224 買い物


その日の夜は特に何事もなくすぎた。


翌日は街中に出かけるので余計に注意が必要だ。堂々と正面から難癖つけられる可能性もあるのだから。今日はメアリー達も一緒に街を回る予定だ。俺だけでは街中では守りきれない。


メアリーとフェリス様は服屋でキャイキャイと楽しそうに服を選んでいる。視察だったのでは?

その雰囲気に押されたのか、メリーとマリーも隅っこの方で選んでいる。リリアは下着を買いたいようで、2階に上がって行った。

ただ、この街は獣人の街だ。つまり、皆が何らかの尻尾を持っている。スカートには付け根のあたりに尻尾を出す穴が空いてたりして、人族とは合わないものも多い。

しかし、デザインに関しては人族のものよりも多彩で、各種族の民族衣装のようなものもあり、選びごたえはありそうだ。



「ジン様、これなんかどうでしょうか?」


リリアは下着を買ったのか、袋を持っている。そして服も選んでいるのか、袖のないタイプのタンクトップを見せてくる。

ちょっと露出が多くないかな?


獣人族は毛が濃いので露出するタイプの服が多い。暑いのだろう。しかし、それを人族の価値観で見るとはしたなく思ってしまう。


俺がなんとも言えない顔をしているのを察したのだろうか、他のデザインの服も見せてくるが、どれも露出が多い。リリアの肌は俺専用だ。他の男には見せてやらない。



服屋で時間を使ったので、食事でもしようと食堂を探したが、時間が時間なので、どこも混んでいた。そこで高級そうな喫茶店で軽食をとる事にした。決してスィーツが美味しいと聞いたからではない、と思いたい。


俺たちが軽くサンドイッチを食べていると、入り口で揉めているのがわかる。どうやらみすぼらしい格好をした少女が残飯をもらいに来たらしい。店員が、うちには捨てるようなものはないと追い返している。こんな事はよくあるのだろうか?


ソーニャさん曰く、スラムの子供だろうと。教会が孤児院を経営しているが、全ての孤児を受け入れれるわけもなく、スラムには孤児が溢れているという。

獣人は基本的に身体能力が高いので、大人ならなんらかの仕事にありつけるので生きていけるが、子供はそうもいかない。

週に一回くらい教会が炊き出しをしているが、それでは生きていないので、ああやって食事を出している店を回って残飯をもらうのだそうだ。

下町の食堂などではゴミような残飯を恵んでいるそうだが、こんな高級店にくるという事はその争奪戦にあぶれて食べていけなくなったのだろうという。


フェリス様は興味深く聞いていたが、特にこの場で何を言うわけでもなかった。あくまで視察で、対策をするわけではないのだろう。


俺は見かねて、店員にサンドイッチを追加し、その子に与えるように言う。


「お客様、ご要望は承りますが、スラムの者に施してもキリがありませんよ?」


「それでも見てしまった以上放置も気分が悪い。この一食だけでも1日生き延びれるでしょう」


「お分かりの上ならお止めしませんが」


店員さんはあまり乗り気ではないようだが、少女にサンドイッチを渡してくれた。

少女は信じられないと言った顔をしていたが、こちらを見て、勢いよく頭を下げていた。ただの自己満足だが、たまには偽善者を気取るのもいいだろう。

少女はその場で食べずにサンドイッチを抱えて走っていった。



俺たちが食事と甘物で休憩を終わると、次は雑貨屋にいくらしい。雑貨は市民の生活に密着しているのでその商品によって街の生活の水準がわかるという。


雑貨屋でも女性陣はキャッキャウフウフ状態だ。俺は適当に商品を見て回っていたが、それでも時間は潰しきれなかった。これは視察だよね?買い物じゃないよね?


まあ支払いはフェリス様が持つようなので好きなのを選んでくれればいいのだが、俺は居場所がない。

いたたまれなくなって、外で座り込んでいると、前に誰かが立った。


それはサンドイッチを上げた少女とその友人らしい女の子だ。二人ともボロボロの服を着ている。


「あ、あの、さっきはありがとう!妹にも食べさせてあげたの!それだけ!」


姉妹だったのか。妹の方が頭を下げてから姉を追いかけて去っていった。うん、たまには偽善もいいな!



俺がいい気分で座っていると、ようやく買い物が終わったのか、ゾロゾロと出てくる。スラムの少女の事を知らない女性陣は俺が気分良く待っていたのに気づいて不審な目を向けてきたが、今の俺は気分がいい。その眼差しを正面から受け止めよう。



次は武器屋らしい。獣人は身体能力が高いので、体を使った戦い方を得意とするように思えるが、身体能力が高いという事は剣を使っても優秀だという事だ。

力の有り余っているものは大剣を、敏捷に自信のある者は小剣を。それぞれ選ぶのだ。これは人族と一緒だな。


武器に関しても種族差があるらしく、握りの太いものや両手でも使えるようになっている長剣など、種類も多い。人族は体型こそ差があれど、ある程度の範囲に収まるので、それほど種類は必要ない。

これだけの種類を用意しようと思ったら大変だろうに。


武器屋では女性陣のキャッキャウフウフも発動しなかったようで、さらっと見ただけで終わった。この差は一体。視察これでいいのか?!

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