297 喧嘩


「巫女殿、少し話をしても良いか?」


「はあ、なんでしょうか?」


 昨日呼ばれて誕生日お茶会の提案をしたばかりだというのにまた呼び出された。


「お茶会の事じゃが、、、お主から誘ってもらえんかの?」


「はい?陛下が乗り気になってたんじゃなかったですか?てっきり陛下主催でお茶会を開くのかと思ってましたが?」


「うむ、そのつもりだったんじゃが、昨日妃と喧嘩してのう。まだお茶会の話をする前だったのもあって話づらくての。

 ああ、喧嘩はよくある事じゃから心配する事はないぞ。ただ仲直りするにも時間がかかる。そして誕生日は近い。

 貴族共を呼ぶ手前もあって、そろそろ招待状を送らねばならんので、仲直りを待っている時間はない」


「えっと、早急に仲直りするというわけにはいかないんですか?

 私から、というか、メアリーから誘うには理由がないんですが」


「うむ。お主になら良いか。わしは妃と仲直りするときは必ず閨を共にしておる。なので、いつ喧嘩しようとも仲直りは春先じゃ。春先は誕生日よりも後。つまり間に合わんのじゃ」


 いやまあ、喧嘩のあとは激しくなるという統計もある事だし、否定はしないですけどね?それ以外でも仲直りしましょうよ。


「わしはな、小さい頃より王家の王太子とし躾けられ、妃とも見合い結婚じゃった」


 なんか昔語が始まったよ。


「決して愛情がないわけではないが、仲良くなるより前に結婚してしまい、初夜を迎えたのじゃ」


 まあ、なんとなく話が見えてきたけどね。


「妃とは政務の話以外はほとんどなくてな。義務的に夜の契りを結ぶだけじゃった」


 ふむふむ。


「そんなある日、些細なことで喧嘩してのぅ。お互い仲を戻さないといけないとは分かってはいたが、普段話すことも無いため機会がなかったのじゃ」


 ほうほう。


「しかし、春先には発情期が来る。そこでは閨を共にするのが王としての義務でもある。無論発情してるというのもあるが。そしてそれは妃も同じで、半ば強制的に閨を共にしたのじゃ。

 不思議なことに翌日からは普通に話せるようになっての。それからは暗黙の了解として喧嘩の仲直りは閨を共にした後、という感じになっておる」


 はあぁ。面倒くさ。

 つまり、発情期以外では寝る場所が別なのがいけないんじゃない?わざわざ発情期に閨を共にしなくても、普段から一緒に寝ればいいじゃないか。

 普段一緒に寝れない理由でもあるの?


「それでも最近は歳と共に喧嘩もしなくなって問題なかったんじゃが。昨日の喧嘩は正直わしの方が悪かったのじゃ。誕生日を何故覚えてないのかとついなじってしまってのぅ。

 誕生日を覚えてる貴族の方が少ないというのに、つい、な。誕生日のお茶会の話の前段階の話として切り出したんじゃが、そこで拗れてしまっては話も出来ん。今朝は部屋に引きこもって顔も合わせてくれなんだ」


 はあ、もうそのまま喧嘩してればいいんじゃない?もともとお茶会開くの目的じゃなかったんだしさ。人族の性事情を知りたかっただけだったんだよね?

 なんか誕生日のお茶会がメインの相談になってるけど、人族の話は終わったし、お茶会は自分たちでなんとかしてくれませんかね?


「そこで問題なのが、わしはすでに侍女に誕生日お茶会の準備を指示してしまっておったのじゃ。噂は貴族の間でも広がっての。今日の昼にはいつ行うのかと聞いてくる始末じゃ。今更喧嘩したからなし、とは言えん」


 まあ事前準備とか考えたら先に指示するのもわかるけどね。


「つまり、喧嘩の仲裁ではなく、お茶会への参加を承知させれば良いという事ですか?」


「うむ」


 まあそれだけならメアリー経由で誘えば問題ないだろう。


「それでプレゼントはどうするんですか?仲直りしてないのに渡せるんですか?」


 俺は何を掘り下げてるんだ!ここは素直に引いて、お茶会を開催するだけで良いだろうに!


「うむ、それも相談しても良いかの?」


 やっぱり来た!掘り下げたら来るの分かってたのに!


「陛下、獣人族は発情期以外では閨を共にする事はないのですか?」


「いや、そんな事はないぞ。決して多くはないが、そういう気分になる事はあるからの。ただ、わしも歳じゃからな。最近は春先だけの義務と化しておる。それも一夜だけのおざなりな、な。そんな状況で発情期以外で閨を共にしようだなんて言い出せんのじゃよ」


 ただのへたれじゃん。


「わかりました。侍従長さんと話をさせてもらっても良いですか?」


「もちろん構わん。なんとかする方法があるならやってくれ」


 ふう。こんなの悩む必要なんてないのにね。





「陛下、今日はこちらでお休みください」


「うむ、寝室ではないのじゃな?」


「はい、申し訳ありませんが寝室はメイドが粗相をしまして。今日はこちらでお願いできないでしょうか」


「そうか。まあそういう日もあるじゃろう。良い、今日はここで寝るとしよう」



「うん?妃!何故わしの寝室におるのじゃ?」


「侍従長が部屋はメイドが粗相をしたからこちらで寝るようにと、、、」


「むう、、、」


「ふう、あなた、侍従長が気を回したんでしょう。昨日の事は忘れてあげます。何か私に話したいことがあったのでしょう?」


「む?うむ。誕生日のことじゃがな、、、」


「ふふ、夜は長いです。ゆっくり聞きますよ」




 陛下、女性の方が精神的には大人なんですよ?感情的になりがちですが、愛情は女性の方が深いんです。素直になれば女性の方から折れてくれます。


 、、、とか、言えれば良いんだけどなぁ。俺が言っても説得力ないしなぁ。



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