215 獣人の暮らし


 セルジュ様経由で各国の話し合いの経過が聞けた。

 基本国交を結ぶ方向ではあるが、今まで交流がなかったこともあり、すぐには無理だとのこと。互いに外交官を送りあって、少しずつ交流を深めていくことになるそうだ。


 国からは正式に人間の大陸が発見されたことが発表された。

 国交に関しては明言されなかったが、今後、人間が国内を歩く可能性があることが告知された。


 これで俺も街を見て回れる。


 セルジュ様が外出すると大掛かりな警備がつくので、俺たちだけで外出した。俺も本来は警護が必要な身分らしいが、教会内だけでの話だし、公式な身分としてはただの護衛だからと警護は断った。代わりに案内人として神官のジミーさんがついてくれた。

 馬車を出してくれたのはいいが、創造神様の紋章がついている。明らかに教会だとわかるよね。


「ジン様、どこか見たいところはありますか?」


「では、雑貨屋から見せてもらえますか?」


「雑貨屋ですか?」


「ええ、雑貨屋はいろんなものがありますが、その国で必要なものが置かれています。なので、どんな生活を送っているかがよくわかります。その後は食料品ですかね」


「わかりました。王都で一番大きな雑貨屋をご案内しましょう」



 案内された雑貨屋は大きく、貴族の屋敷かと思うほどだった。流石に王都で一番の店だ。


 雑貨屋には鍋なども置かれていたが、半分ほどは魔法具だった。


「ジミーさん、魔法具が多いようですが、獣人の方は魔法は得意ではないのではなかったですか?」


「ええ、それほど得意ではありませんが、何せ国土が広いので、人数はそれなりにおります。なので、国の方で適性のあるものを探して教育して作らせております。<付与魔法>と属性魔法が使えれば簡単な魔法具は作れますので」


 そういえば、この大陸の大きさは知らないけど、最初に上陸したのは南西の街だった。そこから王都までが馬車で80日。人間の国なら80日あれば横断できてしまう。

 当然人口も多いのだろう。着火やコンロなどの魔法具や水を出す魔法具などはレベルが低くても作れる。国策として一般化しているなら生活水準も高いのかもしれない。


「魔法具の専門店というのはないのですか?」


「昔は全て専門店が扱っていたようですが、魔法具が一般化してからは雑貨屋などで扱っています。なので、専門店は貴族用になります。こちらは高級品を主に扱っています。分かりやすいところで言うと、冷蔵庫などでしょうか」


 よほど一般に普及しているようだ。と言うか冷蔵庫作れたんだ。

 魔法具に関しては人間よりもよほど充実している。他の雑貨に関してはそれほど目新しいものはなかった。


「<付与魔法>は私でも習えるのでしょうか?」


「国が管理してますので、難しいかと思います」


 一応聞いてみただけだ。うん。




 その後、食料品を扱う店の多い通りに案内され、少し歩いてみた。周りからは不審の目で見られたが、ジミーさんがいるおかげか特に絡まれることもなかった。


 食料品は新鮮なものが並び、調味料も充実していた。胡椒の値段が塩の倍しかしない。人間の国では10倍ほどする。これだけ調味料が充実しているのに、なんで薄味なんだろう?


「ジミーさん、かなり食料品が充実していますね。特に香辛料が充実しているように見えますが、なぜ食事は薄味なんでしょうか?」


「薄味ですか。私どもは普段からあの味に慣れておりますので、特に薄味だとは感じませんが、人間の方には薄く感じられたのですね。料理人には言っておきましょう」


「いえ、あれはあれで美味しかったので問題ありません。もしかして獣人の方は味に敏感なのでしょうか?」


「そうですね、人間の方の味覚はわかりませんが、味にうるさいものが多いのも事実です。香辛料を効かせるよりも出汁の効いたものの方が好まれます」


 なるほど。それなら確かに香辛料は邪魔だな。出汁の味がわからなくなる。薄味になるはずだ。

 俺も日本にいた時は出汁を中心にした味に慣れてたはずだが、この世界の味に慣れてしまったのかもしれない。


 この国の貨幣価値も教えてもらった。

 人間の国と大して変わらない。単位がスートでなく、ゴルダという名前が違うだけのようだ。ただ、食費は安いらしく、暮らしていくだけなら人間国の7割程度の金額で暮らせるらしい。

 国土が広いので、食料の生産も盛んで、開墾にも牛などが使われ、人間国よりも一人当たりの耕作面積が広いらしい。そりゃ安くなるわ。


 ただ、広すぎて把握できていない土地も多く、特に東の方は獣人以外の亜人たちが住む地があるくらいしかわかっていない。自分たちの土地で満足しているので、調べる必要を感じていないらしい。

 獣人ってもっと好戦的なのかと思っていたら、人間よりよっぽど温厚だし、欲も少ない。


 アレックスさんなんかは今にも殴りかかってきそうな雰囲気だったが、あれは奴隷狩りの事でいっぱいだったのだろう。



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