257 帰還
ダンジョンを出ると、入り口付近に兵士がたむろしていた。
何か伝令が行き来しているが、何かあったんだろうか?
「ジン様!」
マリアが飛びついてきた。
そのまま胸に縋り付いて泣き出してしまって、何がなんだか分からない。
「マリア殿、こちらの御仁は?」
「あ、すいません、この方が今回の捜索対象のジン様です」
「おや、自力で帰ってきてしまいましたか。
私たちは少し遅かったようですな。我らの力を見せるチャンスだったのですが」
「クロード殿、言い過ぎですよ?」
どうやら俺の捜索隊らしい。
「すまんな、心配かけた。無事戻ったから許してほしい」
「ジン様〜!」
マリアってこんなに泣き虫だっけ?いや、それほど心配描けたということか。
「すまんすまん。ほら、俺は無事だから。な、もう泣き止め」
「そ、そうですね。私、リリア様に知らせてきます!」
そう言って走り去ってしまったけど、この兵士さんたち、どうすれば?
「ジン殿ですな?私は東方面司令官のクロードと申します。
今回はジン殿がダンジョンでトラップにかかって行方不明とのことで捜索隊を任されました。
今回は使節団からの正式な依頼でしたからな。なるべく急いだのですが、自力で戻ってこられてしまいました。これでは報酬がもらえませんな」
「報酬?」
「ええ、使節団から、生きて救助したら白金貨1枚もらえることになっておりましてな。死亡や、1月で見つからなかった場合は必要経費のみ、という約束でしてね。
自力で戻ってきた場合の条件は考えておりませんでした」
「はあ。使節団が。
いや、ちょっと待ってください。俺、そんなに長い間行方不明になってたんですか?」
「ええ、報告ですと、あなたが行方不明になってから半年が経っております。
この街から王都まで連絡がいき、聖女様のお口ぞえで使節団が依頼したと聞いております。
聖女様は費用を捻出するために、一度人間大陸に戻られているとか。
なので、あなたのパーティーメンバーは、この街にはマリア殿とリリア殿しかいないはずです」
なんと、半年も。やっぱあの空間は時間がおかしかったのか。空間だけならいいなと心の隅で思ってたんだけど。
「そうですか。それでしたら私が今晩の酒代を持ちましょう。ここまで来てタダでは帰れないでしょう?」
「そうですか。何やら催促したみたいで申し訳ないですな。
ですが、ここはありがたく貰っておきましょう。兵士にも良い休暇をやれるというものです」
酒代で済ませたのはケチだったかな?まあ、希望者がいたら大人な店代も持ってあげよう。
「いやー、坊ちゃん、今日はごちそうさまっす!ダンジョン潜るってので憂鬱だったのが飲み放題に変わるなんて!俺たち幸せっす!」
犬の獣人が俺にお礼を言ってくる。短い髪にちょこんと犬耳が乗っているのが可愛い。
今は酒場を借り切ってどんちゃん騒ぎの最中だ。中に入れない者は外で飲んでいる。
たまに兵士じゃな奴も酒を頼んでいるが、まあ誤差の範囲だろう。
「いえ、俺の救援に来てもらったのに、酒しか出せなくて申し訳ないです」
「何、これも仕事です、坊ちゃんが悪いわけじゃ無いですよ!」
よいしょしてもワインくらいしか出ないぞ。
「お、ワインですか。ごちそうさまっす。親父!胡椒入れてくれ、胡椒!」
え、ワインに胡椒入れるの?まじ?
「プハー、いやーエールだけじゃなくてワインまで飲めるとは!今回の任務は当たりですな!」
いや、おごると言ったからには、この酒場にある酒ならなんでも飲んでくれていいんですよ?
「ジン殿、そんなに甘やかさないでください。こんなのに慣れたら今後仕事のたびに奢らなくちゃならなくなります」
クロードさんが注意してくるが、あなたが飲んでるのはこの酒場で一番高い酒ですよ?まあ、それを指摘するのも何なので、適当に誤魔化しておくが。
「ガッハッハッハ!俺に腕相撲で挑むなんて百年早いわ!」
これは熊の獣人さんだ。身長は2メートルは超えているだろう。あの体に合う鎧なんて売ってるのかな?
それに熊の獣人に腕相撲で挑むってどんな奴だ?
さっきの犬の獣人さんでした。
ワインで気分良くなって挑んだんだろう。無謀な奴だ。
「次は俺だ!このワインをかけるぞ!」
狐の獣人さんだ。負けるの分かっててやってるのかね?ああ、そうか、そのワインもおごりだし、また注文すればいいだけか。なら気軽に賭けれるわな。
「うぉー、負けた!よし、このワイン持ってけ!」
まあ、結果は分かり切ってたけどね。
「おい、お前ら!明日に響かない程度にしておけよ!朝起きれなくても知らないからな!」
「「へーい」」
返事しつつもワインのおかわりをしているので、明日は二日酔いだろう。
多分クロードさんも分かってて言ってると思うけど。
「明日も任務なんですか?」
一応クロードさんに聞いておく。
「まさか。明日は全員休暇です」
「ならなぜ注意を?」
「休暇を寝て過ごすのもアホらしいでしょう?」
「なるほど」
休日は寝て過ごすのが贅沢なんていう社会人もいるけど、若いんだから休日は遊んだ方がいいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます