264 魚


 何日かかけて13層までやってきた。


 地図によると、奥の方に湖があるはずなんだが。


「ジンさま、あれじゃ無いでしょうか?」


 前方に水面が見える。

 おお、結構大きいな。ダンジョンの中とは思えない。


 近づくと、距離は無いが、砂浜になっている。浅い部分にも生息しているとの事なので波打ち際を歩いてみる。


「なんだか平和ですね。こんな場所に肉食の魚がいるんでしょうか」


「ギルドで聞いた話だから間違いはないと思うが、自分で確認するのも大事だな。マリア、泳ぐか?」


「ご命令でしたら。ですが、泳ぎ方がわかりませんので、教えてください」


「やっぱやめておこう。いきなり肉食魚のいる場所でやる事はない。

 マリアは海岸線から危険な魚が集まってきていないかを監視していてくれ。俺は少し水に入って貝を探してくる」


 俺はマリアを海岸沿いに残して波打ち際に入る。

 一応裾はまくってあるが、速攻で濡れた。思ったよりも波が高い。


 波打ち際を10メートルほど歩くが、それらしい貝は見つからない。

 もっと深い場所だろうか。


 腰がつくあたりまで湖に使って、顔を水につけて湖底を確認する。

 すると、白くて30センチほどの貝が見つかった。説明された通りの形状なので間違い無いだろう。


 俺は自分のいる周りにある貝を片っ端から採取した。なんせ100個に一個しか入ってないのだ。確率は上げておきたい。


 100個も採取しただろうか。お腹も空いたので、マリアの所に戻ると、火を焚いて昼食の準備をしていた。


「マリア、匂いで魔物がよってくるかもしれないから、今日はスープとパンだけにしておこう」


「了解しました」


 俺はその間に貝の中身の確認だ。


 焼いて勝手に口が開くのを待つのもいいが、それでは時間がかかりすぎる。

 ナイフを口にねじ込んで捻るようにして口を開ける。


 90個も開けたところでようやく真珠が見つかった。

 これが大きいのか小さいのかは知らないが、最低限の収穫はあったという事でいいだろう。


 あとはリリアに頼まれた分か。さらに言えば、出来ればメアリーの分も持って帰りたい。

 俺の不在時に結構動いてくれたらしいからな。プレゼントするにはいい感じだろう。


 それからも貝を採り続け、何百個も無駄にしながら真珠を探す。まあ、真珠のなかった貝は開いたまま、俺のインベントリの中だから時間は進まないが。


「マリア、真珠の採取は終わったぞ。何を見ている?」


「あそこの岩場の下なんですが、何かいませんか?」


「岩場?」


 俺は魔法で視力を強化して岩の方を見る。

 何かいてもおかしくないが、あんな場所にいても無意味だと思うんだが。


「あ、やっぱり何かいます。魚でしょうか?あまり動きがないので最初は気づきませんでした」


 魚か。噂の魔物かな。

 だけど、俺が水面を見ても何も見つからない。


「今も見えてるのか?」


「はい。影しか見えませんが、魚っぽいと思います」


 ふむ。依頼の真珠は確保したから放置して帰ってもいいんだけど、せめて頼まれたリリアの分は見つけたい。


「近づいてくるようなら教えてくれ。俺はもう少し貝を探す」


「わかりました。お気をつけて」


 再度水に浸かりながら貝を探す。

 ここら一帯は取り尽くしたか。なら範囲を広げてと。


 ん?この辺からは水草が生えてるな。ちょっと見通しが悪い。

 でも大きめの貝が転がってるからチャンスかもしれない。


 ズルッ。


 何かが足に引っかかったようだ。足を持ち上げ確認しようとする。

 すると、反対側の足にも引っ掛かりがあり、そして引っ張られた。


 うぉっ!


 俺は片足だったのもあり、あっけなく転んで水しぶきをあげた。


 ズルズル。


 俺の足に絡みついたものが湖の中心に向かって引っ張られていく。

 ヤバイ、両足取られてるから踏ん張りが効かない上に水中だ。剣は役に立たない。


 うぉっ。


 急に強く引っ張られて、俺は水面に顔を出せなくなってしまった。


 ヤバイヤバイ。


 風の結界で空気を確保しないと。あ、もう水中いいるから空気確保できないや。

 とりあえずは水を飲まないように結界を張るが、空気がない事に変わりはない。1分もすれば呼吸が出来なくて終わるだろう。


 魚の影だけに気を配ってたから水草は盲点だった。


 ああ、そうだ、<水魔法>だ。この為に練習したんだから。


 <水魔法>で刃を作り出して足に絡みついているものを切ろうとするが、足から引っ張られているために狙いが付けられない。正面からであれば水草なんて簡単に切り裂けるのに。


 俺はなす術もなく水中に引き摺り込まれていく。


 あ、そうだ。足から魔法使えばいいんじゃないか?別に手からしか魔法が使えないなんて決まりは無かったはずだ。


 俺は足を中心に周囲にばらまくように水の刃を作り出した。


 ちょっと足にかすったが、引っ張ってる力が無くなったのを感じる。

 急いで水面に顔を出して息を整える。


 今のうちに結界を張ってと。



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