318 聖遺物の報告
王都に戻ると、教会に急いだ。
「聖遺物を横取りされました」
俺は正直に報告した。
「どう言う事ですか?」
ちょっと端折りすぎたらしい。
「聖遺物を見つけたのですが、魔族が現れて横取りされました」
「は?」
「聖遺物を見つけたのですが、魔族が現れて横取りされました」
通じなかったようなので再度繰り返す。
「魔族?」
「はい、魔族です」
「あの魔族ですか?」
「その魔族です」
「魔族が存在したんですか?」
「頭に二つの捩れた角、背中には蝙蝠の羽。こんな特徴の獣人はいますか?」
「いませんね。角だけならともかく羽までとなると、、、」
「なので魔族です」
「そうですか。それで聖遺物はあったんですね?」
「ええ、短仗がありました。あったのは隠し扉から降りた地下にありました」
「そうですか。ですが持って来れなかったのなら報酬は差し上げれませんよ?見つからなかったのならともかく、横取りされたのでは。。。」
「承知しています。ペナルティーはありますか?」
「そう言えば決めてませんでしたね。探索者ギルドだとあるんですが、冒険者ギルドではどうですか?」
「最初に定めてなければ基本的にはありませんね。まあ成功率によって冒険者のランクが上がったり下がったりするので、それがペナルティーでしょうか」
「ならなしと言う事にしましょう。もともと無かったものですし」
なんと分かりが良いのだろう。
横取りされたとは言え、依頼者にとっては関係ない事。それも横取りされたのは俺のせい。ならその分のペナルティーを課してきても不思議じゃ無かったし、ある程度は覚悟していたのに。
「それで、その魔族は何か言ってましたか?
1000年ぶりに魔族が現れたのです。何かの前兆だと思われるのですが」
「何かの計画が進む。魔王が喜ぶ。でしたか」
「計画ですか。それに魔王。そうですか。魔王が復活したのかもしれませんね」
「え?魔王は一度倒されたのですか?俺の知る話では追い返されたとなってたと思うんですが」
「魔王は倒されました。そして統制が取れなくなった魔族は次々と敗退し、大陸を去ったのです」
そうか。それなら今まで千年の間、再侵攻されなかったのも分かるな。
でも魔王って魔族の王じゃ無いのか?それなら代替わりすれば良いだけの話だけど。もしかして、邪神、みたいに特定の相手を指して、定期的に復活してるのか?
「魔王は魔大陸にいると言われています。
1000年前の大戦では魔王が自ら魔族を率いて攻め込んできました。人族が頑張って魔王を討伐したと聞いていますが、その頃には我々は脱出の準備をしていましたので、詳しいことは分かりません。
ですが、魔王が倒れたと言う話を最後に勢力図が変わったと聞いていますので、何かがあったのは間違い無いでしょう」
1000年前に魔王が倒され、復活した?それで再度侵攻してきた。なるほど。筋は通ってるな。
「こうしてはいられません。陛下にも報告しなければ。巫子殿もきていただけますか。その時の状況を直接報告してもらいたいのですが」
「はい、大丈夫です」
まあ王に報告するのは当然だな。ただ、今の国に魔族対策が出来るだけの実行力があるとは思えないんだが。
「と言う訳です」
「巫子殿、突っ込み所が多いのだが、魔族というのは間違いないのか?」
「教皇様と話した結果、そうだと結論づけました」
「そうか。なら各地で魔物の動向がおかしいのもそのせいかもしれんな。
前にも少し話したが、魔物がテリトリーを出てくる案件が頻発している。巫子殿の討伐したゴブリンエンペラーもその一つじゃろう。
魔族が暗躍していると言うなら辻褄があう。
それでどうすれば良い?」
え?いや、どうするか決めるのは国であって、俺の管轄じゃ無いよ?と言うか、ただの一般人に何頼ってるんだ?
「何せ、魔族なんて出現したことがないからな。前例がない。
対処方法も思いつかん。ただでさえ魔物が出現する場所があやふやになって対応に追われていると言うのに、対処方法のわからない魔族にどうすれば良いのやら」
「陛下、とりあえず、王都に兵を集めてはいかがでしょうか?」
そうそう、教皇様の言うとおり。絶対的な対策じゃないけど、一つの方法だろう。戦力の分散は悪手だからね。
「うむ、それも検討したが、それでは地方の魔物が放置される事になる。どうしてもある程度の騎士団は派遣する必要があるのじゃ」
「では、探索者を雇うというのはどうでしょうか?ダンジョンに潜っている探索者なら魔物相手でも戦えるのでは?」
「巫子殿、どう思うかの?」
ありゃ、結局俺に聞くのか。
「そうですね。普通の探索者を雇うよりかは確かでしょうね。ただ、ダンジョンに潜っている探索者は全体で見ればごく一部です。それだけの人数で対処できるかどうか。
それに探索者はダンジョンに出る魔物しか戦ったことがありません。
ゴブリンやオークならともかく、それ以外の魔物だと戦い方を知らない可能性が高いです」
「それもそうじゃのう。じゃが、それは騎士団とて同じことじゃ。まずは探索者を集めて依頼を、、、依頼、、、アアッ!予算の執行が!」
そう言えば言ってたね、宰相の汚職で予算の執行が滞ってるって。
「じゃが、魔物の対策は緊急を要するし。やはり貴族会議を設けて緊急予算案を出すしか、、、」
なんかどこぞの政治家のような事を言い出したぞ。王様だろう、予算案じゃなくて強権発動の場面じゃないのか?
「王家の資産で探索者を雇う?いやそれでは不十分じゃな。やはり貴族会議が必要か。。。」
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