237 セルジュ様の実力


「それでセルジュ様、俺は東のダンジョンに向かいますが、どうしますか?

 ここでは聖女としての仕事もあるでしょうし、一人で残っていただいても構いませんが」


「ジン様、神の試練に挑むジン様のお側を離れる訳には行きません。もちろんお供させていただきます。ダンジョンもお任せください。教会でメイスの扱いくらいは習っていますわ」


 うーん、回復魔法は欲しいけど、メイスの扱いはどの程度だろうか。


「セルジュ様、それはメイスの腕を見てからですね。死ぬとわかっていて連れてはいけませんから」


「それもそうですわね。では後ほど私の実力を試していただけますか?」


「ええ、そうしましょう。それいかんでは街に残っていてもらいますよ?」


「ふふふ、それなりに自信はあるんですよ?」


 まあ、実力が足りなければ街に残っていて貰えば良いんだし、軽く実力を見る程度でいいか。



 その日の午後、騎士用の訓練場の隅でセルジュ様と向かい合う。マリアとクレアも見学に来ている。同行する場合、実力を知っているのは必須だからな。


「ではかかってきてください。思いっきりお願いしますね」


 その瞬間、セルジュ様はメイスを大上段に構え、振り下ろしてきた。

 ちょっと驚いたが、横にずれて避ける。


 地面に着いたところを足で踏んで終わろうと思っていたが、驚いたことに腰の高さでメイスが止まり、横なぎにしてきた。


 前に出てセルジュ様に体当たりをするようにしてメイスを避けるが、今のは危なかった。メイスがあんな軌道を描くとは思いもしなかった。


 メイスを空振りした後、俺が離れると、セルジュ様はメイスを下段に構えた。本来メイスはその重量で叩き潰す武器だ。なので上段から振り下ろすのが一番威力が出る方法だ。

 だけど、下段とはどういうことだろうか?


 突然前に出てきたかと思うと、下段のメイスを振り上げてきた。まっすぐに向かってきているので、メイスの速さが分からず、どのくらい避ければ良いのかが判別できない。

 とにかくこの軌道はやばい。頭を狙っているならまだしも、この突進力からして股間を狙っている可能性もある。


 男相手に股間を狙うのは有効な手段だ。ゴブリンもオークも雄ばかりなので、睾丸を潰すのはありだ。俺は潰されたくないので避けるが。


 後ろに下がって避けようとしたが、その分踏み込んでくる。まだメイスを振り上げてなかったらしく、下段に構えられたままだ。このままではいくら下がっても外せない。

 しかし、下段にあるという事は、俺にもできる対策はある。下段にあるうちに踏みつけてしまえば良い。剣と違って刃がないので怪我をすることはない。


「は!」


 俺が踏みつけようと一瞬体重を移動した瞬間にメイスを振り上げてきた。タイミングはバッチリだ。

 このままでは俺の股間がやばいことになる。もしかしたらセルジュ様なら直せるのかもしれないが、安心材料にはならない。あの痛さは男にしかわからないだろう。


 俺は体を前に倒し、手でメイスの取手を抑え、内腿を閉める。手首だけ捻って当てられるだけで俺は戦闘不能になる自信あるからね。


 ほとんどキスをするかのように顔が近くなるが、そんな雰囲気はない。

 セルジュ様はそのまま前に出て、俺に額を叩きつけた。俺も前に出ていたので、カウンターでもらった形になってしまった。


 反動で後ろによろめき、距離を取られてしまった。これで振り出しだ。俺の鼻血を除けば。


 非戦闘職との模擬戦で鼻血を垂らすなんて恥だ。今回の実力を見るという点で、俺は厳しいことを言う資格を失ったと言っても良い。


 セルジュ様の対人戦闘はそれなりの経験があるようだ。問題はメイスの威力だな。

 魔物は皮膚の硬い種族も多い。打撃武器は比較的内部にダメージを与えやすいのだが、それも程度問題だ。人間に有効であっても魔物に有効だとは限らない。


 俺はメイスを剣で受けてみることにした。殴られはしないよ?痛いのやだし。


 セルジュ様が殴りかかってくるのを待って剣で受ける。結構な威力だが、俺が剣で受けれる程度では困る。吹き飛ばすほどでないと。


「セルジュ様、それが最高の一撃ですか?俺を魔物だと思って全力でかかってきてください」


「はっ!」


 セルジュ様が腰を入れた一撃を放ってくる。剣で流さずに正面から受け止めると、なんと受け止めれてしまった。

 これではゴブリン程度ならともかく、下手したらオークにも勝てない。技術はあるようだが、威力がない。


「セルジュ様、そこまでです」


「どうでしたか?!私もやるもんでしょう?!」


「セルジュ様、残念ですが、ダンジョンには一緒には入れません。先程のメイスの一撃では魔物に勝てないでしょう。対人戦の技術はそれなりにあるようですが、威力が全くたりません。

 セルジュ様、身体強化か魔闘術を使えますか?どちらかが使えないと今後も戦闘には加わってもらう訳にはいきません」


「そ、そうですか。結構自信があったのですが。でもそうですね。私の体ではあの威力がせいぜいですから。分かりました。私は近くの街でリリア様やメアリー様と一緒にお待ちしています」


 本当に残念だ。身体強化が使えるだけでも戦闘の幅が広がるのに。教国の指導員は何を教えてたんだ?


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