285 マルフォイ
「は、初めまして!俺は狐人族のマルフォイと言います!よろしくお願いします!」
随分と緊張しているようだが、見た目は悪くない。必死さも伝わってくる。でもやっぱりお金を持っているようには見えない。
「じゃあ、マルフォイ、クレアと結婚したいと聞いているけど、間違い無いかな?」
「は、はい。一目惚れです!何度もこの宿に通って話しかけるタイミングを見ていたのですが、先日ようやく決心がつきまして。奴隷だというのは驚きましたが、俺が働いて返せばいい話です。あなたが主人と言うことでいいですか?」
「ああ、俺が主人のジンだ。冒険者、いや探索者をしている。他のはパーティーメンバーだな」
俺が探索者だと聞いた途端にマルフォイの目が冷ややかになった。どうやら探索者に何か思いがあるようだ。
「探索者、ですか?」
「ああ、見ての通り、俺たちは人族だから正確には冒険者だが。探索者だと問題があるのか?」
「い、いえ。問題ありません。
それで、クレアさんを解放していただけるのでしょうか?」
「それはクレア次第だな。お前と結婚したいと言う意思があるのが前提の話になるからな。
聞いたところ、こないだ話しかけたのが、初めてだとか。それで結婚したいと思うか?」
「ですから、まずはお付き合いを、と」
「クレアは戦闘奴隷だ。当然俺とダンジョンに潜る。そうなるとお前の言うお付き合いしている暇もない。どう思う?」
「そこを何とか時間をくれませんか?クレアさんにはもっと俺のことを知ってほしいです」
「俺たちはダンジョンに潜って生活費を稼いでいる。それはいいな?その上でクレアをダンジョンに連れて行かないと言うのは収入が減ると言うことでもある。お前にはそれを補填できるのか?」
「た、探索者が稼ぐお金くらいなんとかなります!どうせ探索者の稼ぎなんて週に銀貨5枚程度でしょう?私は月に銀貨30枚稼いでいます。何回かデートするくらいのお金はあります」
どうやら俺が稼いでいる金額を甘く見ているらしい。
「足りないな。俺のこの間の収入は1週間で金貨10枚稼いだ。人数割しても金貨2枚だ。それすら払えないなら話にならん」
「な!金貨2枚?!そんなばかな!探索者なんて薬草集めてるだけのあぶれ者じゃないか。そんな奴に金貨なんて稼げるわけがない!俺から金を取ろうって腹だろう!?そんな嘘には惑わされんからな!」
あ、地が出てきたな。探索者を馬鹿にしてるのが丸わかりだ。
それにしても他の探索者は週に銀貨5枚しか稼がないのか。それじゃあ大して貯蓄できないだろうに。老後とかどうしてるんだろうね。
「ここに金貨2枚ある!俺の全財産だ!これでクレアさんを解放しろ!」
はあ。金貨2枚ね。クレアの価値はそんなもんじゃないんだが。
「はあ、お金のことはあまり言いたくないんだが、クレアは金貨80枚で買ったんだ。金貨2枚程度で解放できるわけないだろう?顔洗って出直してこい」
クレアが好きになって解放してほしいと言ってるなら考えるけど、一方的に好きになって、じゃ話にならないね。
「あ、あの、マルフォイさんは私のどこが良かったのでしょうか?」
おっと、その話するの忘れてたな。ここはクレアが聞きたいことを聞かせてやろう。
「え、あ、その、全部です!顔の刺青も格好良いと思います。他の方との話し方とかも素敵で聞き惚れてました!」
ほう、刺青も気にしないのか。傭兵だった頃に入れたらしいけど、結構気にしてる風だったからね。
「マルフォイさんは何のお仕事をされているんでしょうか?」
「はい、ある商会で番頭を努めています。先ほども言いいましたが、給与は月に30枚もらっています」
「ご趣味は?」
「月見です。満月の夜が一番好きです。クレアさんと満月の夜空を一緒に見れるようになりたいです」
さすが狐人族。月見が趣味とは。でもクレアの心は動いてないよ?
「普段の休日は何をされてますか?」
はい、図書館で読書をしています。歴史の本が好きで、初代国王様の物語が大好きです」
初代国王ってこっちの大陸に逃げてきたときの国王だよな。どんな逸話があるんだろうか。俺も図書館行ってみようかな?
「では住んでるのは借家ですか?」
「いえ、一軒家の持ち家です。番頭に就任したときに買いました。まだ借金が残っていますが。ああ!クレアさんに不便はかけません!俺の給金で十分に返せますから!」
「全財産と仰っていた金貨2枚はどうやって調達されたのですか?」
「はい!家を抵当に入れて商会主からお金を借りました!」
馬鹿かこいつ。唯一の財産である家を抵当に入れて身請けするって。借金返すだけで精一杯だろうに。クレアを幸せにする気あるのか?
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