301 幻覚
ようやくスタンピードが落ち着いた。
騎士団も改めて点呼を取っており、弛緩した空気が流れている。
「アヴァロンさん、あれは良いんですか?」
騎士はちゃんと集まっているが、戦場跡には何十人もの人がいる。全員剣を腰に刺しているので戦闘職なのは間違いない。
「あれですか。探索者だとは思うのですが、取り締まるにも騎士団の手続きが終わってからです。それが分かっているので今のうちに、と火事場泥棒をしてるのでしょう。
どうも魔石だけを回収しているようですな」
さっき逃げてって見当たらなかったのにもう戻って来たのか。
「探索者も商売ですからな。もうけれるときに儲ける。まあ犯罪に近いですが、戦争では戦場での素材の管理は規定にありませんので。
もちろん探索者協会には依頼料を払っていますので、この戦場での素材は基本的に騎士団のものなんですが。戦闘が終わったと認知されれば騎士団が取り締まりますが、現在騎士団は点呼中。取締まではまだ時間がかかるでしょうな。
巫女殿も火事場泥棒してみますか?」
まあそうか。戦争での死体の扱いは毎回違うらしいしね。基本勝ったの方が権利を持つんだけど、魔物相手だと戦ったものが権利を持つ。
探索者が自分が倒した分を取って何が悪いと言われると困るのだ。
「一応協会には魔物の素材は騎士団のものという条件を出していますが、末端の探索者がそれを知ってるとは思えません」
ああ、あの探索者協会ならそういうの告知してなさそうだな。素材を放棄する代わりに報酬を上乗せしろとか交渉してそうだ。
しばらくして騎士団の点呼や装備の確認が終わったら、戦場の片付けに入る。
ここでようやく探索者の排除になるのだが、騎士団が動き出したのを見た探索者はとっとと逃げていった。
「探索者の動きが早いですね?もしかして戦場泥棒は慣れてるんでしょうか?」
「いえ、ずっと戦争なんてなかったですから慣れてるとかはないはずです。ただ法の網目をくぐったような素材採取をしていることからも頭が回るのはわかります。撤退時期も最初から決めてたのでしょう」
「探索者協会に文句は言わないんですか?」
「現行犯なら逮捕できますが、逃げられてしまいましたからな。惚けられるのがオチでしょう」
俺は<光魔法>で幻覚を表示する。もちろんさっきまで探索者が魔物の素材を漁っていたシーンだ。
「これは証拠になりませんか?」
「幻覚の魔法ですか?それなら、、、いえダメですな。幻覚魔法はあくまで幻覚。証拠にはなりません」
「そうですか。なんだか腹が立つので協会に損害を与えてやりたいところですが」
「それでしたら良いのがありますよ?国が表立ってやるわけには行かない方法ですが、協会は間違いなく損をします」
「そんな方法があるんですか?是非、是非教えてください」
「スタンピードを起こせば良いのです。巫女殿の幻覚で。協会はまた強制依頼を出すでしょうが、騎士団が動き出す前には幻覚は消えてしまっているという寸法です。タイミングが大事ですが、騎士団と予め計画を共有していれば問題ありません」
「それは騎士団としてはどうなんでしょうか?大丈夫なんですか?」
「なに、公式には報告を聞いて準備したが、出動前に魔物がいなくなったという報告を聞く、という形です。証拠書類さえ残さなければ問題ありません」
もしかしてアヴァロンさんも探索者協会が嫌いなのかな?
「探索者協会への依頼報酬の扱いはどうなるんですか?自動的に報酬が発生すると損どころか得しそうですが?」
「騎士団が魔物を確認すれば報酬は発生します。ですが、発見できなかったら探索者協会の勇足です。虚偽の報告に惑わされただけです。国に責任はありません」
「探索者の反発があると思いますが?」
「反発は協会に向かいますよ。招集したのは協会なんですから。探索者にとっては国から協会に依頼料が払われたかは関係ありませんから」
うーん、良い案に思えるけど、穴があるような気も。。。
「というのは冗談ですが」
「え?」
「そりゃそうでしょう。詐欺罪に引っかかりますよ?大衆を惑わしたとかで処刑もありえます。まあ犯人がバレたら、ですけどね」
ああそうか。国は知らなかったという立場だから幻覚を作ったものが見つかったら取り締まる必要があるのか。
ってダメじゃん。その場合捕まるの俺じゃないか。
「冗談なんですよね?」
「もちろんです。私が唆したなんて話が出たら私の首も危うくなります」
「やっちゃダメなんですよね?」
「もちろんです。私が話す前だったら私も誰がやったか知らないと言えますが、この話をした以上、同じ事が起きたら、この会話を話さざるをえません」
「じゃあ、ダメですね」
「はい、ダメです」
非常に残念だ。協会に金貨単位での損害と探索者からの不信感という2重ダメージを与えれるかと思ったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます