266 邪妖精


 今から戻れば期限の10日に間に合うはずだ。これでクロードさんの妹さんのプレゼントも出来るだろう。リリアの分は取れなかったが、これ以上時間をかけるわけにもいかない。本気で欲しいならまた取りにこよう。


「さあ、マリア戻るぞ」


「あの、あの魚もどきの素材はどうしましょうか?」


「湖の底に逃げていったからな。今回は諦めだ。それともマリア、お前が潜って取りに行くか?」


「い、いえやめておきます」


 その方が良いだろうね。泳げないみたいだし。






「クロードさん、これで良いですか?」


「おお、これが真珠ですか!ありがとうございます、これで妹に良いプレゼントができます」


 クロードさんは真珠を見て興奮したように喜んでくれた。うーん、リリアの分が取れなかったのは惜しいな。


「では地図の返却をお願いします」


 ちゃっかりしてるな。言われなかったらもらっておくつもりだったのに。




「え、採れなかったんですか?そうですか。仕方ありませんね、希少なもののようですし」


 リリアが落ち込んでいる。クロードさんのが採れたと聞いて自分のもあると期待したようだ。


「つまり私の分もないということですか?」


 メアリーの分はあったとしてもリリアの後だよ。変な期待するな。




「マリア、今回の探索はどうだった?何か勉強になったか?」


「いえ、ジン様の強さを再確認しただけでした。私が手を出す暇がないほど速攻で倒してしまわれるので、私が必要だったのかと疑問に思ったほどです」


「いや、夜営とかするんだし、いた方が良いのは間違い無いだろう?」


「ジン様なら結界で解決できますよね?」


 なんだかマリアが粘るな。本気で拗ねてるのか?


「いやいや、マリアがいてくれて良かったよ。マリアで無かったら魚もどきも見つけられなかっただろうしな。マリアはやっぱり必要だよ」


「そ、そうですか。お役にたったなら幸いです」


 正面から言われて満更でもない様子だ。

 ちょっとマリアを放置しすぎたか?もう少し気にかけてやらないとな。




 探索者ギルドに顔を出してみた。何か素材の募集をしてないかと思ったからだ。

 このまま階層を降りていっても良いのだが、俺の捜索に費用を捻出してくれたセルジュ様には何かで恩返しをしておかないといけない。本人は不要だと言ってくれるだろうが、これはけじめだ。

 物はもらい慣れているだろうから、ここはビシッと現金だ。いや、プレゼントが思いつかないわけじゃないよ?捜索にかけてくれただけの金額相当の物は探すだけでも大変なのだ。使節団に渡すにしても現金のほうが楽だろうしね。



 さて、探索者ギルドだが、一面に貼られている依頼票を見て行くと、面白いものを見つけた。


『幽霊屋敷の調査 解決してくれれば金貨10枚 一晩問題がなかったら最低でも銀貨10枚保証』


 なんだかアンデッドがらみの依頼のようだが、獣人は魔力が少ないので光魔法での浄化も得意ではないのだろう。ダンジョンにあった魔法拡散地帯でもない限り、俺の魔力で浄化できないのはごくわずかな上位アンデッドくらいだ。


 ああ、あのリッチは多分無理だ。リッチが高位魔物であるのも一つの理由だが、おそらく俺よりもスキルの熟練度が高い。

 これはレベルの話ではない。純粋にどれだけ考えて使用したかという経験値だ。あのリッチが何百年生きてるのかは知らないが、少なくとも闇系統の魔法では俺に勝ち目はないだろう。そして、<光魔法>の浄化でも難しいと言ったのは<闇魔法>で対抗されてしまうからだ。反対属性とはいえ、完全には無効化されないだろうけど、減衰させられればリッチという高位魔物の抵抗力で弾かれてしまう。


 まあ、あのリッチは別格だとして、問題は幽霊屋敷だ。


 この世界、幽霊とはゴースト系のアンデッドを指す。つまり、実態のないアンデッドの総称だ。

 ただ、本物のアンデッドの場合もあるが、邪妖精がいたずらしている事も多い。ポルターガイストや血の手形などはその典型例だ。

 この依頼の幽霊屋敷の犯人がどっちなのかは知らないが、アンデッドなら容赦無く浄化だ。しかし邪妖精の場合は少し問題がある。


 邪な妖精とはいえ妖精は妖精。世界の法則に従って存在している存在だ。滅ぼしてしまっても良い物だろうか?


 妖精と魔物は違う。場合によっては妖精の方がたちが悪い場合もあるが、基本的には自然現象だ。精霊と何が違うのかと言われると困るが、精霊の一種ではないかと思っている。


 さて、そんな精霊の一種を討伐してしまっても良い物だろうか?


 まあ、アンデッドなら問題ないから一度受けてみるか。一晩過ごすだけで銀貨10枚だしな。

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