238 冒険者用の服?


 東のダンジョンまで結構な距離があるとの事で、入念な準備をする事になった。


 フェリス様が馬車を貸してくれると言っていたのだが、行った後、ダンジョンに潜っている間は預けておくしかないので断った。

 一応マンスムまでの乗合馬車は出ているようだ。俺たちは5人なので一台借り切る形になるだろう。予約は1週間後だ。


 干し肉や干し果物などを買い込み、旅に備える。

 フェリス様にはダンジョンに行くことは伝えてあるので、そっちは問題ない。


 ただ、セルジュ様はやはり使節団との話し合いが必要だという事で、急ぎ引き継ぎを行っている。

 そんなにしてまで一緒に来る必要はないだけどな。



「ジン様、これも良いんじゃないでしょうか?」


 俺たちはくたびれた冒険者服を新調するために服屋に来ていた。大陸を渡って以来、ずっと何着かを着まわしていたのでくたびれているのだ。

 俺はそのままでも構わなかったのだが、リリアが旅の途中で買えないならともかく、時間もお金もあるのにダサい格好はダメだというのだ。


 俺は冒険者の格好なんて動きやすければ良いと思うんだが、何かこだわりがあるらしい。

 大して違いのない丈夫な服を、ああでもないこうでもないと比べている。俺には違いが分からないのだが、縫い目がどうとか言っている。

 趣味の刺繍つながりで縫い方とかが気になるのだろうか。


「こっちはちょっとほつれてますね。でもそこを直して貰えば結構いけるかも」


 だから俺には違いが分からないんだってば。メアリーも縫い目なんて分からないので、リリアだけが頭を捻っている。


「マリア、このリボンなんか似合うんじゃないか?」


「それも可愛いですが、こちらの結び紐の色も良いと思います」


 服屋の隅っこに申し訳程度に置かれていた髪飾りを見ながら暇をつぶしていた。マリアの髪も大分伸びてきたからそろそろ括るか、切った方が良いだろう。


「ジン様、聞いてますか?これを着てみてもらえますか?サイズは合ってると思うですが、こっちとは少し作りが異なりますので、体格に合うか確認してください」


 はいはい。着れば良いんですね。


「うん、やっぱりこっちの方がいいですね。あ、こっちも着てみてください」


 はいはい。着替えますよ。


「うーん、これもいいですね。じゃあ、こっちはどうでしょうか?」


 女性陣のファッションショーも辛かったが、自分が着せ替え人形になるのも来るものがあるな。


「うーん。やっぱりさっきのこれの方がいいかも。。。」


 好きにしてください。



「じゃあ、これとこれとこれとこれとこれにしましょう!」


 買いすぎでは?


「私のお小遣いで買ってあげます!」


 いや、それ昨日俺が渡したお小遣い、、、急に小遣いが欲しいと言ってきたのはこの為か。毎月ちゃんと小遣いは上げているのに追加で欲しいなんていうから何かと思ったよ。

 可愛いところがあるじゃないか。元は俺の金だけど。


 決まったことだし、さあお昼でも食べて帰ろうか。。。え?自分のも選ぶ?そうですか。はい、待ちますよ?いつまでも。


 自分たちの服を選ぶとなって、他の女性陣たちも盛り上がり始めた。

 冒険者用の服ですからね?その見ているのは明らかに街用の服だよね?ひらひらしてますよ。


 あ、そうですか。マリアとクレアも欲しいと。はいはい。そのくらいは出しますよ。奴隷の衣食住は主人の甲斐性ですからね。


「ジン様、これなんかどうでしょうか?」


 前にもこんなやりとりしたような気がする。多分基本の『き』なんでしょうね。今日も『ほ』と『ん』があるのかなー。


「うん、似合ってるんじゃないかな?」


「ちゃんと見てください!どうですか?」


 ひらっと一周回って全身を見せてくるが、俺の返答は変わらない。


「うん、似合ってるんじゃないかな?」


「もう!」


 怒った顔も可愛いですよ。


 そんな感じで夕方、俺たちは王宮に戻った。

 もちろん『ほ』のアクセサリーと『ん』のお茶はありましたよ?


「ちょっと時間かかっちゃいましたね。ジン様退屈だったんじゃないですか?」


 俺は知っている。ここで正直に言うとひんしゅくを買うことを。


「そんな事ないよ。みんなの可愛い格好が見れてよかったよ」


 もともと俺はこんなセリフが言えるような男じゃなかった。だけど俺は学んだのだ。決して正直がいい事ではないと。


「そ、そうですか。可愛かったですか」


 顔を赤くするリリアも可愛い。でもちょっと嘘を言った自分の心が痛くなる。


 服は全部獣人族用に作られていたので、お尻に穴が開いているのが基本だ。もちろんいろんな獣人がいるので、穴の場所はいろいろあるのだが、空いてない服はない。

 なので試着しているときに下着が見えたりするのだ。


 チラリズム最高。

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