315 教会1階


 それからは特に魔物が出るわけでもなく、ただ暇な日々が続いた。


 そりゃそうだ。この大陸、基本的に魔物はテリトリーから出てこないからね。人族の大陸の人が聞いたら羨ましく思うだろうな。


 そのまま西に進み、海が見える丘に差し掛かった。どうやら大陸の西に到達したようだ。


「あれが西の海か。あの先に人族の大陸があるんだな」


 黄昏たふうで言ってみたが、他のみんなは特に感慨がないらしい。俺のセリフもスルーだ。もうちょっと反応があっても良いと思う。


「あれが遺跡じゃないでしょうか?」


 うん?ああ、ざ遺跡という感じの城が建っている。あれだけ目立つのだ、他に間違える可能性は無いだろう。


 さて、ここからは教会の依頼だけど、聖遺物を探すんだっけか。前に人族の大陸で聖遺物を探したときには魔力に反応があったから今回も同じで発見できるだろう。

 ただまだちょっと遠いな。あのサイズの城ならせめて城壁を越えないと難しいだろう。


「そうだな。依頼では教会だって話だったけど、あれだけ大きな城だ。関係ないということはないだろう。

 クレア、あっちに向かってくれ」


「承知」


 目で見えてるから向かうのは難しくない。この辺は昔は街道だったのだろう、草が生えそろっていない部分が道のようになっている。昔踏み固められたからだろうか。



 ガタゴトと道を進んでいくと、徐々に北向きになり、最終的には城に向かう。昔の道だろうし、一方向だけでもおかしくないか。

 いや、おかしいな。普通は海に向けての道もあるはずだろう。海から逃げてきたから海には行きたくないってか。そんな訳あるか。逃げてきた当時、海からの恵は唯一の生きる糧だったはずだ。そこへの道が無い訳がない。


 不可解な道のあり方に疑問を覚えながらも馬車は城に向かって進む。


 近くにつれ、大きな城がよく見えるようになってくる。


 これは城か?教会か?


 遠くから見たら城にしか見えなかったが、近づいてみると、ガラスがステンドグラスになってたり、城門に天使の像が描かれていたりした。大きさ的には城なんだが。



 門は閉まっていない、というか、朽ち果てた感じだ。元々は蝶番でしまっていたのだろうけど、その部分は錆びて崩れ去っている。倒れたと思われる城門もグズグズに崩れており、風化したのが見える。おそらく触っただけで形が崩れるだろう。


 馬車でいくには障害物が多いので、降りて歩きで向かう。馬はしばらく城門で待っていてもらおう。



「リリア、これは城だと思うか?教会だと思うか?」


「どうでしょうか。大きさからすると城ですが、造りは教会のようです」


「メアリーはどう思う?」


「教会ですわね。城なら必ずある物見櫓などがありませんし。それに城にステンドグラスはあり得ませんわ」


 まあそうなるよね。


「じゃあ、聖遺物があるとしたらどこだと思う?」


「「地下ですわね」」


 二人とも同じ意見か。


「メアリー、城だと仮定して、宝物庫ってのはどこにある?」


「城だとしたら奥の方ですわね。地下の可能性もありますけど、1階はないでしょうね。攻められた時にも守れる場所でないといけませんから。

 地下なら周りの土が自然の防御になりますので問題ありませんが、1階だと不安です。壁は破られる可能性がありますしね。破城槌などが届かない2階以上でしょうね」


 なるほど、壁を破るには破城槌なんかの強力な打撃力が必要だという事か。攻城戦なんかやった事ないから思い浮かばなかったな。


「なら一階はざっと見るだけにして上に向かってみるか。場合によっては教皇の部屋とかの可能性もあるしな」


「ああ、そういう可能性もありますわね。教会の造りは詳しくはないですけど、偉い人の部屋からの秘密の部屋というのはありがちですし」


 この世界にもそういうのあるんだな。


「ちなみに父上の部屋からも秘密の通路はあるんですよ?いざという時の逃げ道ですけど。最上階の部屋から地下まで階段が続いてるとか。私は通ったことがないですけど、父上が言ってましたわ」


「そんなこと俺に言っても良いのか?」


「構いませんわ。どうせ見つけられませんし。出口も分からないでは知らないも一緒ですわ」


「経験がありそうだな?」


「ええ、聞いた日の夜に父上の寝室に忍び込んで探しましたわ。本を抜き差ししてみたり、燭台を回そうとしてみたり。でもどれもダメでしたわ」


「ああっと、夜に国王の寝室に?それって王妃とか大丈夫なのか?」


「当時はそんな事考えたこともありませんでしたわ。今ならもしそういう事になってたら顔を合わすことも出来なかったでしょうけど。幸いその日は執務に忙しくて部屋には戻ってこなかったようですわ」


 そんなに忙しいのか。国王ってなるもんじゃないな。


「まあそれは良いとして、一階には何もないな。食料なんかは腐るどころか風化して跡形もないし」


「1000年ですもの。そんなものでしょう。何か残ってるとしたら金属製品だけでしょう」


「そうだな」


 次は2階なんだが、この城、いや教会って何階まであるんだ?



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