313 黒歴史
ようやく山の裾野に出た。
昨日から大分近づいてきたとは思っていたが、道が上りになり、岩がゴロゴロしだした。
「これ以上馬車では登れないな。山沿いに西に向かってくれ」
今回は山を登る必要はない。山の裾野から見上げて調査するだけで良い。禿山なのでドラゴンが飛んでたらすぐにわかる。
「じゃあ、ちょっと戻りますね。ここだと馬車が斜めになってて危ないですから」
上りになっているため、横に向かおうとしたら横に斜めになってしまう。そうすると当然転倒の危険が増える。俺たちが怪我することはないだろうが、馬はその限りじゃないし、馬車が壊れたらあとは歩くしかなくなる。木工スキルが取れてれば直せたかもしれないが。
「ここからは御者の他に観測員として一人御者台に乗ることにしよう。夜の番もあるから交代制な」
ドラゴンは夜行性ではないと思うのだが、その行動は謎に包まれているので、夜に動かないとは限らない。いるのかは分からないが、闇属性のドラゴンとかだったら夜に行動しそうだしね。
「それでジン様ったら私を抱き上げて、町中を走り回ったんですよ。そりゃもう恥ずかしかったですわ。でもそんなジン様もたくましくって、、、」
リリアさんや、何を話してるんだい?
「お父様も最初に話を聞いた時には卒倒しそうでしたわ」
それはあれですか。お姫様抱っこのことですか?
リリアとメアリーが御者と観測員をしているときだ。その会話が聞こえてきてから俺は耳を済ませていたのだが、どうやら女子トークらしい。恥ずかしい黒歴史だが、ここで口を挟んだら藪蛇だろう。
「それで噂になってからはジン様が積極的になって、私を抱え上げながら町中をデートしたんですわ」
リリアさんや、その辺で話は終わりましょうね?それか、俺の聞こえないところで話してくれない?
「最後はお父様も折れて、祝福してくれましたわ」
うんうん、そこで話は終わりだよね。そんなに面白い話じゃなかったと思うんだが。
「その晩にはジン様と寝室が一緒で、、、」
「リリア!」
その後はいけない。この話は健全な話です。R15は保険なんです。
「あら、ジン様、聞いてたんですの?」
リリアが恥ずかしそうにしているが、恥ずかしいのはこっちだ。一体何を話そうとしてたんだ。
「一緒に寝たって話ですけど?」
いや、その流れは夫婦のなんちゃらの話になるところだろう。ダメです。それは人に話す内容じゃありません。
「良いじゃないでの。夫婦なら当たり前のことですわ」
メアリー、そのいたずらが成功したような顔はやめなさい。好奇心旺盛なのは良いことだけど、場合によりますよ。
「それでどうなったんですの?」
まだ話を続けるかー?!
「待った!その話はダメだ。リリアもわかるだろう?」
「そうですわね。あれは私とジン様の二人の思い出ですわ。あの時のジン様の優しさと言ったら、、、」
何気に自慢してる!?
「だからその話は、、、」
ちょっと待て、マリアとクレア、君たちは寝てるはずの時間だろう?なぜ前のめりになって聞いてるんだ?
マリアと目が合うと、そらされてしまった。クレアは、、、目が血走ってるな。そんなに聞きたいか?
「ジン様が嫌がってるので、この話は今度にしましょうか。メアリーもいいですよね?」
「ええ、今度じっくりと聞かせてくださいな」
今度なら話すの?!いや、俺のいない所でなら構わないけど!いや、構うのか?まあいい。俺が知らなければいい話だ。
「んんっ。マリア、クレア、お前たちは寝てる時間だろう。ほら、寝た寝た。リリア、観測をかわろう。疲れただろう?」
俺は強制的に話を終わらせるために、メアリーとリリアが御者台に乗っている状況を変えることにした。
しばらくは落ち着いていたと思ったのだが、メアリーがチラチラと俺の方を見ている。
「ん?」
「えっと、その、私もジン様の婚約者ですし、その、話を聞いても良いのではないかと、、、」
まだ諦めてなかったのか?!
「ジン様から見た風景はどんなものだったかとか、、、」
俺目線の話をしろと?
「ジン様の行動はとても情熱的だっと噂で聞きましわ。リリアもそう感じているようですけど、ジン様はどう言った思いでああ言った行動をされたんでしょうか?」
む、俺は結構やけっぱちだったんだが、その事を話すと後ろで聞き耳を立てているリリアが傷つくだろうし。
「噂以上のことはなかったぞ?全て事実だしな」
「ではカフェでキスしてたとかも事実ですの?」
なんでそんな噂があるんだ?!捏造だ!異議申し立てる!
「いや、そんな事はしてないぞ?」
「じゃあ、抱き抱えてる時にお尻を触ってたとかは?」
そんな話が出てるの?!いや、お姫様抱っこだから外から見たらお尻を抱えてるようにも見えるか。
「いや、そんな事はしてないぞ?」
「じゃあ、デートの途中で裏通りに入っていかがわしい事をしてたとかいうのは?」
それはもう噂じゃなくて悪口の類だろう?注目されてる中で裏通りに入ってちょめちょめするなんてあるわけないじゃないか。
「いや、そんな事はしてないぞ?」
「そうですのね。なら私の時はしてくださいね?」
え、メアリーの時って何?
「婚約者ですもの。おかしくないですわよね?あの時の話が情熱的だって女子の中では話題になってて、プロポーズの時に結婚運びをするのが恒例になってるようですわよ?
この間届いたお父様からの手紙にも書いてありましたわ。
弟がプロポーズするのに結婚運びをするかしないかで大臣たちの間で意見が分かれたとか。
流行に乗って結婚運びをするのは王族の義務だというものと、流石に破廉恥だというものがいて。何日か国政が滞ったらしいですわ。
いや、ダメだろう。そんな事で国政が滞るって。多分冗談だろうが、王子様も大変だな。
「まあ政治の話は冗談だとしても、弟は結構悩んだようですわ。相手も結構期待してる風もあったみたいですし。
でも王族が結婚運びはいくら流行でも無理があるとも思いますし」
「そ、そうだな。王族だもんな」
「私はして欲しいですわ」
「いや、しないから」
危ない。危ない。結婚の言質を取られるところだった。変なところに罠を貼るんじゃない。
はあ、のんびりした旅もいいけど、暇にあかせて何を話してるんだか。後ろで聞き耳を立ててる人たちも早く寝なさい。
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