299 スタンピード


「巫女殿!お休みのところ申し訳ありません!スタンピードです!」


「ああ、それなら探索者協会から聞きましたよ。私に何のようですか?」


「アヴァロンさまからの伝言です!スタンピードに対応するためにお力をお借りしたいと。馬車を待たせてますので、出来ればこのままついてきていただけるとありがたいです!」


 アヴァロンさんか。まあ義理はないけど、嫌いじゃないしな。これからも何か頼るかもしれないし、恩を売っといて損はないか。


「わかりました。装備を持ってきますので、少しお待ちください」


 俺は自分の部屋に戻り、装備を身に着ける。まあ適当でいいだろう。もともとそれほど防御力の高い装備じゃないしな。



 使者の馬車に乗って王宮へ向かう。のかと思ったら騎士団の詰所に連れて行かれた。


「おお、巫女殿、御足労いただいて申し訳ない。スタンピードの話は聞かれてましたか?」


「ええ、探索者協会が参加しろとうるさかったですね。断りましたが」


「それは運が良かったですな。もちろん私にとってですが。

 騎士団と宮廷魔術師団が出撃の準備を整えています。その最初の一撃をできるだけ高威力の魔法で数を削って欲しいのです。

 騎士団と魔物がぶつかり合ったらどうせ魔法の出番はありません。なので、ぶつかり合う前にどれだけ魔物を減らせるかが勝負になります。宮廷魔術師団もそれなりに使えるものはおりますが、おそらく巫女殿ほどに使えるものはいないでしょう。最初の一発だけでも引き受けてもらえませんか?」


 なるほど。集団戦の経験はないから、連携してチマチマと、というなら断ったかもしれないけど、最初の大技だけでいいなら引き受けてもいいな。


「報酬は期待してもいいんですかね?」


「もちろんです。魔物100匹で金貨1枚出しましょう」


「魔物は何匹くらいいるんですか?」


「最低でも5000。まだ増え続けているようです」


「じゃあ、金貨50枚用意しておいてください。最初の集団は俺が一掃します」


「おお、頼もしいですな。報酬の方は国が保証しますのでよろしくお願いします」


 探索者ギルドもこういう風に持ってくれば話くらい聞いてあげたのにね。



 俺は騎士団の人たちが準備しているのを横目に馬車に乗っていた。王都を出て、最前線まで行って、大技で一当てするのだ。俺の後ろには同じ目的の宮廷魔術師団の団員が馬車で運ばれている。



 だけど、現場に到着した時には戦場は入り乱れていた。


 原因は探索者だ。策も何もなしに突っ込んだのだろう。全く統制が取れずに個々に戦っている。これじゃあ全滅するんじゃないか?

 中には無双してる人もいるけど、数人だ。おそらくランクの高い人なんだろうけど、数人では限界がある。


 さて、俺は魔物の集団に魔法を放つだけの仕事だったはずなんだが、探索者が邪魔で大技が使えない。まあ大技と言っても風の刃を魔力任せに強化するだけなんだけどね。


「アヴァロンさん、これはどうしましょうか?探索者ごとまとめて薙ぎ払ってもいいですか?」


「い、いや、それはいかん!こういう時は、、、そう、落ち着くんだ。ひっひっふー」


 その呼吸の仕方はネタだろうか?突っ込んだ方がいいのかな?


 アヴァロンさんはこう言った戦場を経験したことがないのだろう。テンパっているようだ。


「それでどうしますか?あれだけ入り乱れていると、魔法で攻撃するのは難しいですよ?」


「確かにそうですな。しかし、ここまで入り乱れてるとは探索者協会は何をやってるんでしょうか?

 もっと軍のように整然と進めないと、集団として機能しないというのに」


「誰か中心となるカリスマのある人がいれば良かったんでしょうけどね。協会も人材不足だったんじゃないですか?」


「巫女殿は探索者協会を嫌っておられるのか?」


「あまり好きではないですね。俺の魔力が測れなかったからと最低ランクにした上で、いざとなったら義務だとかで戦場に駆り出そうとする。受付嬢が最悪だったのもありますね。本部の人はわかりませんが、俺の評価は受付嬢の対応が基準ですので」


「そうか。探索者協会にもそういう者がいるのか。組織には必ずそう言った者が一人はいるもんだ。運が悪かったですな」


「それでどうするんですか?このままだと探索者が逃げ出すのも時間の問題ですよ?」


「うむ。こちらとしてはさっさと逃げ出してもらった方がいいんだが、魔物も後を追うだろうし、完全に分離するのは難しいか」


「ならこうしませんか?魔物の集団の後ろだけ魔法で攻撃するんです。前線は探索者に支えてもらって。探索者が逃げ出したら俺たちも逃げましょう」


「うむ。それしかないか。

 全員聞いたな!敵の後方に向かって魔法を撃ちまくれ。ある程度の損害を与えたら撤退する!」

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