286 ティーゲルさんの処分


「クレアさん、愛してます!どうか俺のことをもっと知る時間をください!俺ももっとクレアさんの事を知りたいです!」


「ジン様、少しこの方とお話してもよろしいでしょうか?」


 まあ別にいいけど、そのよそ行きの話し方はまだ続けるの?


「ああ、あと数日は俺の仕事があるからその間なら構わないぞ。デートの費用はこいつに出してもらえ」


 俺の仕事は終わったようなもんだけど、まだフェリス様の方のティーゲルさんの話が終わってないからね。まあこれ以上あの県について調べても無駄だから終わったようなもんだけど。


「では、マルフォイさん、明日一日お付き合いください」


「あ、ありがとうございます!」


 そう言って、ガッツポーズをし、俺に投げつけてきた金袋を持って帰って行った。



「それでクレア、どう思った?」


「誠実そうですが、冒険者、いえ探索者ですか、を馬鹿にするのは許せません。商会で働くのがそんなに偉いんですか?番頭がそんなにすごいんですか?私は冒険者であるジン様を尊敬しています。奴隷なのに自由にさせてもらってますし、今が幸せだと持っています。彼にはその辺をわかってもらいたいと思います」


「どうやってわかってもらうんだ?」


「彼には私を身請けする覚悟を問います。私は明日、高い買い物をたくさん要求します。金貨2枚くらい吹き飛ぶくらいの。それで身の程を弁えてもらいましょう」


「それって冒険者を見直してもらう事に繋がるのか?」


「それはそれ、これはこれです。ジン様を馬鹿にした報いは受けて然るべきです。ジン様なら金貨2枚くらい問題ないでしょう?」


「ああ、別に金貨2枚くらい構わないが、持っていくか?」


「念のためにお借りできますか?彼が借金奴隷になるのはいいですが、私まで巻き込まれるのは不本意ですので」


 クレアも厳しいね。さくっと断れば彼も無事だったろうに。

 あえて高い買い物をさせる事で借金奴隷に落とそうだなんて。そんなに俺が馬鹿にされたのが気に入らなかったのか?

 まあいいか。クレアの珍しいお願いだ。好きにさせてやろう。





「・・・と言うわけです」


 俺はフェリス様と話をしていた。調査の結果報告だ。


「つまりティーゲルの無罪は証明できなかったと?」


「はい、残念ですが、否定できませんでした」


「そうですか。ならティーゲルは犯罪奴隷ですね。ジン様、なんとか出来ませんか?」


 いや、俺にどうにか出来るわけないでしょうに。陛下が決めたんですよ?


「奴隷落ちは仕方ないにしても犯罪奴隷ではなく、借金奴隷とか。それなら数年で買い戻せますし」


「罪の大きさによっては罰金で済む可能性もあるでしょうが、その辺はフェリス様の方が詳しいでしょう?」


「ええ、ですが、私はティーゲルの主人です。私が擁護しても認められないでしょう。ですが、今回の調査を行ったジン様であれば父上も考え直してくれるのではないかと思いまして」


 はあ、そんなにティーゲルとやらが大事かね。


「ティーゲルは小さい時から私についてきてくれた騎士です。今も私が外出する際にはついてきてくれたりもします。平民で言えば幼なじみにあたるのでしょうか。王女と騎士ですので甘い関係ではありませんが、罪もないのに奴隷落ちはかわいそうですわ」


「それなら余計にフェリス様から言われた方がいいでしょう?私が進言してもせいぜい借金奴隷、それも俺の奴隷になるのが落ちですよ?」


「それならそれでいいのです。誰かも分からない人の元で借金奴隷になっては不幸です。

 ジン様なら私に売ってくれるでしょう?」


「私を経由しての身請けですか。まあ別に構いませんが、話に聞くと、奴隷落ちしてすぐに身請けするのは世間体が悪いとか。その辺はどうです?」


「ですからジン様には2年ほどティーゲルをお預かりいただきたいと思っています。2年もあれば私も王宮内での立場を固められますし、借金を買い戻すだけのお金も貯めれます」


 はあ、昨日クレアの身請け話を聞いたばっかりなのにまたこの話か。今頃はクレアもデート中かなぁ。


「はあ、まあフェリス様には恩もありますし、構いませんが、俺はずっと王都にいるわけじゃないですよ?それに連れて歩くのも難しいです。ティーゲルさんがどの程度の力を持ってるのか知りませんが、ダンジョンは無理でしょう?」


「はい。ですので、王都での仕事を言いつけてはもらえませんか?商会を起こすなりしてその運営をさせるとか。何か名目があれば問題ないはずです。手続きなどは私の方でなんとかしますから」


「まあそれでいいです。ですが、陛下が許可されたら、ですよ?」


「ええ、お願いします」





「、、、と言う訳でティーゲルさんを俺の借金奴隷と言う形でお願いできればと思うのですが」


「巫女殿の願いとあればやぶさかではないが、そなたの愛玩奴隷でもいいのだぞ?」


「陛下、私は男です。男に興味はありません」


「ん?何か勘違いしておるな。ティーゲルは女だぞ?」


 え?


「小さい時はフェリスの侍女として支えさせようかと思っておったが、剣の才能があったので騎士に取り立てたのだ。近衛まで出世するとは思わなんだがな」


 そうか。名前から男かと思ってたけど、女でもおかしくはないか。


「それならなおのこと、フェリス様に顔向け出来なくなるじゃないですか。罰金という形を取ってもらえれば私が立て替えて、フェリス様が身請けされるまで預かりますので」


「わかった。では罰金は金貨80枚じゃ。明日にでも手続きをしてくれ」


「ありがとうございます」


「近衛は高級取りではあるが、その分付き合いなどで使う金もかかる。なので財産という面ではそれほどでもない。だから金貨80枚は払えんじゃろう」


 ああ、金持ちは金持ちの付き合いがあるからね。金貨80枚。8000万か。まあフェリス様に恩を返すと思えば安いもんかな。




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