 俺たちは翌日には馬車で港に向かった。


 あ、フェリス様に挨拶するの忘れてた。まあ良いか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る