261 枕
「それで相談とはなんでしょうか?」
「その前にお聞きしたいのですが、ジン殿は何層まで行かれましたか?」
「6層ですね」
「ジン殿は泳げますか?」
「もちろんです」
「それよりも下層に潜られる予定は?」
「もちろんあります。実力が追いつくかはわかりませんが、出来るだけ下層に行ってみたいと思っています」
「そうですか。では改めてお願いなんですが、13層にある湖で採れる真珠貝を採取してきて欲しいのです。
正確にはその中にある真珠を、ですが」
「真珠ですか。全ての貝に入ってるのですか?」
「いえ、100個に一つと言われています。採取する際も水に潜る必要があるので、滅多に市場に出回りません。今回は私の妹への結婚の祝いとして、真珠貝の真珠で作った首飾りを贈ってやりたいと思いまして」
「確かに100個に一つなら希少でしょうが、無い訳ではないのでしょう?」
「ええ、過去に採取された記録はあるのですが、ここ十年は採られていません。
原因は探索者が泳げないことと、湖に肉食の魚が棲みついている事です。
貝自体はそれほど深い場所にないので採取できるはずなのですが、肉食の魚と戦うのは難しいので、最初から採取しようとはしないのです。なんせ、湖に引きずり込まれたら溺れ死ぬだけですから」
「魚、なんですよね?」
なんだか、湖に引き込まれるとか言ってるけど、魚は引きずり込んだりしない。
「ええ、魚、と言われています」
言われてる?確定じゃないのか。
「何せ、引きずり込まれた者は全員が帰ってきませんでしたので、湖岸から見た影で判断しているのです。
魚に噛まれるならともかく、引きずり込まれるというのがおかしいのは分かっているのですが、見た者は全て魚の影だったというので仕方がありません」
「なるほど。つまり、その魚に引きずり込まれずに100個の貝を採取して真珠を取ってくると。
確かに私なら水中でも戦闘は出来ますが、確実に100個で採れる訳でもないとなると、高くつきますよ?」
まあ、借りがあるからタダでもいいんだけどね。
「承知しております。金貨10枚でいかがでしょうか?」
「期限はありますか?」
「私たちが王都に引き返すまでです。大体10日ほどでしょうか」
「ギリギリですね。ダンジョンの地図があれば問題ないんですが」
「それなら地図をお渡ししましょう。もちろん返していただく事と、複写をしない事が条件ですが」
「それならなんとかなりそうですね。
あ、マリア、お前泳げるか?」
「どうでしょうか?泳いだことありませんので、わかりません」
つまり泳げないと。
「わかりました。その依頼受けましょう。真珠の入ってない貝は売れるんですか?」
「どうでしょうか。近年採ってきた者がいないので、依頼も出てないと思いますが、希少品ということで買い取ってもらえるかもしれません」
まあ売れなかったら自分たちで食べればいいか。
よし、そうなったらとっとと買い物して明日からダンジョン攻略だな。
「では明日から潜りますので、それまでに地図の方お願いします」
「承知しました。今晩には届けさせます」
「マリア、買い物をしてしまうぞ。
途中のオークの肉とか放っていくから食料は多めに買っておかないとな。10日程だから野菜も保つだろうし、買っていくか。
あとは予定通り雑貨を買うぞ。むしろこっちがメインだな」
俺たちは食料を少し買い足して、雑貨屋に向かった。
「昨日も解体用の品を買いましたが、今日は何を買うのでしょうか?」
マリアは何を買うのか想像も出来ないようだ。
「それはな、、、枕だ!」
「は、はい?ま、枕ですか?」
「そうだ、その枕だ。俺はこの大陸に来てから、枕が無いのを不満に思っていた。
だけど、昨日ここで解体用品を買った時に枕を見つけたんだ。これは買うしかないだろう!」
この獣人大陸では、枕をしいて寝るという文化はない。いや、他の人の寝室を見たことがないのでもしかしたら有るのかもしれないが、俺が知る範囲では無い。
なので、枕は無いのだと思ってたのだが、昨日この店で枕が売ってるのをみたのだ。
持ち物制限があるなら我慢するが、俺たちにはマジックバッグも<アイテムボックス>も<インベントリ>まであるのだ。物量に制限がないのなら快適さを追求するのは当然だろう。
「親父、昨日ぶりだな」
「おう、昨日解体用品を買って行った兄ちゃんじゃねえか。何か問題あったかい?」
「いや、昨日枕を打ってるのを見かけてな。これは買うしかないと思ってきたんだ」
「枕?なんだそりゃ?そんなもん扱った覚えはないぞ?」
「え、枕だぞ?枕?昨日はその辺に、、、ない?
いや、昨日、そこの棚に枕があっただろう?!」
「んー、昨日そこにあった物といえば、、、ああー、あれか!
あれは枕なんてもんじゃないぞ?あれはクッションだ。特殊な状況でしか使われない物だが、、、ちょっとこい」
店の隅に連れて行かれて小声で話してくれた。
「あれは出産の時に腰に敷く専用のクッションだ。
中身はただのクッションだが、少し縦長に作られていてな、腰を急激に曲げなくてもちょうど良く支えられる優れもんだ。
子供を産むのは命がけだからな。神殿で祈祷された物だけを使うのがならわしだ。
悪いことは言わねえ。その枕とやらが出産用のものじゃないんならやめとけ。教会を敵に回すぞ」
どうやらマリアの目を気にして小声で教えてくれたらしい。
それにしても出産専用のクッションねぇ。俺の目には枕にしか見えなかったが。まあ、教会で祈祷してるのなら作りはしっかりしてるんだろうが。
枕しにしてるのが見つかったらどうなるんだろう?
「その目は何か企んでる目だな。悪いことは言わねえ。あのクッションを他の目的に使うのはやめておけ」
なんか大変な事になるみたいだ。
王都に戻ったら教会に一つ分けてもらおうかな。教会の許可があればいいんだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます