291 水難の相
「よく来てくれました、巫女殿」
「何か相談があるとか?」
「はい。宝物庫にある宝物についてなのですが、効果が分かってないものがいくつかあります。それを鑑定していただけないでしょうか?」
「宝物庫のものは鑑定済みじゃないんですか?」
「ええ、基本的には鑑定されているのですが、鑑定に詳しいものが最近はおらず、正確な情報がないものがあるのです。
先日のオーガキラー、いえ、ゴブリンジェネラルキラーですか、あれもそうですが、名前すら正確でないものがあります。
鑑定に強いものがいた時代は良かったのですが、最近のものはちょっと疑問がありまして。
どうかお願いできませんでしょうか?」
「何点くらいあるのですか?」
「お願いしたいのは100点以上ありますが、出来る範囲で構いません。武器防具だけでなく、一般アイテムもあります。中には有力な貴族からの献上品として納められているものもあります。
これが厄介な所でして、有力貴族からの献上品を収める際にその貴族が言った名称をそのまま記録してあるのです。国としては独自に鑑定したい所ですが、それでその貴族の提示した名前と違ったりしたら信用に関わりますので、鵜呑みにしているのです。
今回のゴブリンジェネラルキラーで名称が違ったものがあるのが判明したので、他のも一斉に調査する、と言う名目できちんと鑑定したいのです。もちろん点数が多いので、鑑定の出来るものは総動員する予定です。
巫女殿にはその中でも価値の高いと思われるものをお願いしたいのです」
なるほど。貴族は面倒だね。
しかし、有力貴族の献上品を鑑定か。もし違った結果が出たりしたら恨まれそうだな。
「誰が鑑定したかは発表するのですか?」
「いえ、それでは鑑定したものに責任が行ってしまいますので鑑定人の名前は発表しますが、誰がどの宝物を鑑定したかは秘匿します」
ふむ。それなら俺をそのリストに入れなければ問題ないか?
「はい、それなら可能です。一部の宝物と、鑑定人が自信がないと言ったものを鑑定していただければ結構です」
「わかりました。引き受けましょう。報酬はどうなりますか?」
「今回の鑑定全体で金貨30枚を計上していますので、その半分と考えています」
ふむ。金貨15枚か。鑑定するだけで責任もないし、そんなものかな。
「いつやりますか?」
「他の鑑定人が集まるのに時間がかかりますので、5日後でいかがでしょうか?」
「わかりました。家を買ったので、そこまで迎えを寄越してもらえますか?」
「承知しました」
家に戻る途中でふと思い立って探索者ギルドに寄ってみた。
『鑑定士募集 一日限定 銀貨10枚 経験者優遇』
何だかなあ。集めるのに時間がかかるってこれのせいか?
『オオアザトカミコウムシの調査 東の平原にいるとの情報あり 捕まえた人には金貨2枚進呈』
うーん、何の虫か知らないけど、広い平原を探し回るのか?現実的じゃないな。
『魔物の討伐 監獄都市ヘブン 基本給月銀貨10枚 討伐実績により追加あり』
監獄都市?刑務所かな。この大陸で魔物が出る場所は限られているはずだからわざわざそういう場所に作ったんだろうね。月銀貨10枚じゃやってられないね。
『ドラゴン討伐 伝説のドラゴンを討伐せよ! タチワナ教団系列の関連商会 討伐証明持参で金貨30枚』
教会の系列のさらに関連商会って、ほとんど関係ないじゃん。
それに伝説と言ってるドラゴンを討伐って場所わかってるのかな?それに討伐で金貨30枚って舐めてるのか?
ダメだな。探索者協会はダンジョンの素材売却の組織と割り切った方が良さそうだ。
俺が帰ろうとしたら、出口の横から声をかけられた。
「もし、そこのお方」
チラッと見ると、皺くちゃのお婆さんだった。
「お主には水難の相が見える。そのままでは水に溺れて死ぬ未来しかない!
そこでこの水中呼吸飴の出番じゃ!この飴を舐めている間は水中でも呼吸ができる優れものじゃ。
今なら初回限定価格で一粒銀貨2枚で進呈中じゃ。定価は銀貨8枚じゃからお得じゃぞ?
さらにじゃ!3粒購入で銀貨5枚にしてやろう!
水難にあった時に仲間がいても安心じゃ。仲間を巻き込むのは悪いからのう。
さらにじゃ!いますぐの購入ならこの水中ゴーグルをつけよう!
どうじゃ今だけじゃぞ?!」
いや、どこの通販だよ。それに水中で呼吸できる飴なんて聞いたことないぞ?もしあったら錬金術の歴史が変わるんじゃないか?
俺は無視して帰ることにした。
「水難の相は待ってくれんぞ!」
後ろから叫び声が聞こえたが聞こえないふりをした。
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