260 解体の重要性


「はい!二人きりのダンジョンですね!」


 いやに二人きりを強調するな。


「いや、買い物だ」


「はい?昨日買いましたが?」


「ああ、今日買うのは保存食とかじゃない。便利グッズだ」


「はあ、便利グッズですか?」


「戦闘だけしてるなら必要ないものだが、このダンジョンでは素材などの持ち帰りが中心の稼ぎ方だ。解体や採取に必要な専門用具を買っておこうと思う」


 普段素材の回収には剥ぎ取り用ナイフ一本で事足りたが、証明部位の提出ではなく、売れる素材の確保をしようと思ったら、状態の良い素材を回収する必要がある。

 つまり、ナイフ一本で解体した肉や素材では安く買い叩かれるのだ。



「解体用の作業台、吊り上げ用のロープ、ナイフが2種類、内臓を受け止める桶、皮をなめすための油。他には素材回収用の瓶に、、、あとは適当に見繕ってもらえるか?」


 雑貨屋で必要なものを告げると、奥から引っ張り出してきてくれた。


「こんなもんだろう。説明は必要か?有料で教えてやるぞ?」


 雑貨屋の主人が問いかけてくるが、当然説明はきく。道具を使った解体や採取は初めてだからね。少々の出費は仕方ない。


「頼む」


「この解体台はこうやって組み立てて、この部分にロープをかけて、引っ張り上げて解体するわけだ。

 こっちのナイフは2種類あって、肉を捌く用と皮を剥ぐ用だ。皮を剥ぐほうは少し湾曲していて、皮に沿って削れるようになっている。

 皮をなめす時は、油と血をしっかりと拭った後に、この油を薄く塗って馴染ませておけばいい。間違って毛のある方に塗るんんじゃねえぞ。

 商品にするのでないならここまでやっておけば十分だ」


 なるほど、ナイフ一本での解体とは違って色々する必要があるんだな。

 冒険者ギルドではギルド側がやってくれてたんだろうか?




 改めて探索者ギルドで採取の依頼を確認する。


 ゴブリンマジシャンの杖?そんな物何に使うんだ?

 ゴブリンジェネラルの睾丸。ゴブリンキングのは精力剤になると聞いた事があるが、ジェネラルのは何になるんだろうね。

 オークリーダーの鼻水。は?意味がわからん。オークじゃダメなの?というかどうやって採取するんだ?

 オーガの金玉袋。睾丸じゃなくて袋?いやまあ、オーガのだから大きいとは思うけど。


 他にもいっぱい掲示されているが、下の階層で回収できる中でもキワモノを挙げてみた。獣人大陸では自分たちの文化があるんだろう。


 ただのゴブリンには価値はないけど、上級職だと何らかの素材がある。

 ゴブリン系の素材は安いが、手に入りやすい。下層でも日銭にはなるだろう。


 獣人大陸では魔物を倒しただけでは報奨金が出ない。

 地上では特定の地域からは魔物は滅多に出てこないし、ダンジョンの中には魔物が溢れてるので、そんなのを倒すたびに報奨金を払っていたらいくらあっても足りない。


 なので素材の出番だ。ダンジョンで取れる素材をどうやって利用するかの研究が行われており、ゴブリンの素材ですら何かに使えないかと日々研究されているのだとか。

 ゴブリンの肉を美味しく食べる方法、とかも研究されているらしい。あんな筋張っててえぐみのある肉なんて美味しく食べれるわけがないのに。

 なので、何の素材になるかも分からない物まで依頼にあるのだ。


 ちなみにオークリーダーの鼻水は、花粉症の特効薬を期待されている薬の原料だそうだ。まだ確立されていないが、獣人は鼻が効くため、花粉症は人間よりも致命的だ。

 オークでの研究で多少は効果があったかな?というレベルで、ならば上位のリーダーならもっと効果が高いんじゃないか、という事で依頼が出ているらしい。

 そんな事まで把握している受付嬢には関心するね。



「さて、それでは各種素材を入れるための入れ物も調達したし、明日からはダンジョンの再攻略に出発だ。

 マリア、ちゃんと寝ておけよ?寝不足でダンジョンなんて連れて行ってやらないぞ?」


「はい!今日は早く寝ます!」


 うんうん。その目の隈を解消してくださいね。せっかくの美人が台無しです。



「あの、ジン様、私もダンジョンに、、、」


「連れて行かないからな?」


 リリアもダンジョンに行きたそうにしているが、リリアを連れて行くメリットがない。俺を心配してくれるのは嬉しいが、守るだけの人員を連れて行くのはリスクが高すぎる。




 翌朝、前日に早くに寝たせいで、早起きしてしまった。

 下の食堂で紅茶でも出してもらおうか。



「ジン殿、おはようございます」


「クロードさん、おはようございます。今日はどうかしましたか?」


「ええ、ちょっとご相談が」


 クロードさんは俺の救助隊のリーダーで軍の偉いさんでもある。借りもあるので、相談だというなら出来れば力になってあげたい。


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