300 ぼったくり
団員が適当にばらけてそれぞれが得意属性の魔法を放っていく。散発なので一撃で倒れるほどの威力はないが、火傷なりの怪我でもしてくれれば、後の騎士団が楽になるだろう。
さて、俺は後ろから、魔法を放ちますか。
俺は目視で魔物の後ろに<転移>し、後ろを振り返って、風の魔力を集める。ああ、もちろん人目のない場所から転移したよ?
あまり威力を強くしすぎると、前線にいる探索者にも被害が出るから10倍くらいでいいか?横に長くしてっと。ファイアー。
俺のいる場所から放射状に風の刃が飛び出す。高さは1m位。幅は魔物のところに到着した頃には500mにもなった。
俺の風の刃は長いこと使い続けているうちに、最初の頃よりも薄く、貫通力に優れている。最初の集団にいたゴブリンを中心とした魔物はさくっと真っ二つだ。
半分ほどしか倒せなかったが、まあ探索者達に頑張ってもらおう。君たちがダメでも騎士団がいるからなんとかなるだろう。
さて、俺は後ろからの後続をなんとかしますかね。俺はゴブリンたち5000匹の後ろに<転移>したが、これよりもさらに後方からくる集団もあるのだ。オークやコボルト、オーガ、トロル、他にもいろいろいる。
大型種は数が少ない上に足が遅いので、最後に回して、まずは数の多いオークやコボルトだな。
俺はさっきと同じ威力の風の刃を発生させオークの集団に放つ。
オークが半分ほど死んだようだが、後ろの方は無傷だ。やはりオークの方が防御力が高いな。だけどまあ時間の問題だ。
うわあっぁぁぁっぁ!
後ろがうるさいな。なんだってんだ?
後ろを振り返ると、探索者たちが逃げに走ったようだ。宮廷魔術師たちも馬車に乗り込んでいる。アヴァロンさんが大きく手を振っているが、軽く手を振り返しておいた。転移したこともばれてるかな?
もちろん退却するから戻って来いという合図なのはわかってるけど、後方からきている魔物を殲滅するチャンスなのに撤退するのはもったいない。なんせ100匹で金貨1枚なのだ。
さっきの倍の魔力で風の刃を放つ。ちょっと広げ方が甘くて端っこは残ったが、オークは大体倒したな。
コボルトもついでのように死んでいたので手間が掛からなくていい。
大型種はどうするかな。収束させた魔法なら一撃でも行けると思うけど、騎士団にも手柄は残しておかないとな。
俺は急がないので、戦場を迂回するようにして歩いて戻った。戦場に魔力が渦巻いているので魔力感知があまり役に立たなかったが、魔物とも会わずに戻ることができた。
「おお、巫女殿、魔物に囲まれたかと思いましたぞ」
「ええ、後方から来ていたオークやコボルトを倒してました。大型種もきてたんですが、騎士団に任せようと思って放置しましたが」
「そうですな、騎士団も出撃して相手がいなかったのでは立場もないでしょうしな。
どのくらい倒しましたか?」
「ゴブリンが半分くらい、オークとコボルトで1000程でしょうか」
「つまり2500ですか。一人の戦果として驚異的ですな。依頼して良かったです」
「金貨25枚、忘れないでくださいね」
「もちろんです。戦場の後片付けが終わった後の戦功論証の際に、褒美として渡されることになります」
え、謁見するの?堅いのは遠慮したいなぁ。
「巫女殿は正装をお持ちですか?」
「人族のものでしたらありますが?」
「ふむ、今回は宮廷魔術師団からの依頼となります。その流れでの褒賞となりますので、出来ればこちらの正装を用意していただきたいのですが」
「わかりました。戻ったらすぐにでも用意しましょう」
って話をアヴァロンさんと話していたんだけど、前線に出て行った騎士団から続報が届かない。そろそろゴブリンくらいは突破してもいい頃合いなんだけど。
うわぁぁぁぁぁぁ!
どうやらゴブリンを倒して勝鬨をあげたらしい。後ろから大型種がきますよ?
「全員整列!点呼始め!」
おいおい、後続の魔物の確認は?
「まずいですね。後続の大型種に気付いてないみたいです。ちょっと言って忠告してきます」
アヴァロンさんが騎士団団長のところに向かったが、遅かったようだ。
グォォォォォぉ!
トロルが木を引っこ抜いて点呼している騎士団に投げつけてきた。
終わった気になっていた騎士たちは突然の攻撃になすべくもなく、ただまともにくらっていた。
それからはパニックにこそならなかったものの、隊形が取れてない状況では軍としての力も発揮できず、徐々に後退を強いられていた。
もしかしてオークを倒してちゃって、大型種が到着するのが遅かったので後続がいないと判断したとか、そういう落ち?それって俺が悪いのかな?俺、仕事しただけだよね?
それから1時間ほどして騎士団はオーガやトロルを倒した。周りを囲んで槍でひたすら突くのだが、細かい傷は出来るのだが、効果的な一撃が入らない。個人の技量が足りてない。
なので、宮廷魔術師団の中でも魔力に余裕があったものを前線に回し、攻撃させた。大型種は当然頭が騎士たちより高い場所にある。騎士に怪我させずとも攻撃は出来た。
「やっと終わりですね。あ、騎士団側ではこれから斥候を放つようですね。最初からすれば良かったのに。いえ、独り言です」
「探索者たちはどうなりましたか?」
「さあ?私たちが撤退した頃には見かけませんでしたから、今頃散り散りになってるか、王都に戻ってるんじゃないですか?」
「あれって依頼を達成したことになるんですかね?」
「協会の仕事は我々が到着するまでの足止めです。なので、我々が到着した段階で達成扱いです。国から協会に支払われるでしょう」
「ちなみにいくらか聞いても?」
「金貨で100枚くらいでしょうか」
多いのか少ないのかわからないな。何百人という人間に命をかけさせての金額が1億円。200人として一人50万?いや、協会が自分たちの分を先に取るだろうからもっと少なくなるな。
「ちなみに探索者には一人当たり銀貨10枚のはずです」
「えっと、協会への褒賞から払われる額ですよね?」
「もちろんです」
「残りのお金は?」
「協会のものですな」
ぼったくりじゃん。
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