258 誤解
酒盛りから戻ると、リリアとマリアが待っていた。
貸家は契約を打ち切ったようで、宿屋だ。
「おかえりなさいませ、ジン様」
ダンジョンから戻ってきた後、マリアがリリアを呼びに行ったが、不運にもすれ違ったらしい。なので、戻ってきてから会うのはこれが最初だ。
「ジン様、兵士にお酒を奢るのもいいですが、せめてこちらに顔を出してからでもよかったのではありませんか?」
リリアがおかんむりだ。すぐに会いに来なかったのが気に入らないらしい。
「済まん済まん。勢いで酒場に流れ込んだから、抜けるタイミングがなかったんだ。リリアも酒場に来てもよかったんだぞ?」
「私はお酒に強くありませんので、そういう場は、、、ジン様?!」
突然リリアの表情が変わった。何かに気づいたような顔をしている。何かあったかな?
「そ、その指輪は?!」
うん?指輪?はめてるのはリリアとの結婚指輪くらいしか、、、いやリッチのマシューさんからもらった魔力の指輪をはめてたな。
「そんな!この半年の間に他に女が出来たなんて!ひどいですわ!」
あ、リリア、これは、、、ああ、部屋に行っちゃった。
「ジン様、本当に他に女性を。。。?」
マリアが確認してくる。
「いや、これは魔力の指輪と言ってな、魔力の上昇する指輪だ。ダンジョンの中で見つけてな」
「そ、そうですか。それなら良いのです。ジン様が浮気をするなんて事はないと信じてました」
本当に信じてたら聞いてこないと思う。
翌朝。
「ジン様、昨日は取り乱してしまって申し訳ありませんでした。マリアから聞きましたが、ダンジョンで見つけた希少な指輪だとか。疑って申し訳ありませんでした」
そう言ってリリアが頭を下げてきた。
どうやら昨日のうちにマリアが説明しておいてくれたらしい。
「ああ、それはもういい。それよりも、メアリーとクレアはどうしてる?」
「はい。二人とも王都に戻って使節団の方々や、王家の方と連絡を取り合っています。
昨日のうちに速達でジン様の無事を伝えましたので、こちらに向かってくるかと思います」
速達というのは鳥型の獣人が直接運んでくれるもので、かなり高価なサービスだ。大きな街同士でしかやりとりが出来ないが、地上を馬車で運ぶのとは速度に雲泥の差がある。
信頼性も高く、まず不達という事はないらしい。
「セルジュ様が国に戻ったと聞いたけどどうなってる?」
「はい、ジン様の救助隊を送るにあたって、その費用が問題になりまして。
この大陸では使節団もそれほど余裕がありませんので、国に戻って換金できる資産を調達してくるとか。王家が買い取るらしいので、それなりの品を用意しないといけないと言ってました。
各国から合同で集めるので、国に縛られない聖女であるセルジュ様が妥当だということになりました」
「そうか。セルジュ様にもお礼を言わないとな。各国にも借りができたな」
まさかヤパンニ王国にまで借り作ってないよね?あそこに借りを作るのは勘弁してほしい。
俺も部屋をとり、久しぶりにベッドで休んだ。
リリアが俺の布団に潜り込んでこようとしたが、流石に疲れていたので追い出した。泣きそうな顔をしていたが、許してほしい。
ふう、いい朝だ。
ベッドで休んだので体の疲れが取れている。天気もいいし、今日はリリアを連れて買い物でも行こうか。
コンコン
「どうぞ」
リリアかと思ったら、クロードさんだった。
昨日の今日で何かあったんだろうか?
「ジン殿、昨日の酒代なのですが、酒場から請求がきまして」
請求書を見せてもらうと、金貨23枚と書いてあった。いや、一晩の酒代の額じゃないでしょう?俺は多めに10枚置いてきたのだが、この金額だとそりゃ足りないわ。
普通に報酬払ったほうが安く上がったかも知れん。他にも必要経費はあるんだよね?
「これで払って置いてください」
追加の13枚を渡して払って置いてもらおう。
はあ、今日の買い物は節約しよう。
「ジン様、このブローチ素敵ですわ」
「ジン様、この髪飾りどうですか?」
リリアが買い物を楽しんでいるが、高いのは買いませんよ?昨日の酒代が響いている。
あ、保存食買い足しとかないと。今回のダンジョンで結構消費したからね。<インベントリ>のオーク肉は残っているが、<アイテムボックス>に入っていた干し肉はほとんど食べてしまった。
今回は<アイテムボックス>に干し肉が入ってたから助かったが、なかったら生きてなかっただろう。
あの空間が<暗黒魔法>に特化しているとはいえ、<インベントリ>が使えなかったのは意味がわからない。どちらかといえば反対の方が理解できる。
いや、マジックバッグも使えなかった事を考えれば、魔力を使う<アイテムボックス>だから使えたと考えるべきか。
でも<鑑定>の魔法版が存在することといい、<インベントリ>が使えなかったことといい、今回は勉強になった。命がけだったが、それぞれの特徴が分かっただけでも儲け物かも知れない。
まあ、生きて帰ったから言えることだが。
「ああ、リリア、そっちよりこっちの方が似合わないか?」
安い方を提案してみる。
「そうですか?ジン様がそう言われるならそうかも知れませんね」
ふう、あのアクセサリーは高い。見たらわかる。あきらかに高級品だ。
「あそこのカフェが人気なんですよ」
「ああ、じゃあ、入ろうか」
「あそこに美味しいタルトが売ってるらしいです」
「ああ、じゃあ、買ってみようか」
「あそこは紅茶が美味しいらしいです」
「ああ、じゃあ、一息入れようか」
リリアは俺がダンジョンで行方不明になっている間、甘いものを絶っていたらしい。まあ甘いものくらい食べさせてやろう。
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