221 護衛依頼


「さて、警護の者を見つけれたジン様に、一つお願いがあります。

あなたのその警戒心を見込んでの事ですが、護衛をお願いできないでしょうか?


私は今度、西の領地、アレックス様の収める地に視察に行く事になっています。視察自体は以前から決まっていたのですが、奴隷狩りの件でアレックス様の領地内が荒れています。

そこで、西の領地までの護衛と滞在時の護衛の両方をお願いしたいと思っています」


「騎士を連れて行く訳にはいかないのですか?」


「あくまで視察ですので、それほどの兵士は連れいけません。奴隷狩りの件でアレックス様もそうですが、王家にも不平を感じている者が多いのです。対策出来なかったのかと。

お呼びした皆様の中でも最も警戒能力に優れたジン様に直衛をお願いできればと思っています」


「それは冒険者としての依頼という事でいいですか?」


「申し訳ありませんが、この獣人王国には冒険者制度はありませんので、直接依頼となります」


「それで、具体的には何をしろと」


「道中は魔物や盗賊からの護衛、現地に着いてからは民間人、もしくはアレックス様の手の者からの護衛になります」


「獣人王国も一枚岩ではないという事ですか?」


「はい。お恥ずかしい話ですが、獣人族は王家を頂いてはいますが、求心力はそれほどでもありません。

 純粋に強いから虎人族が王家としては納めていますが、他の種族が心底納得して従っている訳ではありません。

 条件さえ整えばクーデターが起きる可能性を秘めています。これは獣人族が王国制に馴染んでない事が原因です。

 基本的に、同族で集まっていた集落がまとまるために虎人族を担ぎ上げただけで、どの種族にもチャンスはあったのですから。そして、今も虎視眈々と狙っている種族もあります。


 今ここで、私が暗殺なり何なりで死ぬか、拐かされて捕まってしまうなどが起きると、クーデターの火種になりかねないのです。


 ですが、迂闊に刺激を与える訳にも行きませんので、騎士ではなく、ジン様にお頼みしたいと思った次第です」


「アレックス様も虎人族だったと思うのですが・・・。まあいいです。


 俺は冒険者です。依頼に見合う条件と報酬さえ用意してもらえれば、仕事としてやるのもやぶさかではありません。

 ですが、この大陸には冒険者ギルドがないので、いくら受けてもギルドランクは上がりません。その分も報酬に含まれるのであれば受けるかもしれません。

 それだけの条件を出せますか?」


「ええ、少なくともこの大陸で使える貨幣で白金貨1枚を約束しましょう」


「期間などの条件は?」


「南西の領地に向かうのに3ヶ月、往復で6ヶ月ですね。そして、視察が2週間ほどです。これは多少前後しますのでご了承ください。

 それと他のパーティメンバーも一緒で構いません。パーティへの依頼と言った方がいいのでしょうか?冒険者制度を理解しておりませんので、この辺はわからないのですが。


 この条件で受けていただけないでしょうか?」


 この大陸の現金をもらえるのは大きい。それも白金貨1枚だ。半年の報酬としては破格だろう。Sランクの半年としては少ないが、ここは冒険者ギルドのない異国だ。


 他のメンバーをチラ見するが、どうやら俺に判断を任せてくれるようだ。全員が俺の方を見ている。


 ふむ。報酬は十分、内容に問題はなし。問題は半年の期間か。


「追加で報酬をもらってもいいでしょうか?」


「なんでしょうか」


「この国の観光地に関する情報をまとめた資料が欲しいです。地方の特産物や、観光スポット、独自の料理や風習などです。それとそこに行くための身分証を」


「それは構いませんが、それが報酬となるのですか?」


「ええ、俺の目的は観光ですので。依頼を受けるならその為になるのを条件としたいのです」


「わかりました。資料は視察に行っている間に用意させておきましょう」


「ならば契約は成立です。いつから向かいますか?」


「来週を予定しています。他の文官も同行するので、4日後くらいでしょうか。正式に決まったらお知らせします」




 これで半年後には獣人の国を観光できる。

 正直獣人が見れただけでも来た甲斐はあったが、他にも見れるならこの際に見ておきたい。一度人族大陸に戻ると、いつこれるかわからないしね。



 予定通り4日後には視察に出発した。



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