223 部族会議


 アレックス様の領地の境で迎えの護衛と合流した。

 護衛は10人ほど。護衛というよりは案内だろうか。


 ざっと見た感じ、特に手だれはいなかった。まあ堂々と暗殺者が迎えの一団にいるとも思えないけど。


 隊長さんはソーニャさんという狼人族の女性だった。


「フェリス様、アレックス様よりお迎えを任されましたソーニャと申します。これより一月ほどの道程となりますが、精一杯案内を努めさせていただきます。何かありましたら遠慮なく申し付けてください」


「ええ、よろしくお願いします。アレックス卿はお元気ですか?」


「はい。毎日忙しく過ごされています」


 これで挨拶は終わりらしい。

 この後の予定としては、商業都市のロギンズの街を経由して領都のマシューに向かう。ロギンズの訪問は視察の予定に入っているらしく、そこで数日過ごすようだ。


 俺は護衛として同行するが、他のパーティメンバーは自由にして構わないとの事。メリーとメアリーは何を買うかで盛り上がっている。君たち、獣人国の通貨持ってないよね?



 10日ほどしてロギンズに到着した。結構大きな街で活気があり、さすが商人の街だ。

 メアリーに金貨を渡し、適当に過ごすように言っておく。



 ソーニャさんの案内で代官のいる屋敷に案内されて、挨拶をうける。


「フェリス様、ようこそいらっしゃいました。代官のゴッズと申します。お見知りおきを。

 これから3日ほどかけてこの街の商業ギルドや各部族の代表と会談を設けております。他にも何ヶ所かの視察を。他にもご要望があれば用意させていただきます」


「それで結構です。実際の街の様子も見たいので、徒歩で街を回る時間を作ってもらえますか?雑貨屋や服屋、武器屋なども見たいと思います」


「了解しました。最終日にご案内しましょう。案内にはソーニャをつけますので、なんでも聞いてください」


 ソーニャさんはもともとこの街の警備隊長らしい。



 商業ギルドの代表との会談はあっさりと終わった。商売に関しては実地で見た方が分かりやすいので、代表から聴ける事はそれほど多くなかったのだ。

 街の特徴なども語ってはいたが、商業都市なら当然の内容ばかりで、何が特産かわからなかった。商人としてこれぞ、という商品がないのはどうかと思う。


 各部族の代表との会談では、奴隷狩りの問題に関しての不満が噴出した。

 彼らは領都で行われる予定の代表者会談にも出席する予定だったのだが、待ちきれずにこの街での会談を申し込んで来たのだ。

 主張したいのは奴隷狩りに対する対策として、各部族での警備隊を作りたいだとか、そのための国からの補助金が欲しいなどだ。


 だが、各部族の警備隊を認めてしまうと、武力を持った集団を形成されてしまう。なので、出来るだけ断りたいところだ。しかもその資金が国の出費となれば、ただ単に国が制御出来ない武力組織に金を渡す結果になってしまう。


 フェリス殿下は今回の交渉がうまくいけば奴隷狩りはもう起きない事を説明し、なんとか穏便に済ませた。

 部族毎の部隊を認めるなんて、アレックス様の治世を信じてないと言ってるようなもんだしね。


 だが、納得の行かなかった部族もいたようだ。鼬鼠人族(いたち人族)の代表で小柄で痩せた男だ。会話にも加わらず、最初から不機嫌な顔をして座っていた。

 あれだけあからさまに不機嫌だと演技ではないかと思うほどだ。


 鼬鼠人族は商売に特化しているらしく、このロギンズの街では有力者らしい。金に汚く、商売を成功させるためには苦労を惜しまない。商人の鏡のような部族だ。だけど、商売のために裏の仕事を持っているものも多く、信用ならないと言われている。


 鼬鼠人族は言った事は守る、だけど言わなかった事には注意せよ。


 これが一般の人の見解だ。わざと誤解させるような言い方に気を付けろという事だ。詐欺のグレーゾーンを地でいくらしい。


 その話術の得意な部族が交渉事で何も言わないのは不気味だ。


「鼬鼠人族は何もありませんか?」


 何も言わないのを不審に思ってか、フェリス様が問いかける。


「何もない。さっさと会談を終わらせてもらおう」


 取りつく島もない。これが商人の対応だろうか?明らかに敵意を持っている。


「何もないなら私からは終わりです。他に何かありますか?ないならこれで解散させていただきます」


 一応の話はついたらしい。俺もずっと立っていたので、少し座りたい。



「ジン様、鼬鼠人族には注意してください。あれだけ表立って嫌われている以上、逆に怖いです。鼬鼠人族ならこの場では友好的にに対応して暗殺者を送り込む方が分かりやすいですから。この場であれだけ不機嫌な様子を見せているのが本気なのか疑わしくなってきました」


「暗殺者は私の方で警戒しますが、毒にはお気をつけください」



 幸い泊まる部屋は石造りで窓も小さい。入り口さえ警戒しておけば暗殺は大丈夫だ。俺の部屋は隣なので、扉の近くで寝てれば侵入には気付けるだろう。俺の魔力感知は距離を縮めれば対策用の魔道具を使われても感じ取れるはずだ。



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