306 ゴブリンエンペラー


「ジン様、暇です」


 リリア、だから王都で待ってろって言ったじゃないか。


「ジン様、暇です。しりとりしましょう」


「いや、さっきまでやってたじゃないか。何度も負けてるのにまだやるのか?」


「他に時間を潰せる遊びが思いつきません」


 まあ確かに。だけどしりとりだけで時間を潰すのは無理だと思うわけだ。それにリリアはしりとりに弱すぎる。「す」攻撃とかすると、すぐに語彙が不足する。

 技術的には語尾に「す」の付く単語を何度も繰り返すだけなんだけどね。

 ちなみに「す」でなくても、ん、以外の文字ならなんでもいい。ずるいと言われるほどに繰り返すとより効果がある。


「じゃあ、マルバツでもするか?」


「マルバツですの?どんな遊びなんですの?」


 暇すぎて新しい遊びに興味を持ったようだ。


 遊び方は簡単。井の字を書いて、丸とバツを交互に描いていき、3つで線が出来れば勝ちだ。ちなみに必勝法はない。そしてある程度慣れたら、必ず引き分けになる程度の遊びだ。


 しばらく遊んでると、引き分けになるのが当たり前になってしまい、新鮮さがなくなった。


「じゃあ、3マスじゃなくて10マスにしようか。5つの線が出来れば勝ちだ」


 この遊び、マスを増やせば増やすほど高度になる。そりゃそうだ。五目並べなんだから。


「結構難しいですわね。メアリー、そこに入れると私の勝ちですよ」


「あら、じゃあ、タンマで」


 見ている俺が暇なので途中で助言をしたりしていたが、その度に最初から遊び直すのは不毛なので、タンマの制度を取り入れた。一回だけやり直せる制度だ。


「メアリー、そこもダメですわ」


「あら、タンマ、は使ってしまいましたね。じゃあ、もう一回お願いします」


 このゲームはリリアが強かった。メアリーも負けまいと頑張っているが、未だに勝てない。ちなみに俺は参加してない。最初のうちは教えながらやっていたので参加していたが、リリアもメアリーもハマってしまい、俺の出番がなくなったのだ。



「クレア、暇じゃないか?」


「いえ、警戒は必要です」


 まあそうなんだけど、クレアばっかり見張りしてるようで申し訳ないんだよな。


 ちなみにマリアはクレアから馬車の操縦を習っており、並足で歩かせるくらいには出来るようになっている。



 俺も五目並べに参加できないので暇だ。


 こんな時に魔物でも襲ってきてくれれば暇つぶしになるんだが。



 って思ってた時期もありました。



 今は周りをゴブリンの集団に囲まれている。


 近くに森がある場所を走っていたのだが、ある時ゴブリンが湧き出したのだ。

 数が少ないから運動がわりに剣で戦おうと思って近づくのを待っていたら、どんどん湧き出して、驚いていたら馬車を囲まれてしまった。


「ジン様、お一人で戦われると言ってましたが、この数を一人で戦われるのですか?」


 いやね、数が少ないから剣で、と思ったんだけど、この数はねえ。魔法でなぎ払うのも可能だけど、一人で、それも剣で戦うと宣言しちゃったから今更魔法で、というのも格好がつかない。


 今は馬車も止まっているし、ゴブリンも周りを囲むだけで襲ってこない。何かを待っているかのようだ。


 馬車の上で剣を抜いて、どちらから襲われても対処できるようにしていると、森の方から体の大きなゴブリンが出てきた。


 ゴブリンキングか?いや、それよりも大きそうだが。ゴブリンエンペラー?キングとエンペラー、どっちが偉いんだ?


 まあいい、どっちでも対して変わらない。問題は周りを囲んでいる雑魚ゴブリンだ。一斉に襲われたら俺たちは無事でも馬や馬車は被害を受ける。


「あー、ゴブリンは任せていいか?俺はあの大きいのやるから」


 剣で戦うのはゴブリンエンペラーとだ、と最初から決めていたかのように指示を出してみるが、ごまかされてくれるだろうか?


「承知」


 お、クレアが真っ先に乗ってくれた。


「仕方ないですわね。メアリー、後ろをお願いしますね」


「任せてくださいな」


 リリアとメアリーは俺の心情をわかっているようだが、乗ってくれた。マリアは?って寝てるじゃん!いくら暇だったからって。。。まあ良いか。他のメンツでも四方を守れるし。


 俺はゴブリンエンペラーの方向のゴブリンを一蹴するべく風の刃を射出する。ちょっと強めに十方向くらいあれば良いか?所詮コブリンだしな。


 上下に分断されたゴブリンの死体が邪魔だが、血飛沫が止まるまであのスペースには入りたくない。エンペラーちゃん、ちょっと待っててね。


 血飛沫が収まってから悠々とゴブリンエンペラーに向かって歩いていく。

 後ろではリリアとメアリーとクレアがゴブリンと戦っているが、まあ大丈夫だろう。マリアもようやく起きたようだし。



「さあ、ゴブリンエンペラー、待たせたな。正々堂々と1対1の勝負と行こうか?」


 ゴォォォォォ!


 ゴブリンエンペラーが咆吼をあげて突っかかってくる。よく見ると、剣も鎧もまとっていないし、危なそうなのといえば伸びた爪くらいだろうか。


 よく考えたら当然か。わざわざ魔物のいる森に探索者は入らないし、殺される探索者がいなければ鎧や剣を拾うことも出来ない。自分で鍛治が出来ない以上、手に入れるのは不可能だ。


 そして剣も鎧も纏っていないゴブリンエンペラーは一刀の下に首をはねられた。


 もうちょっと剣での応酬とかあっても良かったんじゃないかね?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る