239 ミスギルの街 公園


馬車が出る日が来た。


俺たちで一台使える事になっているのが、他に2台の馬車が同行する。商人の馬車だ。乗合馬車だけで護衛を雇うのは現実的でない為、商人と合同で移動するのが当然となっている。


街道を進む限りは、魔物はそれほど出ない。なので盗賊対策が主だ。そして盗賊は大きな隊商を襲わない。


今回の商人は5名の傭兵を雇っていた。チーム名はゴブリンの尻尾。ゴブリンには尻尾がないが、獣人は尻尾を誇りにしている部分があるので、ゴブリンにない尻尾をあえて名乗ることで、希少価値を宣伝しているのだ。

例えの魔物がゴブリンな時点で実力は知れたものだが。



東のダンジョンの街に向かうのだが、一旦東南の商業都市ミスギルを通る。商人はこの街でも商売するのだ。

ミスギルの街は交易が盛んで、王都への物資の3割がこの街を経由すると言われている。


俺たちもこの街で3日ほど過ごす予定だ。これは商人のスケジュールに合わせたもので、この大陸では普通のことだ。



「さて、この街で3日過ごすわけだが、どこか行きたい場所はあるか?」


「はい!この街には公立公園があると聞きます。そこに行ってみるのはどうでしょうか?」


「博物館があると聞きますわ。ドラゴンの骨が展示されているので、それを見にいくのはどうでしょうか?」


リリアもメアリーも事前に情報を集めていたようだ。


「マリアとクレアはどこか行きたい場所はないのか?」


「私たちはこの街を知りませんので、何があるのかわかりません。なのでついて行きます」


「同じく」


ふむ。俺の事前調査ではこの街ではうまいスープを出す店があったはずだ。夕食はそこでしようか。


「じゃあ、今日はまず公園に行ってみようか。馬車で体が固まってるから、少し歩くのもいいだろうし」



俺たちは街の中央付近にある公園に向かった。


そこは整然と木が植えてあり、下草も切りそろえてあった。道端には花が植えられ、所々にベンチも設置されていた。


ゆっくりと公園を回っていると、中央付近に屋台が出店していた。


「うまい焼き鳥だよー。秘伝のタレで焼いた逸品だ。今日はフォレストバードの肉だ!安いよー」


秘伝のタレというのが気になる。この世界、塩味が基本だからタレという文化があまり育っていない。ないわけじゃないが。


「おっちゃん、5本頂戴」


「おう!大銅貨5枚だ!」


おっちゃんは鶏肉を刺した串を焼き始め、火が通ったところで瓶に入っているタレをつけて軽く焼き目をつける。


「ほれ、焼き立てだ!うまいからってほっぺたが落ちても知らねえぞ!」


全員で一斉に食べ始める。さすがに串を縦にして食べる者はいない。ちゃんと横にしてタレが服につかないようにしている。

最初の頃にタレが服につくように食べてたのを思い出して楽しくなる。


「お、うまいな。おっちゃん、これは魚の塩漬けかい?」


「お、よく分かったな。魚を塩漬けにして1週間ほど寝かせたもんだ。それを出汁のきいたスープで煮込んだもんだな。おっと、これは秘密だった。言いふらすんじゃないぞ?」


「ハハハ、わかってるよ。食べたくなったらここに来ればいいんだろう?」


「そういうこった。追加はいるかい?」


「ああ、もう5本くれ」


「あいよ!」


魚醤なんだろうが、多分他の肉や野菜のスープが入っている。少し塩味が強いが、タレとしては成立している。


「おっちゃん、ちょっと濃いけど売れてるのかい?」


「おうよ。この街はいろんな種族がいるからな。味の濃いのがいいという種族もいるんだ。そういう連中は街中の食堂の味じゃあ満足できないらしくてな。結構売れてるぞ」


種族が多いとそういう隙間産業も出てくるわけか。


「また食いにくるよ」


「おう、待ってるぜ!」



公園は結構広く、全部回っていたら夕方になってしまった。


公園の脇に植えられている花も場所によって違い、飽きさせないように工夫されていた。これを公的機関がやるのだから福祉?には力を入れてるに違いない。



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