226 誘惑


 フェリス様が起きてから男達を衛兵に突き出した。明日まで生きてると良いけどね。少なくとも俺なら証言される前に殺しておく。死人に口無しだ。


 フェリス様には男達がハッシュに雇われたと証言した事を伝えたが、『そうですか』と言っただけで特に対策をする様子はなかった。こうなる事がわかってたんだろうか。



 日も暮れて屋敷に戻ると、代官のゴッズさんが心配していたが、フェリス様は男達のことを言わなかったので、俺も知らないふりをした。一応メアリー達には伝えておいたが、彼女達も言わない方に賛成なようだ。



 翌日、男達の尋問すらせずにロギンズを出発した。フェリス様は本当にあの男達のことを気にしていないようだ。


 各部族の代表も領都マシューで改めて会談を持つということで一緒についてきた。俺としては護衛が大変になるのでやめて欲しかったが、断る理由がないので仕方がなかった。



 夜、夜営をしているときに、猫人族のお姉さんから話があると呼ばれて離れたところに行くと、いきなり俺を抱き寄せ、豊満な胸に頭を抱き寄せた。


「兄さん、男前だからいうけどさ、あたしと取引しないかい?

 殿下にちょっと進言してくれるだけで良いんだ。猫人族を優遇してくれって。そうしたらあんたもあたしと良い事できるって寸法さ。

 別に強制しろってわけじゃない。あんたがちょっと口を滑らせてくれれば良いんだ。それだけでこれを好きにして良いんだよ?」


 俺の頭を胸に抱きながら提案してくる。


 どうやら俺たちが仲良く買い物をしているのを知って、俺からアプローチをかける事にしたようだ。男は俺だけだしね。でもハニートラップの割には計画性がないな。どちらかというと枕営業か?

 まあ、俺が何言ったってフェリス様には影響はないと思うんだけどね。


 だけど影響がないからと言って話を受けるわけにもいかない。


「すいませんが、それは受けれません。俺たちは政治に口出しできませんので」


「口出しなんてとんでもない。ちょっと食事時にでも猫人族の良い噂でも呟いてくれれば良いのさ。別に難しく考えなくても良いんだよ?もっと若い子の方が良いのならマシューで誰か呼んであげても良いんだよ?」


「いえ、そういう意味でもありませんので。この話は聞かなかった事にします」


 俺はそう言って腕から逃れて戻ったが、後ろから罵声が響いた。


「チェッ。インポ野郎が!」


 猫人族はメイドが多かったように思うが、こう言った絡め手が得意なんだろうか。なんかこれが代表だと各地で雇われている猫人族が信用できなくなりそうだ。出来ればこの領地だけの問題であって欲しい。



 フェリス様に一応報告しておいたが、猫人族はメイドも多いが、娼婦も多いらしい。王都ではそれほどでもないが、地方に行くとその可愛さを武器に男をたぶらかしているとか。まあ、女性から見たらそういう表現になるのかもね。男はたぶらかされたくて行ってるんだろうけど。


 俺が誘惑されたと聞いて、リリアが過剰反応していた。


「まさか手を出してませんよね?ね?」


 俺を信用して欲しい。もし手を出してたらこの報告はしてなかったと思う。

 俺は否定したのに、女性陣の目が痛い。俺は無実だ!冤罪を主張する!



 そんな事件もあったが、特に魔物の襲撃もなく、盗賊に襲われることもなかった。獣人大陸は魔物が少ないね。


 俺はと言えば、途中でする事もないので、加護について考えていた。


 俺の加護は『創造神の加護』だ。決して女神イシュタルの加護ではない。なのに女神様がセルジュ様に俺に仕えるように信託を下した。そして創造神様は俺が試練を受けている旨を信託した。

 女神様は創造神様の意思を汲んでいるのは間違い無いだろう。問題は俺が神の試練を受けていることを公にして何がしたいんだろうか、という事だ。俺がスキルを上げるのに教会の支援は必要ない。

 のんびりを旅をしながらレベルを上げていけばいつかは上限に達するだろう。まあ上限があるかは知らないが。


 そうすると、創造神様はスキルを上げる以外に俺に期待している事があるはずだ。教会の支援が必要な何かを。

 いや、教会の支援じゃなくて、俺に危機感を持たせるためかもしれないな。放っておくとのんびりあげれば良いやと、結構時間かけてしまうかもしれないしな。

 あとは、セルジュ様を俺のそばに置く事でいつでも神託できる体勢を取ったとも考えられる。


 別の観点から見ると、女神様と創造神様が別の意図を込めて別々に信託を下した場合はどうだ。

 今この世界に俺以上の戦力はない。と思われる。レベル的には俺が一番なのは間違い無いだろうしね。

 その戦力を何かに使いたい可能性。例えば魔王が現れるとか。それだと両方が神託する必要はないな。どっちかが俺を勇者と認めれば良い話だし。


 とすると、俺の『神に選ばれし者』の称号が必要な事態がこれから起こるというのが現実的か。そしてそれは人族だけでなく獣人族にも協力が必要だと。

 それだと世界を巻き込んでの大きな何かが動き出しているということか。そんなの俺一人で何ができるんだって感じだが。


 せめて魔王とかを一人倒せば終わりって感じのだとありがたいんだけどね。神様、何をさせようとしているのか知りませんが、事前に説明プリーズ。




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