308 報告は大事


「巫女殿、今回は宰相が無理を言ったようじゃな。すまんかった」


 翌日には国王に呼び出され、最初に謝られれた。

 まあ謝りもするだろう。自国の宰相が国難よりも娘の婚約祝いを優先したのだから。


「それは構いませんが、陛下からの依頼の最中に呼び出すのは普通なのでしょうか?」


 ちょっと嫌味を言ってみる。


「それを言われると辛いが、あの者も文官としては優秀なんじゃ。ちょっと周りが見えておらん部分もあるがの」


「それで10日ほど無駄にしましたが、真珠の採取を優先しますか?」


 もっと嫌味を言ってみる。


「その依頼はキャンセルじゃ。と言うかすでに断っておるじゃろうに。ああ、宰相には国難を招いたとして罰金を白金貨10枚と、宰相職の解雇をした。

 お主にはすまんが引き続きドラゴンの発見に尽くしてもらいたい。ああ、罰金の半分はお主の依頼に上乗せするからの。慰謝料じゃ」


 おっと依頼料が上がったよ。確か発見できなかった場合は白金貨1枚だったから、最悪でも白金貨6枚になるのか。美味しい仕事になったな。

 でも俺としては罰金と解雇じゃ納得できないな。国難を招いたんだから、反逆罪じゃないのか?


「お主の言うことももっともじゃが、あやつは公爵家の前党首での。いまだに貴族どもの間では権力を持っておる。すでにドラゴンがいると分かっていて、その討伐に向かっている最中に呼び戻したと言うのであれば反逆罪を適用するのじゃが、今は無理じゃ。わしの不徳といたすところじゃが、今回は目をつぶって欲しい」


 この国大丈夫か?

 この大陸にはこの国しかないから外憂と言えば魔物くらいかいないし、その魔物も自分たちのテリトリーから出てこない。だからこんなに甘い判断ができるのだろう。


 まあよその国だから別に滅んでも良いんだけどね。


「ではドラゴンの発見に戻らせていただきますね」


 俺は国王にゴブリンエンペラーの出現の報告を忘れていた。





「ジン様、今回のはなんだったのでしょう?」


「ああ、宰相の独断だったようだな。ドラゴンより娘の婚約祝いを優先するとかどうかしてるとしか思えないな」


「本当ですわ。他国とは言え、王族として信用問題ですわ。今回の件に関してはお父様に手紙を出しますわ。少なくとも危機管理としては国に重大な欠陥があると。国交を開く上で参考にされるでしょう」


 まあそうだな。人族の大陸では魔物は普通にその辺に出るからな。探索者が冒険者に転職したら随分と面白いことになりそうだ。


「まあそう言うな。おかげで依頼料が上乗せされたんだ。それにこの国がドラゴンに滅ぼされても、まだ国交も開いてないんだから痛くも痒くもないだろう?」


「まあそうですけど、すでに本国では商人が動き出していますわ。

 この大陸では魔物素材がそれほど豊富でないのが分かっていますから、その辺りの買い占めが起きてるようですわ」


 ああそう言うこともあるかもね。

 でも、探索者のほとんどは魔物と戦ったことのない連中だ。ダンジョンを探索する探索者はほんの一部だし、そんな探索者が魔物素材を買うかな?鍛冶屋も扱えるかわからないし。


 実は俺も剣を買いなおそうと思って、武器屋に足を運んだことがある。でも大した武器はおいてなかったのだ。

 魔物素材を使った武器や防具は、普通の金属で作った武具よりはるかに優秀だ。それこそゴブリンエンペラーと戦うなんて事になったら鉄の鎧なんて意味がない。

 あの爪でも鉄くらいは切り裂けそうだしね。


「それでゴブリンエンペラーの話に関しては陛下は何か言われてませんでしたの?」


「ん?」


「ゴブリンエンペラーですわ。普段はテリトリーから出てこない魔物が出てきた上に出てきた魔物がゴブリンエンペラーです。ドラゴン並みの国難ですわよ?」


 おう、そうだった。宰相の話で忘れてた。

 確かに魔物の問題はあったな。探索者にゴブリンエンペラーが倒せるとは思えないし。


 ただなあ。さくっと一撃で死んじゃったからあんまり記憶に残ってなかったんだよな。ゴブリンとは言え、エンペラーまで進化したのならもっと強くても良かったと思うんだが。

 この大陸の魔物が弱いとかあるんだろうか?


「ああ、それならこれから報告するところだ。宰相の話と一緒にするのもどうかと思ってな」


 メアリーの視線が痛い。忘れてたとも言いにくいので言い訳を言ってみたが、通じてないらしい。


「まあ良いですわ。ジン様の言われるように他所の国ですし。私の国ではちゃんと報告してくださいね」


 はあ、もう一度王宮に行くか。



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