280 魔力のない絨毯


 俺の前には1畳ほどの絨毯があった。

 裏返しにされており、そこには確かに何かの魔法陣が描かれていた。


「これは、、、魔力を全く感じないので、魔法陣ではない?いや、でもこの魔法陣の形は、、、」


 俺の目には魔法陣と認識できるだけの要素を備えていると思われるが、魔力を全く感じない。使い切りの魔法陣?聞いた事もないな。

 普通は魔法陣に魔力を込めて魔法を発動する。しかし、魔法陣を書くためには魔石を使った特殊なインクを用いるので必ず魔力を感じる。

 もちろん魔力を感じさせないような魔法をかけておく事も出来るし、それ用の魔法陣も存在する。というか、セットで使われると言ってもいいくらいだ。


 しかし、この魔法陣には魔力隠蔽の魔法陣は描かれておらず、それでも魔力を感じない。つまり、このインクには魔石が使われてないか、使い切られたという事になる。


 魔法陣はあまり使ったことが無いので、魔石の魔力を使い切る状況というのを想像できないのだが。


「この絨毯はあの剣の下に敷かれていたもので、無くなった後に最初に調べられた物です。魔法陣もすぐに発見され、すぐに調べましたが、文献にある転移の魔法陣と近いとしか判らなかったのです。

 巫女殿なら知っているとは思いますが、魔法陣は少し違っただけで大きく効果が変わる事も多い謎の仕様です。なので、傾向が似ているからと言って効果が同じとは言い切れないのが現状です」


 ふむ。どこかの帝国の研究者は似てるからと言って転移の魔法陣だと断定していたが、この人はちゃんと違う可能性を認識している。なかなか優秀な人材のようだ。


「この絨毯のそばに使い切った魔石などの魔力の籠っているものはありませんでしたか?」


「近くには魔法のアイテムもありましたが、、、何か関係あるので?」


「転移の魔法陣に限らず、魔法陣は必ず魔力の供給がないと発動しません。術者が触れて魔力を供給するか、魔石などの魔力を使うかの2択です。

 盗まれた時の状況はよくわかりませんが、誰も入ってないのでしょう?でしたら魔石などで発動したはずです。ですが、この魔法陣には魔力を感じない。ではどこから魔力を供給したのか、と言いう話です。

 近くにあった魔力のあるアイテムが魔力を失っているとかいう事はありませんでしたか?」


「むう、そういう調査はしておりませんでした。すぐに調査します」


 そう言うだけ言って、部屋を出て行ってしまったけど、俺はどうすれば?もう宿に戻ってもいいかな?



 しばらく絨毯を弄んでいると、部屋にメイドさんがやってきて、俺の泊まる部屋に案内してくれるそうな。どうやら今夜は王宮でお泊まりらしい。





「ジン様、お手紙が届いております」


 メイドさんが手紙を持ってきてくれた。


 手紙?この王宮にいる事を知ってるのは俺のパーティーメンバーと王家くらいしかないはずだが。それともあの宮廷魔術師長か?何か進展があったのだろうか。


「え?!」


 手紙を読むと、メアリーからで、リリアが高熱を出して寝込んだと言う。

 今まで発熱で寝込んだ人を見た事がなかったので、この世界ではそう言う病気はないのかと思っていた。もちろんそんな訳はないのだが、身の回りで起きないと異世界の事だと考えてしまうものだ。異世界だけに。


 高熱、高熱か。どんな病気があったかな。ウィルス?菌?熱と言えば風邪が真っ先に思い浮かぶが、高熱という程になるかといえば可能性は低い。普段元気なだけに抵抗力も高いだろうし。


 ならインフルエンザ?あれも風邪だっけか。いや、インフルエンザならもっと他の人もかかってないとおかしい。なんせ学級閉鎖とかになるほどのウィルスだ。G並みに、一人いたら30人いると思え、という病気だ。


 感染症、は最近怪我とかしてないからないはず。


 ならなんだ?!


 俺は高熱という以外に情報がないのに苛立ちながら考える。

 高熱はある程度以上続くと脳にも影響があるという。おでこに冷たいタオルを置くのは体温を下げるためではなく、脳を守るためだ。おでこには太い血管は通ってないので体温を下げるという意味では意味がない場所だ。


 回復魔法ではダメなのか?教会に行けば回復魔法くらいかけてくれるだろう?!いくらか渡してあるのでお金が足りないという事もないはず。


 じゃあ、なぜざわざわ俺に手紙で知らせてきたのか?

 それほど危ないのか?もしかして命に危険があるほどの高熱?生きてる間に会いにこいと?いや、昨日の今日でそこまでは、、、あるかもしれない。


 どうする?今いるのは王宮。夜に外に出れるか?いや、これは行かないと行けない状況だろう。最悪陛下にお願いして王宮を出て宿に向かおう。

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