287 閑話 デート(1)
私は今、マルフォイと名乗った商人と大通りを歩いています。
この男は私に一目惚れしたと言って求婚してきた男です。
なんでもとある商会で番頭をしているとか。それがどの位の地位なのかは知りませんが、月に銀貨30枚の稼ぎですからその程度なのでしょう。
そのくせジン様の事を探索者ふぜいと下に見たのです。今日は思いっきり困らせてやります。
「クレアさん、まずはどこに行きましょうか?」
「王都は私はよくわかりませんのでお任せしますわ」
こんなお尻がムズムズする話し方は普段はしません。ですが、初対面の方に普段の話し方をしてはジン様の品位を疑われてしまいます。
「では私の働いている商会を見てください!こちらです!」
自分の働いている商会ですか。よほど自信があるのでしょうね。ですが、今日はこの方には借金まみれになっていただく予定です。同じ借金奴隷というのも乙なものですよ?
連れて行かれたのは大通りから2本ほど入った道にある石造りの建物だった。入り口にはアドモンド商会と書かれている。入ると、受付があり、壁際には板で仕切られたブースが2つあります。
「ここでお待ちください。おい!お茶をお持ちしてくれ!」
マルフォイさんが受付の女性にお茶を頼みます。ちょっと偉そうですね。番頭というのは偉いのでしょうか?
マルフォイさん自身は奥のへやに向かったようで、私は待たされるようです。
「お茶になります」
そう言って受付の方が紅茶を持ってきてくれました。私は奴隷ですのでそれほど気を使う必要はないのですが。まあ見た目じゃわかりませんしね。
特に今日はマリアと一緒に買ったお出かけ用の服をきてきてますし。マルフォイさんの為に着飾るのは気に入りませんが、全てはジン様の為です。ジン様を馬鹿にした分は払ってもらいます。
「お待たせしました。
おい!俺にもお茶を!」
マルフォイさんは商会ではこんな喋り方なんでしょうか?私と話すときと全然違いますね。人格が現れるというものです。
「クレアさん、これを受け取ってください」
そう言って出してきたのは四角い箱。上品な木で装飾されたものです。
「開けても?」
「もちろんです!」
渡されたので、開けてみますが、中身は予想通り指輪でした。多分婚約指輪のつもりなのでしょう。これは受け取るわけには、、、いえ、場合によっては受け取りましょう。
「あの、これはどうやって?」
「はい、昨日はあの探索者が受け取らなかったので、そのお金で買いました。気に入ってくれるといいのですが」
なるほど。家を抵当に入れて借りたお金をこの指輪に注ぎ込んだと。つまりこの人の全財産だという事ですね。好都合です。
「ありがとうございます。本当にいただいてもよろしいのですか?」
「はい!ぜひもらってください!」
対価に結婚を要求されるかと思いましたが、ただくれるというだけならもらっておきましょう。帰ったらジン様に渡して換金してもらいましょう。リリアのドレスくらいにはなるかもしれません。
「それではこれからどうしましょうか?」
「はい、王都を案内しようかと思いますが、どこか行きたいところはありますか?」
「そうですね。あまり王都で着れるような服を持ってませんので、見に行きたいですわ」
私は自分の服が恥ずかしいかのように振る舞います。実際にはマリアと厳選した物ですので私のお気に入りなんですが。
「そうですね!あんな探索者が買えるような服ではあなたに釣り合いません。最高級のドレスをあつらえましょう!」
ドレスですか。動きにくいのは苦手なんですが。まあでもドレスの方が金額が上がりますし、ここは乗っておきましょう。
「それは素敵ですわ。王都ではどんなのが流行ってるんでしょうか?」
「えっと、ひらひらのふりふり?が流行っているようですよ?」
なぜ疑問系なのでしょうか。この商会で扱っている品の説明もありませんし、ここに連れてきたのは商会を紹介するためではなく、指輪を取りに来る為?
いえ、自慢できるような商品を扱ってないのでしょうね。そうでなければもっと色々と案内してくれるでしょうし。
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