296 誕生日


「巫女殿、使節団についてじゃが、相談に乗ってくれんかの?」


 先日のパンツ騒動で仲良くなった陛下からお呼びがかかり、王宮に向かうと真面目な相談をされた。


「使節団ですか?私は全然関与していませんが?」


「うむ、それは知っておる。人族大陸の常識とのすり合わせがしたいのじゃ。まさか使節団の者に直接それは常識なのかと問うわけにもいかんでな」


「別に聞いてもいいと思いますけど。もともと文化の違いがあるのは最初から分かってる事ですし。何か聞くのがまずいことでもあるのですか?」


「うむ。獣人族の発情期は知っておるな?その発情期じゃが、人族にはないと聞いておる。ではどうやって子孫を残すかという事じゃ。こういう事はデリケートじゃて、人族ではお主くらいしか話せる相手がおらんのじゃ」


 むう、確かにそっちの話はしにくいだろうな。

 でも人族は年中発情してますって言ったら何か誤解されそうだしな。


「人族には特定の時期というのはありません。特定の時期に発情するのではなく、もっと平均的に年間を通じて発情期があるというか。お互いに気分が高まった時が発情期だといえます」


 うん、それなりに穏便に説明できたと思う。


「ならばどうやって子孫を残すのじゃ?発情期以外では子供は出来んじゃろう?」


 え、発情期以外では子供は出来ないの?


「えっと、獣人は発情期以外では子供は出来ないのですか?人族は年中可能ですが」


「うむ、不可能ではないが、確率は低いのぅ。まあ発情期以外で盛るのも少ないという理由もあるじゃろうが。大体は年明けに生まれるのがほとんどじゃな」


 なんと。誕生日とかどうするんだろう?みんな近い日だとプレゼントも大変じゃないかな。


「誕生日?まあ貴族には祝うものもいるが、一般的には春の祭りのついでに祝う感じじゃな。誕生日はあまり重要視されておらん。ほとんどの者が似たような時期に生まれておるからいちいち祝ってたら、1日にいくつものパーティーを梯子せねばならん」


 おお、これは新しい情報だな。どちらかといえば、使節団の方に情報を流した方が有益かもしれない。


「では、人族はそれなりに誕生日を大事にしていると認識していただいた方がいいですね。私も妻の誕生日を忘れたらなんと言われるかわかりません。もしかしたら寝室に入れてもらえないかもしれません」


「なんと、それほどか。ふむ、使節団の者の誕生日も調べた方が良いかの?」


「男性ならあまり気にしなくても良いと思います。女性もある程度の年齢になりますと、逆に怒られたりしますので注意が必要です」


「難しいの。ある程度の年齢と言うとどのくらいじゃ?」


「20代半ばでしょうか。夫婦ならいつまでたっても祝って大丈夫ですが、ただの知人ですと年取るのがそんなに嬉しいかと怒られます」


「むう。歳なぞ毎年自動的にとるもんじゃがのう」


「20代半ばからお肌の曲がり角と言われまして、若さが衰えていくと言われています。なので、それ以降は誕生日ごとに衰えを認識させられるので、誕生日を嫌う女性が多いのです。

 もちろん人によっては年齢にかかわらず誕生日を祝って欲しい方もいらっしゃいますが、少数派でしょう」


「わしは妃の誕生日を祝った記憶がないんじゃが、、、と言うか誕生日を知らんの?」


 なんで疑問形なんですか。


「お妃様なら誕生日を祝ってもいいのではないでしょうか?本人に確認するとなんですので、他から調べて、プレゼントなどしてはいかがでしょうか?」


「ふむ。それもいいかも知れんの。巫女殿、確かお主の妻は王族であったな?妃と話をするように出来んかの?」


 王族?メアリーの事か?


「えっと、メアリーの事でしょうか?彼女は私の妻ではありません。リリアというのが私の妻です」


「うん?お主の妻は一人だけなのか?お主ほどの力量の持ち主なら何人か妻を娶っておってもおかしくないと思ったのじゃが」


「まあ、不可能ではありませんが、私にはそれほどの甲斐性はありませんので。それよりもメアリーにお妃様の誕生日を確認させればいいんですね?」


「うむ、妻でないのなら頼むのは難しいか?」


「いえ、大丈夫です。誕生日を確認するくらいはやってくれるでしょう」


「なら頼むぞ」





「ジン様、お妃様の誕生日がわかりました?」


 何故疑問形?


「誕生日は春の3週目くらいだそうです」


「は?くらいってなんだ?」


「はい、本人も大体そのくらいだとしか記憶してないそうです。両親もすでに亡くなられてますので、知ってる方はいないのではないでしょうか」


 なんと、そこまで誕生日に関心がなかったとは。本人も知らないんじゃどうしようもないな。下手すると両親でも覚えてなかった可能性もあるな。


「お前なら誕生日を祝うのをどうする?」


「その位の時期を見計らってお茶会を開くとかでしょうか。誕生日の近い方を集めて合同誕生日会みたいな形で。女性だけなら角も立ちませんし、多少誕生日がずれてても参加できますし」


「開催したとして、陛下からどうやってプレゼントを渡せばいい?」


「お茶会でつけるアクセサリーだと言えばいいんじゃないでしょうか?誕生日だと言われてもピンとこないでしょうから、その位の方がむしろいいかも知れません」


 なるほど。一理あるな。陛下に助言してみるか。




「素晴らしい!その案に乗った!ちょうど季節的にもいいし、お茶会を行おう。プレゼントは何がいいかの?」


「やはりアクセサリーでしょうね。お茶会につけられる物ですからネックレスとかでしょうか。ブレスレットや指輪だと茶器に当たってしまいますから」


「ふむ。その辺で探してみるか。うむ、良い案をもらった。また何かあれば相談させてくれ」


 いえ、こんな気を遣う相談はやめてください。女性の年齢問題は俺にも致命的なんですから。





「ジン様、私の誕生日、ご存知ですか?」


 。。。メアリー、俺が知ってるとおもおうか?

 というかリリアの誕生日も知らない。もしかして俺ピンチ?


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