307 宰相
「巫女殿の一行とお見受けします。宰相様より伝言をことづかっております」
ゴブリンエンペラーと戦った翌日、後ろから早馬がやってきて伝えてきた。
「宰相様ですか。なんでしょう?何か予定が変わりましたか?」
「はい、宰相様は至急依頼したいことがあるので戻ってきてくださるように、との事です」
国王や教皇の依頼よりも緊急なのか?
だけど一国の宰相だ。断るわけにもいかない。
「分かりました。直ぐに引き返します」
「では、私は先に戻って報告しますので」
使者は馬で走って戻ったが、どうにも納得がいかない。
別に今回の依頼は期日を決められている訳ではないので多少の融通は効く。だけど、聖遺物はともかくドラゴンの発見は喫緊の課題だろうに。
だけど宰相が国王の依頼を知らない訳はないし、それを知った上で依頼したいと言うのだ。これは急いで帰って依頼を受けるべきだろう。
「今の聞いてたな?宰相様直々の依頼、それも国王の依頼に横槍を入れるような形だ。よっぽど緊急の案件なんだろう。急いで戻るから道中は大変だが、勘弁してほしい」
馬車はゆっくりと走っている分にはお尻が痛い程度で済むが、急いで走るとなれば結構上下して下手すると馬車から落ちることもある。ずっと気のおけない旅路になるだろう。
ゴブリンエンペラーと戦った場所を過ぎ、ひたすら南へ向かう。来る時は料理したりして時間を使ったが、そんな暇はない。保存食をかじりながら日のある間はずっと馬車に揺られる。
もちろん馬も一日中走らせっぱなしは無理なんだが、回復魔法でなんとかしのいだ。無理させてごめんね。
急いだ甲斐もあって、行きの半分の工程で王都に戻ってきた。
「宰相様から急ぎの依頼と聞き、戻ってまいりました」
一応お偉いさんだからな。
「おお、良く来てくれた。巫女殿、実はおり行って頼みがあるのじゃ」
うんうん、何もない訳がないわな。ドラゴンよりも緊急と言うからにはまたスタンピードか?それともヴァンパイアロードでも出たか?
「先日そなたが真珠の採取に成功したと聞いての」
なんか話が怪しくなってきたぞ。
「わしの娘が先日婚約しての。その祝いに真珠のネックレスを贈りたいと思っておるのじゃ」
なんとなく話が見ててきたけど、ドラゴンより大事な話なんだろうな?
「そこでそなたには真珠を20個とってきたもらいたい。報酬は金貨20枚払おう。探索者には十分な報酬じゃろうて」
騎士のクロードさんは一粒に金貨10枚出したよ?知らないのかな。
「それで期限は10日後じゃ。それまでに20個耳を揃えて納品するように」
何舐めたこと言ってるんだ?100個の貝で一粒がやっとだぞ?20個も集めようと思ったら2000個は取らないといけない計算になる。そもそもそんなに貝はない。もちろん湖全体で言ったらあるのかもしれないが、とてもじゃないが10日で集めれる数じゃない。
「あの、真珠は貝100個に一つしか取れない希少なもので、10日と言うのは、、、」
「そんな事は知らん。そなたは黙って真珠を20個納品すれば良いのじゃ。分かったら早ういかんか」
こいつは冒険者をなんだと思ってるんだ?いや、探索者か。ん、探索者のロクでもない感じからすると、こう言う扱いも普通なのか?
「宰相様、流石に無理があります。そもそも陛下から依頼を受けている身で他の依頼は受けれません」
「陛下から依頼?何のことじゃ?そうか、報酬が不満か。下賎な探索者のくせに足元を見るのだけ上手くなりおって。分かった金貨25枚じゃ。それ以上は出さんぞ」
こいつ、本当に宰相か?国王の出した依頼を知らないなんて。ドラゴンの発見なんて国防の観点からしたら最優先事項だろう。
「申し訳ありませんがお断りさせていただきます」
「なんじゃと!わしの依頼が受けれうんと言うのか!誰か!この者を捉えい!」
ワラワラと騎士が部屋に入ってくるが、俺を見て困惑する。
「早うその男を捕らえて牢に入れろ!2-3日食事を抜いておけ!」
馬鹿か?馬鹿んだな?
入ってきた騎士に見覚えがある。俺の救出部隊にいた騎士だ。名前は知らないけど、向こうも俺の顔を覚えているようだ。
「宰相様、本当にこの男を捕らえるのですか?」
「そう言っておるじゃろう!早うせんか!」
「はあ」
やりたくもないだろうに、俺の袖を掴んで部屋から出る。
「えっと、巫女殿でしたか、申し訳ありません、宰相様の命令ですので牢屋に入っていただきます」
「はあ、お前たちも大変だな。悪いけど、この事をフェリス殿下か陛下に伝えてもらえるか?」
「承知しました。牢では不便のないように手配しますので、しばらく我慢してください」
これで大丈夫だろう。あの場で宰相を凝らしても良かったのだが、一応国王を通した方がスムーズだろう。ムカつくがここは我慢だ。白金貨50枚の仕事の前だ。依頼者の顔は立てないとね。
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