279 魔法の絨毯?


「ではフェリスも居なくなった所で改めて依頼の話をしようか」


 おや、フェリス殿下からの直接依頼は難しいと言いましたが?


「わしからの依頼じゃ。フェリスには言っておらんかったが、宝物庫にはあってはならない物が見つかっておる。

 それはカーペットの裏に刺繍された魔法陣じゃ。

 知っての通り、絨毯とは長い時間をかけて織られるため、裏地に刺繍をしようと思ったらとてつもない時間がかかる。それを宝物庫から気づかれずに持ち出して加工して、となると、どれほど前から仕込まれてたのやらしれん。

 宮廷魔術師らの研究によると、転移系の魔法陣ではないかという話じゃが、獣人に転移系の魔法が使えるものはおらん。魔法陣というのも古い文献に照らし合わせてもしかして、というレベルのものじゃ。

 お主なら何か類似の魔法陣などを知っているのではないかと思ってな。どうじゃ、引き受けてくれんか?」


「私で分かるかはわかりませんよ?人族大陸でも転移の魔法陣は調査されては居ますが、解明には至っておりません。

 以前人族の国からその類の調査を受けたことがありましたが、転移の魔法陣ではないという結論しかつけれませんでした。

 なので、その魔法陣を見ても判断がつかない可能性の方が高いのです」


「それで構わん。転移の魔法陣でないなら余計に何の魔法陣か気になるところじゃ。

 とりあえず見てみてはくれんか?」


「そうですね。見るだけなら。ですが、調査するほどの時間は取れないと思いますので、見て判断がつかなければそれで終わりということで」


「うむ。仕方ないじゃろうな。それで頼む。

 誰か!宮廷魔術師長のアヴァロンを呼んでこい!」


 アヴァロンって、どこの地獄ですか。



 しばらく待っていると、長い黒髭を蓄えた細身の男が現れた。


「陛下、お呼びと聞きましたが、何事でしょうか?」


「うむ、今解析してもらっている、宝物庫の魔法陣の件じゃ。ここの巫女殿は魔法の第一人者じゃ。我々獣人族もそれなりだとは思っておるが、息詰まっておる今なら新しい意見を聞くのも良いじゃろうと思ってな。

 魔法陣に関して意見をもらってくれ。それで進展があればめっけものじゃろう」


「はっ!

 巫女殿、お噂はかねがね。私は宮廷魔術師長を務めております、アヴァロンと申します。猿人族に連なるもので、引退を希望しているにもかかわらず認めてもらえない老害です」


 自分で老害いうなや。髭もまだ黒いし現役で大丈夫でしょう?


 それに猿人族ね。だからその髭か。一族全員が髭はやしてても不思議はない雰囲気だね。


「ではこちらへ。私の研究室に置いてあります。まずは一度ご覧ください」


 そう言って部屋から出ていくので、俺は陛下に頭を下げてから出て行った。



「それで巫女殿は魔法の第一人者という事ですが、魔法はどの程度まで修められているのですかな?」


 どの程度?風の刃が使えるとかそういう事だろうか?レベルが知られていないこの世界では魔法の習熟度合を知る指標はなかったと思うのだけど。


「おや、知りませんでしたか。人族では判定方法が違うのですかな。魔力水晶で魔力を測る方法の他にも一撃でゴブリンを何匹倒せるかや、どれほどの範囲に影響を及ぼせるかで段階を設けております。

 ゴブリンを1匹倒せるのが一人前。ゴブリンを数匹まとめて倒せるのが一流、ゴブリンの群れ、またはゴブリンジェネラルを倒せるのが超一流です」


 随分と志の低いレベル争いだな。ゴブリン1匹なら一人前?魔術師の入り口では?


「その方法ですと、超一流になると思いますが、人族大陸ではもう少し評価が変わりますね。

 自分で言うのもなんですが、これでも人族大陸いちを自負しております。ですが、ゴブリンジェネラルを倒せる術者は他にも多数おりましたので、それを超一流と呼んでいいのかどうか」


「おお、そうでしたな。我々獣人族は魔力が低いので判断基準が低かったようですな。これは申し訳ない。しかし、その人族の中でも一番とはさすがですな」


 何がさすがなんだろうね。


「それと、探索者ギルドでの事なんですが、、、魔力水晶に反応がないから魔力なしだと言われまして、、、ええそうです。おそらく魔力が大きすぎても反応しないのだと思います」


 詳しく状況を話すと、そんな欠点があったとは知らなかったみたいで、今後の研究の参考にすると言ってくれた。これから人族大陸の冒険者とも付き合うのなら魔力上限がある水晶で全てを測るのは危険だからね。


 王宮の別館と言える場所まで移動し、ある部屋に案内された。


「ここが私の研究室です。宮廷魔術師としての研究室も別にありますが、魔法陣に関しては極秘という事もあり、こちらの部屋で研究しております。

 こちらが魔法陣の書かれた絨毯になります」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る