225 騒動
夕方になって屋敷に戻ろうとしたら、前から革鎧を来た冒険者、いやここには冒険者はいないから傭兵か、の格好をした者が歩いてきた。少し手前からフェリス様の方を確認していたので、何かやってくるだろう。それに3人とも鼬鼠人族だ。今のタイミングで来るなら確定だろう。
警戒していると、すれ違う時にいきなりフェリス様に体当たりし、そのまま路地裏に走り込んだ。
なんと、堂々とした誘拐だ。
感心している場合じゃなかった。急いで路地に入ると、奥の方で連れ去られるフェリス様を見つけた。
すぐに曲がってしまったので、慌てて追いかける。メアリー達も後ろについてきている気配があるが、出来れば残って通報して欲しかった。
全力で走って、曲がって、走って、追いかけていると、メアリー達を引き離してしまったようだ。後ろから追いかけてくる気配はない。
路地を抜けたらスラムが広がっており、フェリス様をさらった男達は見当たらなかった。
正面はあばら家で、左右に道が通っている。左右の道を見渡しても男達の姿が見えないので、どちらかに行ったとしたらすでに他の路地に入り込まれているだろう。
念のため正面のあばら家を確認する。扉と言えるか微妙な残骸をどけて中を見ると、ボロを纏ったおじいさんが寝転がっているだけだった。家具もないので隠れる場所はない。
とすると、道の左右のどちらかで、そこそこ近い路地に入ったはずだが、手がかりがない。俺の魔力感知は慣れ親しんだ人の魔力しか判別できない。フェリス様は無理だ。
個人は特定できなくても、急いで動いている魔力の塊がないか確認したが、近くで動いている魔力はなかった。もう何処かの隠れ家に入っているのかもしれない。
途方に暮れていると、サンドイッチをあげた少女が近くのあばら家から出てきた。俺を見ると走り寄ってきて、いきなり手をとって走り出した。
俺はフェリス様を探さなくてはいけないのだが、すでに手がかりはないので、大人しく走ってついて行った。
すると、それほど離れていないあばら家の前に連れていかれ、指を刺された。意味がわからず少女に声をかけると、さっさと走り去ってしまった。なんだったのだろうか?
とりあえず、どうしようもないのであばら家を調べてみる事にする。あの少女もまさか何の意味もなく連れてきたわけじゃないだろう。
扉を開けると、3人の男がおり、フェリス様が気を失って倒れていた。
どうやら事に及ぼうとしていたらしく、フェリス様の上着を脱がされていた。危なかった。あの少女が連れてきてくれなかったらフェリス様の純潔が奪われていたところだ。
男達は俺の姿を見ると、慌てて立ち上がり、殴りかかってきた。
「巻いたはずなのに!」
「このやろう!追いかけて来なけりゃ見逃してやったのに!」
いや、追いかけてくるでしょう、普通。
とにかく殴りかかってきたので、男達を気絶させる。剣を抜くには狭すぎるので仕方ない。それに背後を調べなければ。まあ鼬鼠人族な時点で想像は付くが。
3人を気絶させた後、縛り上げた上でフェリス様の服を整える。ちょっと触ってしまったのは内緒だ。
フェリス様よりも男が先に目を覚ましたので尋問する事にする。フェリス様が起きない事には俺もこの小屋を出れない。男達を放っておくわけにもいかないからね。目を離したら口封じされそうだし。
「さて、お前らはなぜフェリス様をさらったんだ?」
「俺は知らねえな。たまたま目の前にいたからかな?ハッハッハ!」
「ふむ。痛い目を見ないと分からないのかな?」
俺は男の腹を殴った。お互い体勢が悪いので正確に鳩尾を殴るなんてできない。だけど余計に痛かったようだ。ゲホゲホ言ってる。
「さて、もう一度聞こうか?なんでフェリス様をさらったんだ?」
「知らねえな」
俺は目に指を突き入れた。
「だ・れ・に・た・の・ま・れ・た?」
俺は髪を引っ張って顔を起こして聞いた。目が潰れて血が流れているが誘拐犯に人権はない。
「わ、わかった、答えるからもうやめてくれ!ハッシュのやつだ!そこの女をさらって殺せって!
俺たちはその前に少し楽しもうと。。。」
俺は目をえぐり出した。
「それ以上フェリス様を侮辱するのは許さないよ?
ハッシュとやらはなんで殺そうとしたんだ?」
「知らねえ。本当だ!一人金貨1枚で殺しを頼まれただけなんだ!俺たちはこの後とんずらこいてマシューで傭兵やる予定だったんだ!」
殺しを頼まれた『だけ』ねえ。さすがは商業都市。闇も深そうだね。
だけどそれを対処するのは俺の役目じゃない。とりあえずは衛兵に突き出すか。フェリス様起きてくれないかな。
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