311 肥料


 ふんふんふんー


 俺は上機嫌で肉を切っていた。先日は生姜焼きが好評だったので、今日はオムレツを作ろうと思う。ただ卵を焼いただけの料理だ。俺にも作れるだろう。


 だけど、結果出来上がったのは焼け焦げて卵の味すらしない塊だった。調子に乗って人数分一気に作ろうと思ったのが悪かったのだろうか?こげ始めてから慌てて火から外したのだが、あっという間に真っ黒焦げになってしまった。


「ジン様、それはなんですの?何やら焦げ臭いですが」


「あー、いや、これはだな。うん、肥料だ。この辺の土地は痩せているようだからな。卵を焦したものを与えると土地が元気になるんだ」


「そうなんですの?卵焼きを失敗したようにしか見えませんが」


「そんな訳ないじゃないか。俺が信用できないか?生姜焼きうまかっただろう?」


「ええ、あれは革命でしたわね。ですが、それとその黒い塊は関係あるんですの?」


「ああ、料理じゃないんだから食べれなくて当然だな」


 俺は冷や汗が止まらない。どうもうまく誤魔化されてくれない。話術とかのスキルないのかな?あったらぜひ欲しい。なんなら詐術とかでもいい。


「そうですか。先ほどは料理を作るとおっしゃっていたような気がしますが?」


「ああ、それはこれからだ。火が安定するまでの時間で肥料を作っていたからな。料理はこれからだ」


 嘘だ。ただ単に卵を焦がしただけだ。多少の焦げ付きは覚悟の上だったが、食べれないほど焦げるとは思ってなかった。


「わかりましたわ。そういう事にしておきましょうか。では、今日の献立はなんですの?」


 誤魔化し切れてはないようだが、話題がそれたのは良い事だ。


「うん、オーク肉のステーキだな」


 とりあえず無難なステーキと言っておこう。ステーキなら焼くだけだ。


「楽しみにしていますわ」


 ふう、とりあえず肥料と言ったからには土に埋めておかないとな。証拠隠滅もできて一石二鳥だ。




「ジン様、それはなんですの?」


 俺の手には黒焦げになったオーク肉をのせたフライパンがある。


 おかしいな。ただ焼くだけだったはずなのに。なぜ黒焦げになってるんだ?あれか、面倒だったから油を引かなかったのが原因か?いや、それにしては焦げすぎだな。火が強すぎたとか?それはありそうだ。


「これはだな。そう、肥料だ。この土地は痩せてるからな。少しでも助けになればと思ってな」


 さっきはこれでなんとかなった。今回も話を逸らせるといいんだが。


「今日はオーク肉のステーキだとおっしゃってましてけど、それはオーク肉ではないんですか?」


「いや、これはオーク肉の中でも食えない場所だ。筋の部分でな。人の食用には向いてない場所だ。だから土地の栄養にしようと思ってな」


「オーク肉に食べれない場所なんてありましたっけ?」


「あるんだ」


 ここは言い切って話をそらそう。


「そうですか。では今日の献立はなんですの?」


「スープだ。塩だけじゃないぞ。薬草を煮込んだおいしいやつだ」


 なんか今日は焼くのはダメみたいだから煮込みにしよう。スープなら煮込むだけの簡単作業だ。


「さっきはオーク肉のステーキと言ってたような?」


「気のせいだ。もともとスープの予定だったんだ。そのために焚き火も大きく作ってあるだろう?」


 そう、さっきオーク肉を焼く前に、火力を上げて表面を焦がし、レアで食べようと薪を大量に追加したのだ。


「ではお待ちしていますわね」


 ふう、なんとか乗り切った。でもこれ以上は誤魔化せないからな。

 とりあえずこの焦げたオーク肉は地面に埋めておこう。




「このスープ、塩味しかしませんわね」


「そ、そうか?香草を入れてあるはずなんだが」


「この野菜ですの?これは香草に似てますが、ただの雑草ですわよ?初心者がよく間違えるほどには似てますけど、ジン様が知らないとは思えませんし」


「いや、その雑草にも使い道があるだろうと考えてな。これは研究の一環なんだ。結果は失敗だったが、失敗は成功の母とも言うしな。今回は失敗だったが、次はおいしいのが出来るはずだ」


 どうやら途中で採取した香草はただの雑草だったようだ。見分けなんかつかないよ!鑑定?依頼でもないのに一つ一つ鑑定なんてしないよ。そんな紛らわしい雑草があるなんて知らなかったしね!


「そうですか」


 そう言うと、全員分のスープを鍋に戻し、何種類かの野草を鍋に加えて煮込み始めた。

 まさか、たかがスープに失敗するとは思ってなかったので、言い訳も考えつかなかった。


「どうでしょう?」


 ただの塩水だったスープが、深みのあるおいしいスープに変わっている。野草を追加しただけのはずなんだが。


「うまいな」


「ええ、香草をいくつか入れただけですわ。もちろんさっきの雑草と似た香草も入ってますよ」


 ピクッと俺の眉が震えた。

 どうやら俺が間違えた雑草がちゃんと合ってれば、美味しく出来たらしい。それを指摘されたようでいたたまれない気持ちになった。


「ジン様、これからは料理は私かマリアに任せてくださいね」


 どうやら俺の料理スキルは仕事をしてくれないようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る