320 セルジュ様の依頼
「お帰りなさいセルジュ様」
「ただいま帰りました、ジン様。無事に戻られたようで安心しました」
「ご心配をおかけしました。俺の探索費用を捻出していただいたようでありがとうございました。もしまだ借金があるようならお支払いしたいのですが」
「それは大丈夫です。持っている資金から依頼しただけで、それ以上は依頼していませんでしたので。さすがに国交のない国の聖女が無一文で依頼しても引き受けてもらえませんから。
今回はイングリッド教国からお金を出してもらいましたが、このまま返せそうですね」
「それは良かった。俺もそれなりに稼いでますので、こちらでの生活はお任せください」
挨拶はこんなもんかな?
魔族に関してはセルジュ様に聞くのが一番だろう。イングリッド教国は最後まで魔王軍と戦ったみたいだし。何か言い伝えが残ってるかもしれない。
「それでジン様、少し相談があるのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「魔族というのをご存知ですか?」
「魔王の部下でしょうか?魔物を従えて人族大陸に侵略して来たと聞いていますが」
「その魔族です。
実は戻ったときに聞かされたのですが、アズール帝国の旧首都にあった女神像が魔族を名乗る者に強奪されました。
女神像自体はただの象徴でしかなかったのですが、魔族は旧首都に門から押し入り、衛兵をなぎ倒して女神像を持ち去ったとのことです。
他にもベスク王国では王都の近くにある街の教会が襲われました。
街からは少し離れた場所にあったのですが、魔族が魔物を率いて襲ったそうです。教会から逃れたものは数少なかったのですが、その者たちから聞いた話では、教会の地下に修められていた聖遺物を持ち去ったそうです」
なんと、人族大陸でも魔族が現れたのか。それに聖遺物か。こっちの話とも辻褄が合うな。
「実は先日、昔の教会の遺跡で聖遺物を探しに行ったのですが、見つけた後に横取りされまして。俺もセルジュ様には魔族についてお聞きしようと思ってたところなんです」
「そうでしたか。
それでジン様にはお願いがあります。
魔族に対する戦力として雇われてもらえないでしょうか?」
む、そう来たか。でも各地で襲撃があるのに俺一人では守りきれない。
「守っていただくのはイングリッド教国の総本山、アラート教会です。そこには聖人の遺灰が収められています。聖遺物の中でも最も神聖なものと言われています。
ジン様にはその遺灰を守っていただきたいのです」
なるほど。襲われるものが分かってれば守る事も出来るか。
問題は期間だな。いつまでも魔族が現れずに一生へばりつくわけにも行かないからな。
「はあ、それはどの位の期間でしょうか?
魔族の襲撃と言っても、一度で済むのかも分かりませんし、いつくるかも分かりません。それをずっと守り続けるのは無理があるのですが」
「ええ、その懸念はよく分かります。
魔族の寿命は知りませんが、人間の寿命はせいぜい100年。魔族の時間感覚に合わせていてはこちらが持ちません。
なので、1年間の区切りを設けたいと思っています。
実はすでに一度アラートは襲撃を受けています。神官騎士団で撃退しましたが、次があるのは明白です。
教会でも戦力の充実を計っていますが、準備が整うまでに最低でも一年かかると見積もっています。なのでその間だけ護衛をお願いしたいのです」
ふむ。外から堂々と攻めて来たらなんとでもなるだろうけど、忍び込まれるとどうしようもないな。俺の魔力感知はアクティブだ。魔力を拡散して反応を見るタイプだから、気を張っている時でないと感知できない。
「俺の能力的に守りには向いてないのですが?」
「そうなのですか?しかし、前回の襲撃を退けた以上、さらに戦力を投入してくると考えるべきです。なので、人族最大戦力のジン様に協力願いたいのです」
うーん、最大戦力ね。まあSランクってそんな認識か。
「正面からくればいいですが、忍びこまれたらどうします?」
「そちらは専門の者がおります。もちろん感知に特化しているので戦闘力は高くありませんが、教会には罠も設置してありますし、ジン様が駆けつけるまでは耐えて見せます」
それならなんとかなるかな?
「リリア、どう思う?」
「人族大陸に向かうなら一度ザパンニ王国に戻りたいと思います」
「私もですわ。獣人大陸との国交に関していくつもの懸念点がありますので、その辺をお父様と話し合いたいですわ」
そうか。こっちも放置は出来ないしな。
「分かった。じゃあ、俺はイングリッド教国に向かうから二人はザパンニ王国に戻っててくれ。一年後に再開しよう」
これはセルジュ様の依頼を受けるという事でいいだろう。
この国の体制が盤石でない上に、探索者協会は当てにならないしな。
この国にいて魔族にあったら、街を放り出して逃てしまいそうだ。
「分かりました。イングリッド教国からの依頼という事でいいんですよね?」
「はい。正式な依頼となります。国からの依頼ですので、冒険者ギルドは間に入れませんので直接依頼となりますが」
あれ、国からの依頼ってそうだっけ?
「他の国は知りませんが、イングリッド教国では国からの依頼は全て直接依頼です。高額な依頼になる事が多い上に、国の秘密に関わる事が多いため、冒険者ギルドを間に挟むのが難しいのです。
冒険者ギルドを信用しないわけではありませんが、あくまで別組織。秘密を共有できる間柄ではありません」
それもそうか。探索者協会と比べたらしっかりしてるけど、あっちは多国籍企業だしな。他の国に情報が漏れないとも限らない。
「分かりました。その依頼受けます。
依頼内容は遺灰の奪取阻止。期間は1年、報酬はどうしましょうか?」
「白金貨で30枚。他にもイングリッド教の司祭の地位を用意してあります」
「いえ、地位は遠慮しておきます。では報酬は白金貨30枚で。それで依頼を受けましょう」
「ありがとうございます。私の乗って来た船を待たせてありますので、それで戻りましょう。
この国で何かやり残した事はありませんか?」
「ありません、明日にでも港に向かいましょう」
船のある港に行くだけでも結構時間がかかるからな。俺が戻るまでに襲撃がなければいいんだけど。
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