290 執事


「それでは騎士ティーゲルはこれからは巫女様の物です。

 これはこの国での取引となりますので、彼女には給金を支払う義務があります。彼女は元近衛騎士ですのでそれなりの給金をお願いします」


 役所の人事部の人が説明してくれた。

 フェリス様の幼なじみのティーゲルさんの借金の肩代わりで借金奴隷とする手続きをしていたのだ。


「いくらくらいが相場ですか?」


「近衛の給金が年金貨2枚くらいですので、その半分くらいが相場かと」


 金貨80枚の借金だからそのままだと80年かかるのか。獣人の寿命は知らないけど、生きてるうちには返せないな。フェリス様がんばれ。


「巫女様、この度はありがとうございます。私の借金を肩代わりしていただいて」


「ああ、担保代わりに奴隷になってもらったが、何年かしたらフェリス様が身請けするらしいからそれまでよろしくな。

 お前には王都での顔つなぎになってもらおうと思っている」


「顔つなぎですか?」


「ああ、俺はこの王都に知り合いはいないからな。お前の友人たちを通じて何か情報があれば知らせてくれれば良い」


「それだけですか?」


「ああ、もともと仕事なんかないしな。王都の噂を集めてくれれば良いさ」


「ではこちらをどうぞ。最新号です」


 ん?紙一枚だが、、、月間ポッター?


『今月のおすすめはこの店!オークジェネラルの肉が安い!』


 なるほど。グルメニュースか。


「グルメだけでなくファッションも文芸も扱っています。とにかく話題になっているものを紹介するという雑誌です」


 紙一枚だけど雑誌なんだね。


「月刊ですが、銀貨1枚という価格にもかかわらず人気の雑誌です。商人貴族関係なく読まれている影響力のある雑誌です」


 ふむ。人族の大陸にはそんな文化なかったな。いや、あったのか?今度リリアに聞いておこう。


「ああ、この程度の情報でも充分だ。

 そうだな、ずっと宿も大変だろうし、家を借りるか。ティーゲル、適当な家を探しておいてくれ。たまに王都に戻ってきたときに起点とするからそれなりに広い場所を頼む」


「予算はどのくらいにしましょうか?」


「そうだな、金貨50枚以内で頼む」


「承知しました。今から行ってまいります」


 近衛だったからだろうか、口調が堅いな。

 まあ、女性同士、リリアたちと仲良くなればそのうち崩れて来るだろう。




「リリア、奴隷とはいえ、数年後にはフェリス様に返すことが決まってるからな。仲良くやってくれ。

 それとせっかくの機会だから獣人族の文化を教わっておいてくれ。これから活動するのに役に立つだろうからな」


「分かりました。ですけど、マリアさんもクレアさんも奴隷扱いしてないからどう接したら良いものやら。同じで良いのでしょうか?」


「良いと思うぞ。この大陸じゃ人族よりも奴隷の立場が上みたいだしな。普通に友達でいいんじゃないか?」


「そうですね。じゃあ、私も家探しに同行してもいいかしら?」


「ああ、行ってこい。王都での足場になるからな。好きなの探してこい」



 とは言ったが、ティーゲルの金貨80枚は正直痛い。さらに家を買うのに金貨50枚とすると、人族の白金貨を買い取ってもらったお金では心許ない。

 ああ、白金貨はこの大陸では使えないから金属の価値だけで判断して買い取ってもらった。この大陸では白金貨は高価らしいので、金貨80枚くらいになった。損するけどないそでは振れないからね。




「という事でティーゲル、家も買ったし家具も揃えた。今日からここはお前の家だ。俺たちがいる間は一緒に住むが、ダンジョンに行ってる間はお前が管理してくれ。

 給金の範囲内でなら人を雇ってもいい。情報を集める上で必要な金は経費として請求してくれ。その辺りは騎士団でもあっただろう?」


「はい、大丈夫です。お預かりしたお金は大切に使わせていただきます。

 それで一つお願いがあるのですが。。。」


「なんだ?」


「はい。フェリス様にお会いするために王宮に向かうためにジン様の名前を使わせて頂きたいのですが」


「そんなことか。いいぞ。俺の使者だと言って行けばいい。日中なら会えるんじゃないか?」


「はい、ジン様の名前なら大丈夫です。

 それと、王宮からお手紙が届いています。宮廷魔術師長のアヴァロン殿からです。何か相談したいことがあるとか」


「わかった。これから行ってみる」


 なんかティーゲルは執事という感じの立ち位置になりそうだな。これまでの感じだと結構有能そうだけど、フェリス様に返さないとダメかな?

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