222 教義


 移動中はそれほど問題なかった。

 獣人大陸では魔物が少ないのか、特に襲われることもなかったし。盗賊も出なかったので、正直何から護衛すればいいのかわからないほどだ。つまりは、アレックス様からの襲撃以外には警戒するべきものが無いという事だろう。


 アレックス様は正義感が強そうに感じたが、王家に逆らうほどの理由があるのだろうか。平民からすれば奴隷狩りに対応してくれない王家より、毎回助けに来てくれるアレックス様を贔屓にするのはわかるけど。


 考えてもわからないので、移動の最中は文官のサヴォイさんとの交流に充てた。具体的には獣人大陸の歴史を教えてもらっていた。


「それではこの大陸に移動してきた頃の資料は残っているんですね?」


「はい。ただ、残っているのは移動してきた後の事になります。人族の大陸から移動する際にはできるだけ荷物を減らす必要がありましたので、本などは持ち出せませんでした。なので、移動した人たちが覚えていた事を文書に残した形になります」


「その資料は俺たちでも見れる物ですか?」


「申し訳ありませんが、王家が管理していますので、平民が知っている程度の情報しか教えれません。

 ただ、私は一部を読んだことがありますので、答えれることなら答えましょう」


「では、人族の大陸に攻めてきたとされる、魔族というのに関しては何か情報はありますか?」


「そうですね、魔族がいた、というのは資料として残っています。ですが、なぜ攻めたのか、戦況がどうなったのか等の話はわかりません」


「それでは魔族が存在したことは間違い無いのですね?」


「それは間違いないようです。魔族とは魔力を豊富にもち、肉体的にも強く、戦闘では一騎当千の働きをしたとか。ただ何故か数が少なく、指揮官として魔物を率いていたそうです。

 魔族が大陸に渡ったときは魔物を連れていなかったという記述もありました。どうやったのかは知りませんが、人族大陸に攻め入ってから魔物を使役、増殖させたと言われています」


 ふむ。これからすると、魔族は魔物を繁殖させる事が出来るのかもしれないね。それに言葉を解さない魔物を率いる力があると。

 まあ、テイムや召喚という方法がある以上、不可能では無いか。


「人族の間では魔王という存在が謳われていますが、獣人族にもそういった存在は伝わっているのでしょうか?」


「そうですね。魔族をまとめているのが魔王だったと言われています。ただ、魔王の噂はあったそうですが、具体的な身体的特徴や能力などは伝わっていません。

 我々の祖先は魔王との戦争の最中に人族から戦闘奴隷として使われそうになり、拒否して戦ったのですが、負けそうになりこの大陸に移動してきたとされています。

 獣人はほとんどが移動したはずですので、今の時代、人族大陸には獣人はいないんじゃ無いでしょうか」


 種族毎移動したと。多分獣人の国がもともとあったのだろう。でないと全員で逃げるなんて出来ないはずだ。


 人間の国に獣人との歴史が伝わってないのは何故だろうか?魔王の話が残っているのだから、同時代の獣人の話が残っていてもおかしくないはずだが。。。

 獣人が逃げ出したのは戦争の早い時期だったのかもしれないね。

 それか当時の国が獣人に関する資料を破棄したか。


「それでは戦王という名前に聞き覚えは?」


「ありませんね。魔王の配下でしょうか?」


「いえ、魔王を倒したという魔族です」


「魔族が魔王を倒したのですか?」


「そう伝わってますね。なので、戦王が何者かが気になるのです」


「お力になれずすいません」


「いえ、また話を聞かせてください」



 と、こんな感じで話を聞いていった。



 獣人が大陸を移動した際に状況は何となくわかった。戦王に関しては分からなかったが、獣人が人族大陸にいない理由はわかった。




 なら神話に関して聞いてみるか。


「獣人の間では創造神様を祀っているようですが、女神様の扱いはどうなっているのですか?」


「教会は創造神様を主に祀っていますが、他の神を否定しているわけではありません。創造神様の脇にはちゃんと何体かの神像が祀られています。確か、女神様も祀られていたはずです。

 我々獣人族ははるか昔から創造神様を祀っていたと言われています。我々のような人と獣の間の子のような種族が生きていられるのは創造神様の加護のおかげだと。こんな中途半端な種族を生み出したことには意味があるに違いないと。

 そんな想いを込めて創造神様を祀っています」


「それでは教義はどうなっていますか?」


「それほど目立つ教義ではありませんよ。普通に盗みや殺人をしない、神を敬う、差別をしない、などですね。特徴がないのが特徴かもしれません」


「差別をしないというのは、やはり、いろんな種類の獣人がいるからでしょうか?」


「そうですね。種族ごとの特徴はありますが、それで差別はしません。得意不得意がありますので区別はしますが」


「神々の間の関係はどういう風に伝わっていますか?」


「創造神様の元で複数の神々が世界を見渡している感じでしょうか。女神様もそのうちの一柱に当たりますね」


「それ以外には伝わってませんか?」


「それ以外に何があると?」


「それもそうですね」


 どうやら俗世宗教ではなく、倫理を説く宗教らしい。獣人の間では一般的らしいからその方が受け入れやすいのかもしれないね。



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